紙の本
有事の際のロジスティクス
2011/03/20 19:22
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ももんじゃ05号 - この投稿者のレビュー一覧を見る
1 本書は、故江畑謙介氏が、昨今の軍事技術を、ロジスティクス方面から論じた本である。
2 ロジスティクスは、輜重とか、兵站、あるいは物流と訳されるが、軍需物資の輸送、保管にとどまらない、前線で有効な活動できるような機構、組織、設備そのものである。
だから、本書では、輸送の話もたくさんあるが、民間軍事会社の利用とかの話もある。
米軍が、民間軍事会社とコスト・プラス方式(経費支出に応じて報酬が支払われる方式だそうな)で、契約したら、無駄な支出が増大してエライコトになったとか。まあ、こんな契約で、相手に、善意を期待するのは、戦略的な誤りであろう。
この話で思い出したのは、昔、某大企業の法務部長の話で、アメリカの弁護士事務所とチャージ方式(書類作成、打ち合わせ等にかかった時間によって報酬を払う方式)で契約したら、ものすごい額の請求をされた。調査したら、昼飯の時間まで、打ち合わせと称して、報酬に計上してやがったと怒っていらっしゃった。どこの業界にも、こういうことする奴いるねえという話である。
3 さて、今般、大地震と津波が起きて、大変なことになった。
本書は、前出のとおり、軍隊の兵站の話である。したがって、輸送や保管、物品管理の話は、災害時も応用できる話である。
本書を読んでいたら、これあったら災害時便利だなあというのがあった。たとえば、ハイブリッド型飛行船である。普通の飛行船は、浮力だけで空に浮いているが、ハイブリッド型は、機械動力も利用して、揚力を稼いで空を飛ぶんだそうな。この飛行船、何がすごいかって、大きさと搭載量である。最大のものは、100万立方メートルの体積(簡単に言うと、100メートル×100メートル×100メートルの大きさ。まあ、実際は、もっとスマートな形をしているが)で、搭載量は、1000トンだそうな。しかし、元が飛行船なので、滑走路は1400メートルくらいでよく、しかも、推進機を強化すれば、垂直離着陸が可能なんだそうな。ステルス性も高く、レーダーにも映りずらいって。目下、米軍が、次世代輸送手段として研究開発中。
災害時に、これがあれば、道路事情とかに影響されず、1000トンの荷物の移動ができる(垂直離着陸式なら、場所さえ確保できれば、どこでも降りられるし、空中に浮遊したまま積み下ろし作業だってできる)。今般の交通の混乱を見ていると、これあれば大層便利だろうなあと思うことしきり。
あとは、おっかないのは、財務省である。
また、無人機の話もある(主に無人輸送機の話だが)。今般の原発の話を見ていると、ああいう危険地帯を偵察するための無人機は、空・陸問わず必要かもねえ。
4 今般の災害に際し、自衛隊が活躍しているが、今後、兵站の方面を強化するような予算の付け方をすれば、もっと改善できるのではと思った。
今回の災害に関し、関係各位のご努力には、敬意を表するところである。
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航空母艦の甲板が避難者を運んだヘリコプターで埋め尽くされる。
2008/04/30 21:10
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Living Yellow - この投稿者のレビュー一覧を見る
やがて、次から次に飛来するヘリを受け入れるスペースを作るため、甲板の兵士たちが人力で、数億円はくだらないであろうヘリを甲板から押し出し、海中に投げ捨てる。そんなベトナム戦争終結時のニュース映像が、数年前、深夜のブラウン管に、プロコル・ハルムかルイ・アームストロングの曲をバックに、『60年代名曲CDセット』かなにかのCMのイメージ映像として繰り返し映しだされていた。
戦争。内実においては、あらゆるヒトとモノの移動と運搬、整理整頓、収納、処理がその過半を占めているといっても過言ではないだろう。
「戦いにおいて、第一にして最も重要なこと」(本書「はじめに」より)として「ロジスティックス」を捉える著者はその語を、「兵站、後方、後方補給」と日本語に置き換える防衛省・自衛隊の訳に含まれる、「後方」という感覚に強い違和感を表明している。
「極端な話、人間は鉄砲の弾がなくても(弓矢や竹槍などで)戦えるが、水と食料がなければ戦えない。だから何をするにも。まず考えねばならないのはロジスティクスである」(本書p.13、同上より)と。
本書は先のベトナム戦争での苦い経験を踏まえ、湾岸戦争での試行錯誤、ITテクノロジーの彼我における急速な普及、民間・軍を問わないグローバリゼーションの中で、現在、イラクとアフガニスタンにおいて(そしてその「周辺地域」:ほぼ全世界においても)歴史上かつてない量の「ヒトとモノ」そしてデータを日夜、運用している米軍(とその委託先である民間会社)の現状、彼らを支えるRFIDタグをはじめとするテクノロジー、その現状分析、将来への戦略を中心に、NATO所属の旧西側欧州諸国の対応にも充分言及した、緻密かつ網羅的であり、読みやすい労作である。
立場を問わず。現下の世界情勢に関心を持つ方々に手にとっていただけたら。シンプルな装丁から著者の、力ずくとも呼ぶべきストイックな姿勢が伝わってくる。
とにかく。様々な数字が強く印象に残る。
「米バージニア州のBDM社は1996年1月に米陸軍と1170万ドルの契約を結んで、500人の通訳と翻訳者をボスニアとハンガリーに送り込んだ」(本書p.182、第3章 軍事ロジスティクスの民間委託」より)
「米国では国防基本法によって、米軍への支援活動支援中に命を落とした外国人にも死亡保険が支払われるが、2003年3月1日から2006年9月30日までの間で、この支払い申請がなされた数は650件であった」(本書p.189、同上より)
「(米)海兵隊のMEU(一個強化大隊を中心とする、航空支援部隊も含む独立先頭部隊)は、洋上の艦船から最大200海里(370キロメートル)離れた場所での作戦を意図している」(本書p.288、第4章「米軍海外展開戦略とロジスティクス」より)
「空母の場合、補給物資を受け取る場所に80人、さらに艦内の所定の場所に運び込む作業に約400人が従事する。(中略)合計5700人の一割近くが補給作業にあたらなけらればならない」(本書p.319-320、同上より)
「米軍で一体、どれだけの量の空コンテナ(民間会社所有の)が「借用」された状態になっているのかすら把握できていないが、その借用料だけでおそらく数億ドルになるのではないかと推測されている」(本書p.343、第5章「軍事輸送システム」より)
サム・ペキンパー監督の傑作『戦争のはらわた』、その主題歌は『Haenschen Klein』、邦訳で『蝶々』としてひろく知られている、あの童謡である。
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主にアメリカ軍の近年のロジスティックについて書かれてある。まっアメリカ軍ほど世界中大量に兵力を投入する国は今はないからね。
近年の(軍事の)ロジスティックでコンテナが重要だってことは「コンテナ物語―世界を変えたのは「箱」の発明だった」でさらっと書かれていたがこれほど利用されているかとびっくり。米軍はコンテナ船を作ってるんだね。
アフガニスタンやイラクなどの紛争地域でロジスティックが襲撃のターゲットとなっていることと、危険な地域を通過しなければいけないのは、従来の正規戦のようなロジスティックは「後方の業務」ではないことを理解。
また民間企業の活用も近年増えているとのこと。戦争というものが従来の戦争の概念である、国と国の戦い、兵士同士のルールのある戦い、兵士と民間人との明確な区別、紛争地域(前線)と非紛争地域、のようなものは今まさに変化していると感じた。
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もう戦争には「前線」「後方」といった区別がなく、戦闘はどこでだって発生する。したがって正規軍ではもはや広い戦域をカバーできず、そこに民間軍事会社の伸長する余地がある。
滑稽なのは、軍隊のような組織でさえ、デスクワークなどの、誰でもできる仕事はアウトソースし、軍人にしかできないエリアへリソースを集中するという、まるで一般企業のようなことが行われている、ということ。
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軍事と兵站についての本。2008年。軍事におけるロジスティクスの重要性やアフガニスタンでのロジスティクス活動、システムなどを紹介している。月刊「流通設計21」の内容をまとめたもの。戦争において武器や食料の補給は非常に重要な項目であり、敵方の補給路を断つことで敵を追い詰めるのは戦術の定石であり、ロジスティクスとはそれほど重要な項目である。イラク戦争でもロジスティクスの発達が、軍事作戦のスピードを早める要素になっており、ますます重要性が高まっている。最近では、RFIDの導入により、どこになにがどれだけ不足しているか、いつまでに補給すればよいか、などの情報をすべて一元管理できるようになっており、企業の生産現場以上のシステムが整ってきている。また、輸送手段も同様に発達しており、超大型輸送機などが開発されている。ただし、こちらは1企業だけで開発するには費用がかかりすぎる為、複数企業の出資により開発を進めている。
軍事システムとして定着したら、ほぼ時を同じくして民間のシステムに展開されるであろう。
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90年初頭の湾岸戦争ではコンテナが前線に届くまで5回開けられ確認され中身を入れ替えられていた。これはコストの面だけではなく、軍事侵攻の速度にも直接の影響を与えていた。
しかし、その後コンテナ内の品物ひとつひとつにICチップを取り付けることで、箱詰めから前線まで、今品物がどこにありどういう状態なのかをいつでもどこでも把握できるようになった。
どこでも、というのは、前線でも、という意味で、前線の過酷な環境で動くチープなラップトップコンピュータでも把握できるようになった、ということだ。GPSとデータベースに連動し、部隊の要求したロケット砲やガスマスクがどこを移動しているのかをすぐにつかめる。
実はコンテナ自体が、流通の主役となったのが1950年代の終りだ。
そういった「たまたま」の技術の積み重ねの上に、それらの流通の先端はある。
なので次に「コンテナ物語」を読んでいるところ。
この本、随分前に読んだのだけれど、上に記した内容が、一袋どの本に買いてあったのかをすっかり忘れていたので、思い出しついでに書く。
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イラクにおける補給物資の六五パーセントは飲料水と燃料である。30
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「悪夢の神話」となっているが、湾岸戦争時に中東に送られた四万個のコンテナの半分は、その内容物と行き先が分からなかったため(…)湾岸戦争が終わった時点では、コンテナ八〇〇〇個以上が未開封状態であり、空輸用貨物パレット二五万枚が、何が載っているか分からないまま放置されていた。34
しかし、イラク戦争では、そのような愚行が繰り返されることはなかった。35
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湾岸戦争で米軍部隊は六〇日分の物資を備蓄してから戦闘を開始した。
それがイラク戦争では、必要な物を必要なときに届けるベロシティ。ロジスティックス方式の導入により、僅か五~七日分の水、食料、弾薬を携えるだけで新劇を行った。46
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イラク戦争に投じられた物資の九〇パーセント以上は、海上輸送(船)で運ばれた。68
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日本より二〇パーセントも広い国土に、たかだか十五万人の地上兵力しか投入していないため(…)フセイン政権時代には、国境警備隊、軍、警察など一〇〇万人を投じて国境を警備していたのが、ほとんど一夜にしてそれらの監視がなくなってしまったのだから、国境が消滅したのと同じ状態である。80
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世界銀行は二〇〇二年のイラクのGDPを十八四億ドルと見積もっているが、二〇〇五年中期までに米国がイラク作戦に投じた経費は三年間で二二〇〇億ドルで、その大半がロジスティック関係経費であった。90
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イラクにおいては、米兵損害の三分の二以上がロジスティックス部隊から出ている。92
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IEDはイラクの治安維持における最大の脅威となり、二〇〇八年初期時点で米軍死傷者の六七パーセントがIEDによる。104
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米陸軍によるとイラクにおける地上輸送物資の六五パーセントが(…)ボトル詰め飲料であるという。その輸送に要した経費は、二〇〇五年の場合二億ドルであった。117
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米本土からイラクまでの輸送経費は、重量一ポンド当たりコンテナの海上・陸上輸送なら〇・二五ドルであるが、パレットを使った空輸なら五ドルと、二〇倍もする。342
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米陸軍はイラクやアフガニスタンで、派遣部隊が交代する際には、その装備を残し、兵士だけを交代させるという方式をとり始めた。433
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戦闘部隊や支援部隊の間で柔軟に補給物資を「融通しあう」というものがある。442
従来の、支援部隊が特定戦闘部隊と結びついて支援を行うという方式は消えていく可能性がある。444
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イラク・アフガニスタンでの戦闘における米軍やNATOの補給を中心として、現代におけるロジスティクスの形態を紹介しています。
イラク戦争では非常に速い速度で各部隊が一番乗りを競うようにバクダッドに進軍し、アフガニスタンの戦いでは特殊部隊を中心として非対称戦を行いました。そこでは冷戦のような補給体制では通用しない、新しい補給が行われました。
本著ではそれら補給がどのように行われたのか、湾岸戦争で行われた補給と比較して、参加した部隊・使用された新技術を紹介し、これからのロジスティクスを示しています。
統合作戦化が進む現代において、地域・陸海空(海兵隊)軍の合理化や効率化は必要不可欠です。比較的資金潤沢かつロジスティクス意識の高い米軍を参考として、いまだに補給任務を「後方」の仕事とし、震災でも課題とされた自衛隊のロジスティクスが改善されることを望みます。
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2008年刊行ということでやや古いが、アフガニスタン・イラクの戦役を中心に、アメリカ軍・イギリス軍でのロジスティクスの革新と、あまり明るみに出なかった問題、当時試行されていた技術・システムとをまとめた内容。伝統的な地上でのトラック輸送から、アメリカ軍の海外展開能力を支える、船舶プラットフォームを基盤とするもの、そして何より圧倒的なスピードを誇る空輸と、陸海空の様々な部分での、様々な物品の輸送という問題を取り扱う。
湾岸戦争では技術が未発達であったことから、物資の分配に問題が発生していたが、イラク戦争ではRFIDタグの活用によりコンテナの管理が極めて円滑に行われた。しかし、タグのついたコンテナから出されて以降は従来の問題が再燃した。また、物資の優先順位の問題もあり、交換部品が不足することがあった。輸送車列に対するゲリラ攻撃も深刻だったことから、トラックの装甲化や護衛車両の開発が進んだが、コストの問題、特にそれの維持自体がロジスティクスの負担を増やす面もあり、刊行時点では成果が確認されていなかった。
またロジスティクスをはじめ軍の様々な分野の民間委託も進んでいるが、かえって保護の負担が増えたり、契約不履行の違約金を払うだけで実際に現場の部隊が困窮したり、官民間の駆け引きもあったりということで、一筋縄ではいかないよう。民間委託した結果、現地人を雇うことで人件費を抑える向きもあるようだが、これにはセキュリティ上の問題もありそうで、イギリスの輸送機が誘導路でIEDにより破壊された事例などもあることを考えると、難しいと思う。
アメリカの海外展開能力を支える海のアセットについては、半官半民といった形で運営される、RORO船を中心とした船隊がグアム・ディエゴガルシア・地中海に配備され、必要に応じて展開できる体制が整えられており、人を別途運ぶことで即座に行動開始できる。これは陸についても同様で、冷戦期に組織された、事前にアセットを展開しておいて、有事に人のみを空輸するものともつながる。船はコストが安く大量に運べることから、船の高速化により展開能力が向上することは今後特に、太平洋を挟んで中国と対峙するうえで、ゲームチェンジャーになるのではないかと考えるが、東欧や中央アジアなど、海から遠いところへの展開は依然として難しいことが分かった。
空輸についてはNAMOという形で、事実上の輸送機シェアリングのようなシステムが作られていたことは知らなかった。今後考えられているアセットとして、巨大なティルトローターや飛行船というのがあり、大部隊をあたかもワープさせるかのように、様々な場所に移動できるというのは興味深い。
今後あるべき姿として、現場の部隊同士で互いに必要なものを補い合うことで、中央集権的に物資が配分されるモデルから脱却し、そもそも補給部隊というもの自体がなくなるというのは面白いと思った。
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タイトルから兵站の本質的な話を期待したが、内容は主に英米の現代のロジスティクスの紹介。それも戦略戦術の解説ではなく、現代の組織名称や機体のスペックの羅列が中心。軍事海上輸送コマンド(Military Sealift Command)が何かとか国防エネルギー支援センター(Defense Enery Support Center)がどうしたとか、艦隊補給艦ルイス・アンド・クラーク級の満載排水量が4万1592トンだとか、後継中型戦術車両の装甲増着キットECP-58が2004年9月に796輌分1億4460万ドルで発注されたとか…。しかしデータ本として見ても、統一性も一覧性もなくて把握しにくく、つまらない講義を受けてる時ってこんな気分だったけな、と学生時代を思い出させられる。
各種専門用語や欧米の軍組織、機体の数値に造詣の深い好事家ならば、怪獣図鑑のノリで楽しめるのかもしれないが、それ以外の人には難しい一冊。