紙の本
人の多様性が都市の画一化を進めるという矛盾
2009/05/17 03:16
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:simplegg - この投稿者のレビュー一覧を見る
都市にとって最も重要な要素である“多様性”.この観点から出発すると人間工学的に“正しい”“画一的な”都市へと到達してしまうという矛盾.
本書で示されるこの帰結は,少なからず僕に衝撃を与えるものだった.
もう少し詳しく説明すると,現代社会では,様々な観点で(思想的に,身体的に)多様な人々を受け入れることが求められる.(多様性こそが経済のエンジンだという議論もある.⇒リチャード・フロリダ「クリエイティブ・クラスの世紀」)すなわち,物理的に誰かを排除するような都市の設計,個々の建物のデザインは難しい.ここで出てくるのが人間工学的な考え方(例えばユニバーサル・デザイン).この考えは許容する人の範囲は広い.それも工学というイデオロギーと結びつきづらい領域の話であるので,反論は難しい.最低限の,清潔,安全,防災といった話には誰もが賛成するだろう.むしろ,人々が自発的に求めるものですらある.従って,この論理の下では,どの都市も似てきてしまう.
「都市が画一化している」という議論は,経済的な側面で説明されることが多い(例えば,「新・都市論TOKYO」 を参照).しかし,上記で挙げるような理由からも画一化は説明されるのだ.そして,どうしてこれが衝撃だったかと言うと,経済的な話よりも,身の危険を遠ざけるという話の方が人にとって根源的だと考えるためだ.
かつては,文化人街といった富と文化階層がダイレクトに都市の外面と結びつく街もあったが,現在では,IT化によって富と文化階層が分断され,都市の外面へ現れることが少なくなったという指摘も面白い.即ち,かつては良くも悪くも富と文化水準は結びついていたが,現在,富を持っている人が必ずしも文化水準が高いとは言えないのではないかという指摘.文化水準というのが何を意味するのかはよくわからないが,お金持ちもジャスコとかユニクロとかを使うことに違和感がない.高級マンションとして再開発された地域の生活を支える店としてジャスコが併設されたりってのが平気で行われている.また,下北沢や秋葉原といった趣味の都市として短い歴史ながらも個性を持ってきた街も,訪問者によってその個性が規定されており,住人が本当にその個性を好ましいと思っているのかも定かではない.従って,秋葉原の大型開発が個性を壊すといっても,下北沢の道路整備に関しても,単に訪問者のノスタルジーで反対するのは難しく,人間工学の論理にのってしまうのも不可避なのかもしれない.
都市を歩くのも,都市を考えるのも好きな僕にとっては,こういう議論はとても寂しい.先に述べた現在の都市を支配する原理を認めつつも,これを不可避としてあきらめるのではなく,どうにかしたいと思う気持ちが大きい.本書でも北田さんはどうにも諦めきれないところがあるらしく,どうにかしたいと述べている.また,土木という(工学的に)ハードの面から都市を考える必要があるものとして,社会思想と技術の折り合いをどうつけていくかを考えねばならないだろう.
本書は,若手の社会学者,批評家の2大スターの対談とあって,かなり賛否両論があるみたいだが,一読の価値はあると思う.この書評で触れたのはほんの一部で,内容も多岐に渡るので,様々な人が読んでも面白く読めるのではないか.そして,読後にはそれぞれ複雑な心境になるだろうが,そこを考える出発点としてみるのもいい.
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私とも年代が近い二人が、東京から格差やナショナリズムまでいろいろ書かれた対談集。「16号線」「ジャスコ的」などのキーワードが軸に書かれている。
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2007/2/5読了
ふたりとも面識がある同学年(東氏は中高の同級生、北田氏は大学時代の友人の友人)。
16号線的郊外、ジャスコ的郊外といった感覚はよくわかる。
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北田暁大は「嗤う日本の「ナショナリズム」」以来。この人の視座は独自のものがあると思う。東浩紀は名前だけは知っていたが、これが初読。いきなり対談から、というのもどうかとは思うが、センスの良さは感じられる。
同年代ということもあって、贔屓目で見てしまっているのかも知れないが、「学問」としての枠組に縛られていた知のあり方に、現実との結びつきを与えていけるだけの力量を備えていると思わせる作だと思う。76世代のひとつ手前の彼等/我等がこれからどこまで、何を作り出していけるか。
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例えば日本そばを日本国民全員が食べなくなって、みんながマクドナルドをお昼に食べるようになるとしたら。
そこで日本そばを守ろう!という主張は論理的に正しいのか。
東浩紀は、正しくないと思っている。
北田暁大は、正しいと思っている。
郊外のサッカークラブを考える上でも非常に示唆的。
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「郊外の"ジャスコ化"は是か否か」からスタートして、「環境への順応か志への再帰か」という話へ展開していくなかなかオタクな一冊。
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2007.04 自身の理解力不足か!全体として何が言いたいのか?少し理解しずらかったが、各章の個々の対談内容は深く、とても興味深いものであった。もう一度しっかり読んでみようと思う。
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東京近郊育ちのアッパーミドル団塊ジュニアの生態や感覚がありありと浮かび上がる本。彼らが大人になるまでの30年をかけて、東京近郊の状況が階層的・地域的に広がったんだなーと理解できる。
東京での住まいについて考えている自分的に、面白く読める本だった。
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最初は、中目黒や西荻や下北沢、そして渋谷や六本木など、見知った土地の話なので興味をそそられ読み進めたが、だんだんと「なんだ、頭のいい人がただ話し合っているだけか」という印象になっていってしまった。あと、東京は、もっと広いとおもいます。テーマパークでも国道16号線沿的でもない東京もあるよ。あるでしょ。あるよね?
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東京あるいはそこから派生して郊外である横浜の街をいろんな視点から論じている本。
建築を学ぶ者としてこういった社会学的な視点で書かれた本をどう読むかといったことはとても難しい。
基本的にはこういった言説の果てには建築あるいは建築家に対する懐疑があり、ひいては不要論もあるが、そこへの打開策はいくつかある。
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30代の若手研究家二人が、東京について語る本。
社会学とかになじみのない人は、多少取っつきづらいかもしれません。
でも、不思議な共感と安心感はあるかもしれません。
たぶん、読む人によって、感じ方が全然違うのではないでしょうか?
ちなみに、私はこれを読みながらこんなことを考えました。
景観まちづくりが注目を浴び、色や高さの規制が各都市で検討されてます。
心配なのは画一的な規制に流れること。規制がゴールになること。
景観を記号論でとらえすぎたり、まちの物語をテーマパーク化してしまうと、
こぎれいだけど物足りないまちになってしまうんじゃないでしょうか。
最近、いろいろなまちを歩いていて「面白いな」と思う地域は、
法的な景観規制の強いところより、「社会規制」のかかっているところです。
東京の私鉄沿線の商店街であったり、
京都の寺と混在した普通の住宅地であったり、
博多天神・中州の歓楽街であったりします。
まあ、土地利用はさまざまですね。
ちょっと小汚い部分もあるけど、これからの物語を予感させる懐の深さが、
都市にはあってほしいものです。
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気鋭の哲学者と社会学者による、東京をテーマとした都市論。私は関西出身だけれども著者と同じ世代に属するので、団地や郊外のライフスタイルといった都市の原風景が重なる。個人的に共感できるところが多い。
ジャスコ的なものが全域化しているのは、「私たちはもはや、物理的な都市には適度に安全な消費の場しか求めていない」からだとか、「東京というのは、そういう(下北沢、高円寺・西荻窪、秋葉原、青山・表参道など)多様なサブカルチャーでモザイク型に塗り分けられている都市」など、経済学や都市計画とは違った視点からの捉え方は刺激的だ。
結局「個性ある若者の街」や「面白い街」は一種のテーマパークのようにしか保存されるしかなく、子育てや老人介護や防犯で頭がいっぱいの私たちは高コストをかけて保存するよりも、適度に快適な都市全体のジャスコ化を選択するのではないか、と展望している。近年の都心回帰は、郊外ライフスタイルの都心回帰でもある。
「ジャスコ化」という現象は、実生活とネットのように「物理的な環境と仮想的なコミュニケーション」を切り離して共存させるという原理が、都市でも採用された結果だという。「工学的管理の圏域と人間的多様性の圏域」(バリアフリーやセキュリティ重視のジャスコ化と同じ趣向を持つ人的ネットワーク)を切り離して共存させるというように。
そして「いまでも日本では社会的対立の軸は「世代」ぐらいしか機能していない」ため、秋葉原や下北沢など都市再開発の問題も「世代」の利害対立に還元されてしまう、という。格差問題やニート問題などが世代問題として理解されてしまったのと同様に。
確かに、現場をみていても、そのように感じる場面が多い。
都市の特徴が一目で分かる「都市のカルテ」の検査項目は何だろうか、というのが私の長年の課題だけれど、この本は示唆に富む一冊。
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ハラハラしました。おもしろい。磯崎新氏のトライブ(島民)を思い出しました。
テーマパーク化している現在の東京。その流れが抜本的に変わるとは今は思えないけど。
どうなることやら。
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東氏が都心に住むのは思想的に敗北、みたいな感覚でいるのは何となくわかる。郊外で育った人間にとっては、車でファミレス、ショッピングセンターというのは原風景ですからね。
自分も、学生時代、奨学金で下宿する道よりは、車を買って移動を楽にする道を選びました。おまけに自分の場合、アメ車でしたしね。
結局今は、仕事の都合上、都心に住んでいるし、車も処分したが、何となくあの生活が恋しくなることがある。
授業にもいかず、昼過ぎに起きて、ファミレスのランチタイムの終了前にようやく滑り込み、本を読みながら、居心地が悪くなるまでドリンクバーを粘り、その後は漫画喫茶。夜になったら家庭教師のバイトで、それを終え帰ってきたらテレビを深夜まで。はぁ、だめ人間でした。
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郊外都市の均質化は全国的にも言える現象である一方で、東京での生活は地方都市での生活と質を異にしていることを考えされられる。地方人として、生活する場としての東京を見せてくれる一冊。