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商品説明
道路先進国となった今も止まらない道路整備事業。だが、道路が地方を豊かにする時代はもう終わっている。負の側面を豊富な実例によって明らかにしつつ、世界で進む脱自動車・脱道路の潮流を紹介する。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
服部 圭郎
- 略歴
- 〈服部圭郎〉1963年東京都生まれ。カリフォルニア大学バークレイ校環境デザイン学部大学院修士課程修了。明治学院大学経済学部経済学科准教授。著書に「サステイナブルな未来をデザインする知恵」など。
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紙の本
この国のゆくえ
2009/10/31 19:57
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良泉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書のタイトルについて、著者は二度にわたり弁解する。
まず「はじめに」から。
「本書のタイトルは編集部の提案によるものだ。当初の題名は「道路をつくると地方は衰える」であった。(中略)筆者は必ずしも、道路整備事業すべてが罪であるとは考えていない・・・」
次に「あとがき」。
「編集部が提案する書名の「大罪」という語を嫌い、ペンネームで出版することを考慮した・・・」
まずは、著者の躊躇に対し拍手をおくりたい。そして、この書名の件に関しては、編集部の「売らんかな」の姿勢は大きな“大罪”であると思う。
公共事業のあり方が問われ、大きな問題となっている。特に民主党政権となったことから、今後も無駄な公共事業に対する追求は進んでいくことと考えられる。
その公共事業の中でも、これまで特に大きな金を使い、無駄が目立ったものとして道路整備事業があげられることが多い。
道路整備事業が無駄の象徴として、新聞などでもやり玉にあげられている。
しかし、安易にその流れの尻馬に乗って、道路整備事業または公共事業全てを「そく悪」とはやし立てる風潮にも疑問を感じる。この書名も、その流れに安易に乗ろうとする姿勢としか思われない。
筆者も言うとおり、「必ずしも、道路整備事業すべてが罪であるとは考えて」はいけない。それでは、問題の本質を見失う。
本当に必要なものと無駄なもの、その見極めを付けようとする真摯な姿勢が求められている。
本書は、この“俗悪な”タイトルとは裏腹に、この「本当を探るため」の努力がちりばめられた良書である。本当を知ろうとする読者に正しい情報を与えてくれるものである。
著者が本書で示そうとしているのは、道路整備が地方に何をもたらしたのかの検証である。そしてその検証の結果、道路整備は必ずしも、地方に恩恵を与えるばかりではないということが判明した。それどころか、道路整備がなされたおかげで、活力がそがれ、むしろ衰退に向かうこととなった地方の実態が例示される。
繰り返すが、道路整備すべてが悪ではない。しかし逆に、道路整備すべてが善でもない。
地方にとって必要不可欠な、いわゆる「命の道」というのがある。救急車や消防車が通れるように、大雨の時にも集落が孤立することが無いように。また、子供達が危険にさらされている通学路には、早く安全な歩道を付けるべきだ。
逆に、本書に示されるように、道路整備が地方の衰退を招くこともある。
本当に難しい問題だと思う。しかし道路整備が必要かどうか、その地方地方が、やはり自主的に判断していくしかない。
一つだけ正しいこと、それは、間違っても道路整備事業を利権の道具としてはいけないということ。政治だけで道路整備事業の優先順位が決められてはいけないということ。
それさえ守られれば、この国の公共事業の進め方に、まだ活路はある。
紙の本
ヒューマンスケール
2011/03/07 13:19
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:りっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
昨年、服部圭郎さんに我が家のすぐ近くを通ることになる都道小平338号線の予定地を歩いてもらった。小さな駅の商店街、何の変哲もない住宅地、雑木林、畑の中の道・・・私には見慣れた風景だが、これを絶賛された。著書にもあったヒューマンスケールということらしい。駅前は人と自転車の往来が多く、車は別に進入禁止ではないのだが、たまにきても遠慮して徐行している。それが商店街として最高らしい。確かにそう言われれば、車の往来が激しければ、歩きながら店の中を覗く余裕はない。買う気も失せる。車のほとんど通らない道では「ホラ、道路って無駄でしょう?」と言われた。確かに、車が通らない時は意味がない。うちの前の通りのように、通り抜けができない道では、子どもたちも遊んでいるが、いつ車が来るかわからない道路では、遊んだり、立ち話もできない。幅広い道路の地面には住宅や公共施設なども建てられない。そうかぁ、「道路を拡幅しても交通渋滞を解消することができない、ということは既に常識である。むしろ、道路に渋滞がないことの方が過剰投資をしている証拠であり問題だ。渋滞は解消できないことを理解し、ある程度の渋滞はプラスであるということを認識するべきだ」「道路は一人で自動車に乗っていると、あまりにも空間的には無駄である。それに、道路の拡幅、インターチェンジの整備にはお金がかかり過ぎる。自動車の利便性ばかりを意識しないで、それよりも他にいい解決方法があるのではないか、というのがポルダー市の交通政策の基本である」。なるほど。
服部さんのプログにはこう書かれている。「小平市では都道338号線が、玉川上水を縦断するだけでなく、それに隣接してある雑木林をなぎ倒して整備される計画がある。貴重な雑木林をなぜ潰してまで道路を整備しなくてはならないのか。しかも、この道路に並行して府中街道が走っているのにも関わらず。税金の無駄使いだけでなく、貴重な自然資源を失うという事実に愕然とする。このような貴重な緑や自然を破壊してきた文明は確実に滅びるであろう。道路整備事業そのものより、そのようなことも分かっていない発想に怖いものを感じる。というよりかは、誰かこの素晴らしき大都市東京を内部から崩壊させようとしている陰謀を企てているものがいるのだろうか」。
東京は世界に誇れる、公共交通網の発展している都市。玉川上水も自慢できる史跡だ。飛行機からそのグリーンベルトがくっきり見えるそうだ。その玉川上水を分断、あるいは両側を通るような道路がこれからどんどん作られようとしている。緑は人類の財産、それを潰してまで道路を作る必要があるのか?私は、未来をどんなものにしていこうとしているかの分岐点だと捉えている。道路の問題は、私たちの暮らし・生き方の問題なのだ。あなたなら次世代に残したいと思うのは、緑?それとも道路?この本には車優先の道路は、人のためになっていないよ、特にこの日本では・・・という様なことがいっぱい事例として載っている。
服部さんが「専門としている都市デザインでは、いかに自動車を都市中心部から排除し、歩行者を中心とした公共性を確保するかが、魅力的な都市空間をつくりあげるうえでの重要な方法論となっている。実際、自動車用の道路を撤去するという荒療治で、都市の魅力を向上させた事例は世界中で見られる。商店街は通りから自動車を排除させたほうが、一般的にはにぎわいを増して売り上げ増にもつながるのだ。」
「世界中の都市でその魅力を発散させている場所は、ほとんど例外なく、ヒューマンスケールの公共的な街路空間だ。前章で紹介したコペンハーゲンのストロイエをはじめ、バルセロナのランブラス、ミュンヘンのノウハウザー通り、エジンバラのロイヤル・マイル、ウィーンのケルントナー通り、ブタペストのバシ街、ブエノスアイレスのフロリダ街、クリチバの花通り、と枚挙に暇がない。これらの空間に共通する特徴は、人間を主人公として位置づけ、自動車をほぼ排除していることにある。」
この本は事例がいっぱい載っていて気軽に楽しく読める。特にクリチバ市。商店主の反対を強引に押し切った市長の先を見る目に感心しちゃった。「一カ月ほど経つと商店の売り上げが二倍から三倍に増え、反対していた商店主たちはレルネルの慧眼に感服することとなった」。
この本を読むと元気になるよ。実践すればもっと日本は元気になると思う。
「たとえば東京で元気な商店街は、そこを分断する大きな道路がないところがほとんどだ。若者に人気の街として知られる下北沢、高円寺北口にある高円寺純情商店街、十条の北側に展開する十条銀座、東武東上線の大山、東急東横線の学芸大学などがそうだ」。大山銀座も好きだなぁ。去年用事で出かけた時、踏み切りで自転車に乗ったおじいさんがこけたのよね。そしたら5人ほど駆け寄って、電車が来る前に自転車とおじいさんは無事渡りきれました。その人情がいいなぁ。なのに、「下北沢の街がいま、行政によるトップダウンの再開発計画によって、破壊されようとしている。この街から小さな店と、人がゆっくり歩ける路地と、どこからでも見上げることのできた空の青さが奪われるかもしれない」んだって。「再開発」というと聞こえがいいけれど、実質は「破壊」になるのかもよ。
「道路族といわれる政治家、また地方の土木業者が、きわめて限定的な組織や人の利益のためだけに道路を整備しようと確信犯的に行動している一方、道路こそが国を豊かにする、道路こそが調和の取れた国土の発展を実現させる、と心から思っている善意の役人や人々も少なくないのだ。だからこそ、道路整備への邁進が止まらないのだろう。しかし、道路こそが国を豊かにする、というのは本当なのだろうか」。
住民の意見を聞こうともせず、道路建設(ダムもだけれど)を強行するのは、「道路族」がいるからだと思うけれど、一番困っちゃうのはなんとな~く「道路ができるのはいいことなのだ」と思い込んでいる人が多いことなのだ。ここらで、この本を読んで、先の世に思いを馳せて、じっくり検討していただけないかしら?