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紙の本
金剛石のレンズ (創元推理文庫)
著者 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン (著),大瀧 啓裕 (訳)
19世紀半ばのアメリカで活躍し、偉大な足跡を残した夭折の天才オブライエン。顕微鏡学者が水滴の中に極小宇宙を見出す「金剛石のレンズ」、ロボット・テーマの古典「ワンダースミス...
金剛石のレンズ (創元推理文庫)
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商品説明
19世紀半ばのアメリカで活躍し、偉大な足跡を残した夭折の天才オブライエン。顕微鏡学者が水滴の中に極小宇宙を見出す「金剛石のレンズ」、ロボット・テーマの古典「ワンダースミス」等の幻想科学小説から、魔法の支配する奇怪なホテルでの冒険を描く怪作「手から口へ」まで、“変幻自在の小説の魔術師”が33年の生涯のうちに物した傑作群から、本邦初訳作を含む14篇を精選する。【「BOOK」データベースの商品解説】
収録作品一覧
金剛石のレンズ | 9−46 | |
---|---|---|
チューリップの鉢 | 47−72 | |
あれは何だったのか | 73−93 |
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紙の本
邪悪で美しくて乾いている
2012/04/19 23:42
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
顕微鏡で超ミクロの世界を覗いてみると、そこには我々が認識する宇宙のミニチュア版があった。1858年にこんな小説が書かれた。そんな解像度のあり得ない時代に、その可能性を夢見て、その先の驚異を創造した。特殊な巨大レンズを作り出すまでの執念は、その先にある世界を生み出す作者の執念に重なる。そこで見いだされる主人公を破滅に導くほどの悦びは、まさに原子モデルなんでぶっ飛ばすインパクトで、一切合切あらゆるの苦悩を吹き飛ばすだけのパワーがある。
生涯を賭けた、そしてふいにしかねない激しい怨念と、その奇妙で当然にも悲しむべき結末というのは、「鐘つきジューバル」の淡々と実行される狂気の復讐と悪夢のような結末の場面の映像にも現れる。長年の怨念に魔術敵な力で決着をつけようとする「ワンダースミス」も、伝奇小説的展開の中で、復讐のカタルシスと、胸がむかつくようなおぞましさの狭間の不思議な空間は、安寧さにもほど遠く狂気の根深さが込められている。
「絶対の秘密」では、レム「枯草熱」かミエヴィル「仲介者」を思わせるような20世紀的不条理を題材にして斬新。奇妙な住人達が妙に苛立たしい「失われた部屋」はコルサルタルを思い起こすし、人々から理解されない悲哀を突き詰めた「世界を見る」には超能力ものの前哨に見える。夢のような幸福からの凋落を描く「パールの母」はバラードの退廃が萌芽している。「手妻使い」は中国風ファンタジーのような展開から、清朝下における漢民族の叫びが吹き上がってきて、実に政治的な結末を迎える。生臭い話のはずなのだが、風のように爽やかに料理されているのが摩訶不思議だ。これらは奇妙なアイデアというだけでなく、常に社会の中での孤独と抵抗の物語でもある。
建物の壁じゅうに手やら耳やらが生えているという、ただただ気味の悪い設定の「手から口へ」では、古典的な騎士道冒険ものも予感させながら、すべて宇宙の彼方へ消し飛んでしまうような強引さが面白い。
幻想や架空のテクノロジーを美しく、人の心を巧みに描くというだけでなく、それらを社会の中に置くことで存在が揺らいでいくところまでを視野にする人である。怨念に満ち満ちていながら、空間のどこかが常に開いていて、どんな哀しみも醜さも相対化されてしまうのはダンセイニ風かとも思う。美にも退廃にも浸りきることが出来ないが、そこに惹かれてやまない精神というものには強いシンパシーを感じてしまう。
紙の本
多彩な才能を見せた夭折した幻想作家の傑作短編集
2009/02/04 22:00
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わたなべ - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は19世紀半ば33歳という若さで米国で息を引き取ったアイルランド人。かなり裕福な家の一人息子として甘やかされて育ち、莫大な遺産を相続した後ロンドン、パリでそれを蕩尽するボヘミアン的生活を送り、借金取りからの逃亡を兼ねた心機一転で渡米、ケルトのポオと異名を取る幻想科学小説や戯曲を発表、遊蕩のダンディぶりでも世に知られるが、南北戦争に志願従軍し、傷を受けて死んだ。死後散逸した作品は最初の作品集が1881年に、紆余曲折をへて1988年に新発見された作品を含む二巻本が刊行された。本書は、その中からとくに名声高い幻想的、怪奇的、あるいはSF的な作品を14篇収録したものである由。
ケルトのポオとはよくいったもので、どれも珠玉と呼ぶのがふさわしい堅固な構造と流麗な文体が絶妙のバランスで配合された短編小説ばかりである。物語の内的論理はほとんど完璧であり、繊細な心理の絡み合いを冷徹なまでな巧緻さで組み合わせたその物語の曲折は、読者をぐいぐい引き込む魅力的なもので、いかにも英米短編小説の妙が味わえる。科学と幻想が渾然と融け合ったこの時代特有で、しかもアメリカ的なおおらかな明るさを底に秘めた作品たちで、とても楽しんで読めた。
著者自身を思わせる御曹司が顕微鏡マニアで、犯罪もいとわず究極のレンズを作り出し、ただの水滴のなかに異様な世界を発見する。マンディアルグの『ダイアモンド』を想起させる魅惑的なモチーフもさることながら、まさに宝石のように完璧なプロットが素晴らしい。短篇小説のお手本のような作品である表題作「金剛石のレンズ」、ボルヘスを遠く予感させる「世界が見える」(そしてボルヘスよりも数倍ブラックだ)、ワン・アイディアが素晴らしい「世界の秘密」、ゴシック・ロマンスのパロディ的中篇のほとんどアリス的なシュールさで、言葉遊びと連想の連続で成り立つ諧謔的な作品「てから口へ」は、ほとんど収拾がついていない展開に唖然とするし、登場人物全員がどこか頭のねじが一本外れた感じがしてひたすらうさんくさくおかしい。あまりのことに作者は途中で放棄、ラストは編集者がつけたというのだからどれだけデタラメか知れようというものだ。他、東洋風ファンタジーありメルヘンあり心霊ミステリあり、とバラエティーあふれる傑作短編集。