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紙の本
ボルヘスと不死のオランウータン (扶桑社ミステリー)
著者 ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ (著),栗原 百代 (訳)
ブラジル人の「私」は、アルゼンチンで開催されるE・A・ポーの研究総会へ参加できることになった。しかも、長年の夢だったボルヘスとの対面も果たした。だが、総会は不穏な空気に覆...
ボルヘスと不死のオランウータン (扶桑社ミステリー)
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商品説明
ブラジル人の「私」は、アルゼンチンで開催されるE・A・ポーの研究総会へ参加できることになった。しかも、長年の夢だったボルヘスとの対面も果たした。だが、総会は不穏な空気に覆われ、ついに事件が起こる。論争の種をまいていたドイツ人が殺されたのだ。現場の部屋は施錠され、死体は文字をかたどっていた…密室とダイイング・メッセージの謎にボルヘスが挑む。カバラからクトゥルー神話までを縦横に論じ、史上最強の安楽椅子探偵の推理はどこへ行く?南米発、衒学的文芸ミステリー。【「BOOK」データベースの商品解説】
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紙の本
最強衒学探偵ホルヘ
2008/11/01 19:11
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
1986年に世を去ったアルゼンチンの作家ホルヘ・ルイス・ボルヘス、既に神話的とさえ言える人物であって、なお現代人にとっての憧れの的、底知れない知性と博覧強記ぶりによる作品群が読み解かれるのを待っている。そんな彼の人間像に近づきたいという願望があるなら、ミステリ小説の探偵役として登場すると聞けば、狂喜してかぶりつくよりないだろう。
発端はエドガー・アラン・ポーの研究会であるイズラフェル協会の1985年総会が、初めて南半球のブエノスアイレスで開催されるところ。その開会パーティーの夜に、過激な論者の一人として知られる一人の参加者がホテルで殺害される。密室殺人。その発見者となった、かつてボルヘスの作品のポルトガル語訳もしたことのあるブラジルからの参加者が、総会の超大物ゲストである、既に視力を失っているボルヘスの書斎で、事件の様相を伝えるワトスン役を務める語り手となる。あの憧れのボルヘスの、それだけでこのブラジル人は甚だしく舞い上がり、ボルヘスの一言一句で喜びに震える。読者がまったく共感する部分だ。そしてチェスタトン愛好家でもあったボルヘスにとっても、探偵役を演じるのは願ってもないことだったろう。そして果たして彼が、いかにしてデュパンのようにモルグ街のオランウータンの正体を暴くのか興味は尽きない。
容疑者は、メキシコ在住だった被害者の罵倒を受け、憎んで余りある論敵、HPラヴクラフトの作品中にしばしば言及される、狂えるアラブ人アルハザードによる「ネクロノミコン」とポーの関係を論じるアメリカ人、ヨーロッパのアメリカ大陸侵略との関係を主張するアルゼンチン人、そしてパーティーの席上で酔った被害者に殴り倒されていた日本人など。それらの論点に秘められた、それぞれの心理的思想的背景と動機の関係、死者のダイイングメッセージの解釈などが、推理の過程にふんだんに論じられ、空想され、神秘と論理がボルヘスの口から溢れ出す、この愉楽を僕らは(そして語り手は)堪能することができる。
果たしてボルヘスの推理は、複雑に入り組んだ衒学の森から一本の糸を手繰り出して見せる。ミステリ作品としての評価は分からないが、言葉で示された裏に隠れている世界を読み取る能力は、ボルへスならではのものではないだろうか。
もちょっと欲を言えば、ボルヘス周辺の人物がもっといろいろ出てもいいんじゃないのかとか(マリア・コダマとか)無いではないが、ポーとラヴクラフトとボルヘスとが競演する愉しさ、「らしさ」が溢れていて、そしてボルヘス自身も楽しんでいるのだろうなあと想像するだけでもまた嬉しくなってしまった。