紙の本
小説とはウソ=字なのだ!
2009/02/08 08:01
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
「小説とはウソ=なのだ!」と叫びたくなるような傑作、それがこの『宿屋めぐり』を読み終えての、快哉にも似た感動である。
もちろん、町田康一流の語りは冴えている、こと、短文で投げすてるような文末の光彩はまぶしいほどだ。ストーリーもキャラクターも、いきいきとしてよどみなく、魅力溢れるものだといってよい。野間文芸賞という、大きな賞をもらったということもうなずける。しかし、こうしたことごとをいくら積み重ねても、『宿屋めぐり』の豊饒で乱暴な魅力にはたどりつくまい。
小説とはそもそも、ウソである。しかもそれは、そこに描かれたことが、現実/真実そのものではなく、何かしらのデフォルメを通している、といった良識的な判断の前に既に、ウソである。というのも、私達の現実世界の構成要素は、実に様々であるからだ。食べ物にせよ住処にせよ、それは物質から出来ているし、頭の中で考えることは思念とでも呼ぶべきものでできている。いずれ重要なのは、それらは「言葉」によって覆い尽くされた世界ではない、ということだ。(その一部として「言葉」は確かにあるが)だから、原則として「言葉」しか用いることの出来ない小説とは、それがいかにリアリティに富んだものであろうと、畢竟ウソであることを免れない。
恐るべきことに(というべきだろう)、町田康『宿屋めぐり』は、わかりきっていて、誰も口にしなくなったそのことを、小説内であからさまに公言してしまうのだ。その衝撃は、もはや小説は「言葉」だというのすらためらわれるほどだ。端的に、小説は「字」なのだ。「字」だけで、この世界に似た世界を描こうとする以上、それがねじれた世界であろうと、フィクショナルな設定であろうと、パラレル・ワールドであろうが、とどのつまりはウソに他ならない。そのことを公言した後になお、小説でありつづけることに耐え、しかも面白く読むことのできる傑作、それこそ『宿屋めぐり』なのだ。
紙の本
無間地獄
2015/08/24 19:00
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
これは無間地獄である。人間はこの地獄から抜け出すことができるのだろうか?恐ろしい小説である。異様な設定の小説であるが、物語の世界にどんどんとのめりこんでいく。これは「告白」と並び町田康の最高傑作である。
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超・長編
世界に入り込んで読もうとすればするほど
しんどくなってなかなか読み進められなかった…
けど
なんかそこがこの作品の力な気もします
堂々巡り、悶絶する程に
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待ちに待った町田氏の長編小説。
ひゅるひゅるの白いものに飲み込まれ別の世界へ入り込んだ、というイントロにわくわくして読み始め。変わらぬ町田節を堪能しつつ300頁ほどまでは一気に読んだが、どうにもくどい。長い。頁を繰るのがもどかしい。もっと短くて閃光一発、パンクなものが読みたい。
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冗長、くどい。
語られているテーマがこの長さを必要としているのは分かるが、『パンク侍斬られて候』、『告白』 を既に読んでいる者としては、トゥー・マッチな感じ。
でも、やっぱり、こうは言っても、おもしろい。
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しかし、俺は主に見捨てられてたったひとりになってしまった。この世で誰とも繋がりのない状態、ケータイをなくしたギャルのようになってしまった。崖も恐ろしいがそれ以外の場所も同様に恐ろしい暗黒だ。というか、苦労しないで済む分、こっちの暗闇の方が楽かも知れない。この世がささくれだった暗黒なら向こうはなめらかな暗黒。いずれも、どうしようもない虚無には違いないのだが。
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主人公が超能力に目覚めるあたりから、もうわけわかめ、これはどういう話なんだ?
と思って一度読むのを止めかけたけど、最後まで読んでよかった。興奮した。
それまでの主人公に対する苛々、むかつき、嫌悪が一気に昇華して、さらに自分の社会に対する態度や在り方やなんかを省みる気にもなった。気がする
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言いたいことはよく分かるが、心の底から共感できず。実話であろう前の世界の話は(書いてはいけないことも書いてあり)全て面白く、まじめなテーマの小説でありながら笑わせることろはさすが町蔵。ただ、『告白』には遠く及ばず。本の厚さに比例して期待も増大していたため、☆3つ。
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主人公・鋤名彦名は主の命を受けて刀を奉納する旅の途中パラレルワールドに嵌まり込んでしまうが、この「贋の世界」で任務を続けることを決心し、様々なトラブルを起こしながら目的地の大権現を目指す。
町田康はいつも、欺瞞に満ちた人間を町田流に笑いを足したデフォルメで描き、それらが主人公に厄災を及ぼす構図を好んで書く。
主が創造した「贋の世界」の中においては主人公は唯一「真の世界」から送り込まれたプレーヤーとなり、主の意思に順ずると信じて欺瞞的な人間を破滅させ偽を糾してゆく。ところが当人が仮定想定の中で下す決断は実はほとんど屁理屈で独善的である。その矛盾は話が進むほど本人もごまかしきれないものとなって追い詰められてしまう。
『告白』では「なぜ人は人を殺すのか」というテーマで不器用な落伍者が周囲の欺瞞によって貶められフラストレーションが膨らむ様が描かれ、結末ではやりきれなさが残った。対して『宿屋めぐり』では主という「指導する者」の存在が新たに軸をなしていて、その意図を都合よく解釈・利用した主人公自身の欺瞞がどんどん色濃くなっていく様が描かれているように思う。
「本当のことを言ったら殺される」と言って死んだ友人のエピソードが出てくるがこれは中島らものことで同氏の小説『バンドオブナイト』の巻末解説で町田康が取り上げているのに気がつく。この解説で町田康が書いた内容と『宿屋めぐり』で書かれていることがいろいろ重なっているのが興味深い。
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日経新聞の書評で興味を持ち、軽い気持ちで図書館に予約。受取り時にようやく600ページの超長編と知る。愕然。。
時代背景も、状況設定も謎だらけで、脳みそを直接揺さぶられるような感覚のまま、半分ほど読み進め、ようやく時代背景も状況設定もこれでいいんだと納得。
正直かなりえぐい描写のシーンもあるのですが、そのあたりはさーっと飛ばし読みすることにし、後半は不思議な中にも、人生論や人生哲学みたいなのが散りばめられ、かなり引き込まれつつ読了。
不確定でよるべない人生っていうのかな、魂の彷徨っていうのかな、そういうことを描くには応分に紙幅を要するとは思うけれども、正直、冗長であることは否めない。で、摩訶不思議にもほどがあるけれど、しびれるような、くらくらするような感覚は嫌いじゃない。っていうか町田節っていうんですか、これ相当好きです。
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600ページにも及ぶ文量の中で、彦名は幾度も名前を捨て地位を捨て挙句の果てには口調まで知らず知らずのうちに変化していく。
そしてくにゅくにゅの皮飲み込まれ嘘に飲み込まれついには永劫回帰の地獄にまで飲み込まれてしまう。
彼を最後まで支えた主への使命感と歪んだ正義感はどこか原理主義を彷彿とさせます。
「嘘の世界」と銘打たれたくにゅくにゅの皮の世界は、主人公の一人称で展開されているがゆえにその後の展開が嘘であるという可能性さえ秘めているというパラドックスでもあり、かつ、ついにその世界が解放されないことで、読者も永遠に嘘の世界を彷徨ってしまうことうけあい。
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おおいに笑った。主はまるで神だし、宗教みたいだ。
たしかに長いけど、面白いし、わりとサクッと読めるので苦にならない。
『告白』のように、心が抉られることはなかった。
だから余計に読みやすかったのかも。
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「執筆七年。新たな傑作長編小説の誕生」。
帯の惹句である。
ずしりと持ち重りのする一冊で、表紙には愛らしい市松人形。
本を上下巻とせず、二段組みにせず、あえて分厚い一冊としたのも「あほんだら。俺が7年もかけて書いた作品を寝転んで読んだらどつくぞ、ぼけ」と読者にも「本を読む姿勢または心がけ」を作者は問うておられるようである。
なので。
暫く打っ棄っておいた。
しかし、「本でも読みまひょ」と書斎コーナーへ行くと厚い本ゆえ、存在感がある。
いやでも日本人形(もしかして、この人形の名前は「お菊ちゃん」っていうのじゃないかしらん。北海道のお寺に安置されてる髪の毛の伸びるという)が目に付く。
「菊ちゃん」の恐怖と作者の嫌がらせ(たぶん)の狭間で、暫時、表紙を眺めてはひいいっと悲鳴を上げていたのであるが、これは読まないがために「菊ちゃん」の視線が怖いのだろう。
よく見ると、愛らしい市松人形ではないか。
なので。
読むことにした。
感想は「面白い」。
いや、読んで仕舞ったのであるから「面白かった」。
町田さんってなんなんなの?。
これって哲学書? それともパロディー?。
いや、小説なんだけどね。
主からの命令で大権現に大刀奉納の旅に出る主人公鋤名彦名。
道中、法師に襲われ、謎のくにゅくにゅの皮に呑みこまれる。
奇術で大儲けしたり、指名手配犯として追いかけられたり、美人に言い寄られたり・・・。
ハラハラさせられる人生である。
本人は意図しないまでも「生きているだけ、生きているだけで負いきれぬ罪障が積み重なっていく」のである。
彦名は常に主に対する怖れと、自分は主から選ばれたという意識との狭間で揺れ動く。
これは「偽」の世界ではないか。
どうせ「偽」の世界であれば何をやっても良いのではないか。
人だってぺらぺらの書割みたいだし・・・。
しかし、主が怖い。
「主よ、主よ。教えてください。俺は正しい航路を進んでいるのですか」
彦名は元の世界にいたときに、主が言っていたことを思い出す。
「ときとして、間違った道は広くて立派な整備された道路で、正しい道は狭くて険しい獣道のようなもの。おまえらはいつも広い道ばかり行こうとするが、それは天辺から誤りだよ」。
ラストの仕掛けがさらに面白かった。
おすすめの一冊である。
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人生という遍歴の不条理性を描いた……のかな。どことなくカミュっぽい。難解だけど、タイトルの意味が明らかになる頃には驚き呆れていた。一体この人はどこまで行くのだろう。
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またもややってしまいましたね。
真実だけを語り胸を張って生きてゆければそれは最高だが、もちろんそれを実行できる人は世の中にほぼ皆無なのだから、町田康氏の書く本は程度の差こそあれ、すべての人にとって共感できる読み物である。
我々が日常生活の中でしばしば感じるちょっとした自覚的不正、詭弁と欺瞞、利己主義に基づいた辻褄合わせ、あるいは卑屈根性などが、独自の筆致による一見浮世離れした不思議な世界の中に見事に散りばめられており、そして主人公が感じ、思い、動く内容は、表現こそライトであっても極めて重篤かつ、まさに読者のそれらと同質。
こんなはずはない、自分はこんなではない、私はあなたと違って客観的に自分というものを見ることができるんです、という種の凡人の想いが間抜けな主人公に正しく投影されているのである。
私たちが実際には曝け出すことができない自己内のいろいろなドロドロしたものを代弁してくれている、とも表現できる。
さらに、宗教や運命(使命)といったものに成り替わる「主」という新機軸が事態をより立体化させており、我々の脳もヒートアップを加速する。
鋤名彦名がおばはんになってからのクライマックスは圧巻である。
どう終わらせるんだろう、と訝しんでいたけれど、さすが、見事に締め括ったものだ。