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商品説明
「心中する前の日の心持ちで、つき合って行かないか?」人生の後半に始めたオトコイ(大人の恋!?)に勤しむ、四十二歳の慈雨と栄。二人は今、死という代物に、世界で一番身勝手な価値を与えている—。【「BOOK」データベースの商品解説】
「心中する前の日の心持ちで、つき合って行かないか?」 人生の後半に始めたオトコイ(大人の恋!?)に勤しむ、42歳の慈雨と栄。ふたりは今、死という代物に、世界で一番身勝手な価値を与えている−。書き下ろし長篇。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
山田 詠美
- 略歴
- 〈山田詠美〉1959年東京都生まれ。85年「ベッドタイムアイズ」で文藝賞、87年「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」で直木賞、2005年に「風味絶佳」で谷崎潤一郎賞などを受賞。
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紙の本
オトコイ、解る?
2007/07/07 21:02
8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る
『風味絶佳』で初めて山田詠美を読んでその巧さに飛び上がるほどびっくりして、慌てて遡って『ソウル・ミュージック ラバーズ・オンリー』を読んでみたもののやっぱり若いころの作品にはそれなりに物足りなさも残ってしまい、新作が出るのを待っていた。
『無銭優雅』というタイトルは確立した四字熟語でないだけになんか『風味絶佳』の巧く行かなかった二番煎じみたいな感じがして感心しないが、今回は切れ切れの短編集ではなく、1編で1冊の小説である。しかも、四十男と四十女の中年の恋、主人公の慈雨の姪・衣久子によるとオトコイ(=大人の恋)である。いやあ、こっちが中年になっちまっただけにこういう作品を書いてくれるのは嬉しい。ただ、これは決して中年だけをターゲットにした作品ではない。多分衣久子と同じような若い世代が読んでも充分共感したり面白がったりできる小説なのではないかな? どろどろしたりギトギトになったりしない、なかなか素敵なオトコイなのである。本当に無邪気に無防備な恋ができるのは年を重ねてからなのかもしれないよ。読んでいていちいち「そうそう」「あ、解る、その感じ」などと思うのだが、これは中年の読者全員がそう思うのか、それとも僕がこの小説のカップル栄と慈雨みたいな変人だから解るだけで一般の中年は首を傾げるのか、どちらか解らないがどちらであっても僕としては嬉しい。
ただし、終わり方をちょっと急いだ感があり、つまり、登場人物たちが動くままに任せるのではなく、作者が設定したエンディングに無理やり持って行った感じが残るのは少し残念。でも、この作家の類まれなる観察眼と、それを紙の上に再現するに当たって見事な黒子に徹することができるこなれた日本語を読んでいるだけでも惚れ惚れする。これは恋愛の教科書だね。いやひょっとすると人生の教科書かも。
by yama-a 賢い言葉のWeb
紙の本
恋愛に波乱は要らない。
2007/03/17 10:32
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公は斎藤慈雨、女45歳。独身。小さな生花店を友人と共同経営。同い年で予備校講師の栄と恋愛中。でもその恋愛は、運命の出会いでもなければ、どちらかが白血病で余命わずかというようなものでもない。六本木で夜景を望む高級レストランで美味に舌鼓を打つということもなければ、泥沼の不倫の果てに命を絶って永遠の愛を誓うということもない。そんな波乱は微塵もなく、ゆっくり、まったりと二人の日々は過ぎる…。
と、こんな中年男女のカッコ良くもなさげなオトコイ(大人の恋)にどんな魅力的な物語があるのかと思いきや、そこは練達の山田詠美。前作「風味絶佳」でも、世に言う3K職につく男たちとの非・劇的な恋愛模様をきちんと読ませる物語にこしらえた腕前が、今回はさらにレベルアップしています。
昨今の出版業界に、激しく燃え上がる恋の物語が百花繚乱するのも理解できます。私たちの身近に痛ましいからこそ美しく見える恋愛がさほど落ちているわけではないのですから、せめて架空世界のドラマチックな恋愛に自分の身と心を重ねてみたいと思うのは人情です。
しかしこの「無銭優雅」は、そんな具合に肩に力が入った読者に爽快な肩透かしを食らわせてくれます。そして、自分たちのしている平々凡々この上ない恋愛が、この物語のように心をポカポカさせてくれる、欠かすことのできないものであることに改めて気づかせてくれるのです。
「生涯、もうこの人以外の男はいらないな、と思った」(187頁)。分けてもこの台詞がとにかくカッコ良く心に響きました。「生涯、この人以外の男は考えられない」じゃなくて、「この人以外の男はいらないな」なのです。齢(よわい)を重ねてたどり着いた恋愛の真理みたいなものが感じられます。40代の二人だからこその落ち着きがひしひしと伝わる言葉です。
わずか200頁程度のこの佳品が、終わってしまうのが本当に惜しく感じられる読書体験でした。
紙の本
大人の恋「オトコイ」どころか、40代の三文小説ばりの恋愛を描くふりをして山田詠美という人は……
2007/03/06 14:07
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:とみきち - この投稿者のレビュー一覧を見る
愛を描いているようで死を描いている。出会いを描いていると見せて別れを描いている。人と人の距離のとり方を描くことによって人生を描く山田詠美は、今回も憎らしいほど自在である。またまたやられたーという感じ。
主人公は、42歳で出会った栄と慈雨。独身同士。つき合って3年になる今も、「私たちってちょっと変?」と思うほど甘え合っている。その甘えぶり、めろめろな様子の描き方がリアル。詠美ちゃんは、恋愛している人の気持ちや様子を描くのが本当に上手。特に今回の主人公の慈雨は、作者の価値観が投影されていることもあってとてもわかりやすい。
二人は、栄の提案によって、死によって盛り上がる三文小説を地でいこうじゃないかという意気込みでつき合っている。そして、栄が勧める小説を慈雨は素直に次々と読む。要所に、死によって終わる小説(小説に限らないけれど)の一部が引用されている。この選択がまたまた山田詠美ならではのこだわり。詠美ちゃんは小説が大好きなのねー。
さて、栄は、詠美ちゃんの持論である「男を甘やかすのは楽しい。甘やかしてこそ自分が甘える楽しみがある」という女心をよーくわかっている(と思われる)、詠美ちゃん好みの男である。社会的にも、外見的にも、45歳の男にしては全く情けないような、頼りないような人なのだけれど、恋する女にとってはそういうことは問題外なのである。自分が心地良くなれる相手であれば、それでよいのだ。
“私のとんでもなく厚かましい発想を、彼だけは馬鹿にしたりしない。すっげえ、慈雨ちゃん、てんさーい、などと喜ぶ。そして、私は図に乗る。そうさせてくれる彼に感謝する。だから、私も、彼を図に乗らせてやることに余念がない。この楽しみ、二人だけのもの。周囲なんて見えない。社会性の欠片もなし。私たちは、傲慢な日陰者である。”
こうした自己分析、恋愛分析を慈雨は繰り返しながら、自覚的に栄との恋を楽しみ、栄によって変わっていく自分を楽しむ。
山田詠美の小説の主人公は、自分を偽らないし、偽れない。能動的に行動する。感情的である。醒めていることを美徳としない。夢中になる。不器用である。大切なこと、大切なものをいつも探している。自分が大切にされることを求めている。「大切にされているかどうか」という感覚の基準は、人から与えられるものではなくて、それぞれの心の中にあるものだ。他人が見れば幸せそうに思える人が本当は幸せでなかったり、その反対のケースがあったりするのはそのせいだ。だから、人はそれぞれ、自分が何によって本当に幸せを感じるのか、もっと真剣に探さなければいけないのだ。詠美ちゃんの主人公たちは、いつもそうやって生きている。
見つけようと思ったからといって、それが運良く見つかるとは限らない。でも、この小説の中では、たいせつな人、たいせつな場所、たいせつにしたいものは、見つかっている。そればかりか、ひとはどうやって別れの悲しみ、心の中にある苦しみを乗り越えて立ち直っていくのか、ということが描かれる。それを描くためにこそ、山田詠美はいつも恋愛を書く。だから、どの恋愛も素敵で、かけがえのない恋愛に昇華しているし、今すぐ自分もそういう恋がしたい、と思わせられるのだ、と思う。
紙の本
山田詠美はロックだ!
2007/02/16 12:02
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:coyuki - この投稿者のレビュー一覧を見る
正直、最初は嫌な予感がした。「さしものエイミーも鈍ったか?」
過去のエッセイや「ラビット病」などを思わせる、カップル同士の甘く軽妙な会話が、前半は延々と続く。
巧すぎるほどの豊かな比喩、俗っぽさをおそれず、でも自分ルールでは決して品を落とさない男女の軽やかな生き方。それは確かに、私の愛するエイミーの世界なのであるが、その世界のあまりの堅牢さが、私に『エイミーはもう、落ち着いてしまったのだろうか?』『もう、安定したベテランの道を行くことに決めてしまったのだろうか?』と、早合点な心配をさせてしまったのだった。
しかし!後半にさしかかるうちに、どんどん話は進展していく。お気楽のんきに暮らしていく二人が、その生活を保持していくことの困難さ、危うさに、エイミーはどんどん迫っていく。文間に挿入される、名作(このラインナップがまた、さすが山田詠美!という鋭いセレクト)の数々も、その不穏な空気をどんどん盛り上げていく。こうなると前半は、築き上げた世界を一旦解体し、さらに再生するための、壮大な複線だったのかと思う。
リアルな40代の恋愛は、相手だけでなく家族や友人や仕事や生活や、色んなものの影響を受けざるを得ない。その中でもみくちゃにされながら、それでも何か叫びたいことがあるから、人は生きていくのだ。
『人生は甘くない、それでも人生は続く』そのことを、ここまで見事に描き出した作家はいなかったのではないか?人生の理不尽さに、敢然と立ち向かった作者の姿勢に、深く深く敬意を表したい。山田詠美はやっぱりロックだ!