- 販売開始日: 2012/02/03
- 出版社: PHP研究所
- レーベル: PHPサイエンス・ワールド新書
- ISBN:978-4-569-70830-0
動物たちの反乱
国の森林皆伐計画によって繁殖力が強化され、森林の土壌に大きな影響を与えるまでに増えたシカ。数年に一度大量出没するクマ。食物だと認識していなかった人間の農作物を、採食し始め...
動物たちの反乱
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商品説明
国の森林皆伐計画によって繁殖力が強化され、森林の土壌に大きな影響を与えるまでに増えたシカ。数年に一度大量出没するクマ。食物だと認識していなかった人間の農作物を、採食し始めたニホンザル。神戸市内でゴミをあさるイノシシ…。かつて人と動物の“入会地”であった日本の里山は、今や野生動物の領有地となっている。なぜこのような問題が起こっているのか? 人と動物と森の理想的なあり方とは? 兵庫県はこれらの問題を解決するために、2006年、兵庫県森林動物研究センターを設立した。本書は、同センターの名誉所長であり、世界的なサル学者である河合雅雄、同センターの所長で東京大学教授の林良博、そして同センターの研究員六名が、野生動物の現状に迫った一冊である。日ごろ野生動物と接する機会が少ない都会人にこそ、日本の環境の実態を知るために読んでもらいたい。
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むやみな駆除でなく、動物たちとの共存の道を探る著者たちの奮闘ぶりに期待
2009/12/23 00:23
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
世界的には絶滅の危機に瀕する動物たちが増えているのだが、日本では、逆に野生の動物たちが増加し、被害をもたらし始めている。
その現状を、複数の第一線の研究者が執筆し、報告している。新書にしては、かなり本格的な内容となっていて、読み応え十分だ。
被害をもたらしている動物たちは、シカ、イノシシ、サル、クマ、アライグマなど。こうした誰もが知る動物たちの生態が、意外に解明されていないことに驚く。そのため、まずは研究に比重を置かなくてはならないのが現状であることを教えてくれる。
こうした動物が増えている要因は複数あるが、山間部の高齢化と過疎化で、里山と呼ばれるエリアに十分な手が入っていないのが大きい。例えば、柿が熟せばかつてはもがれていたが、今となっては人の手が入らない柿の木が増え、野生動物を呼び寄せる原因となっている。
過疎化とは言っても、変わりなく農地を耕し、作物を育てる人たちはいる。農家の人たちが春から何ヶ月もかけて育ててきた作物が、秋の収穫時期になってから、動物たちに食い荒らされるのは、さぞかし無念だろう。
柿などの果樹や農作物は、奥山のドングリなどに比べれば栄養価が高く、しかも格段においしい。一度、味をしめたら、動物たちが何度も誘惑に駆られるのも無理はない。
比較的取り組みやすい対策は、農地を囲む柵の設置とある。電気が流れてあれば、より効果的だ。ただし、動物たちが容易に跳び超えてしまう高さだったり、柵の壊れたところから進入できるようになっていたり、柵の下を掘り返してしまえるようでは意味がない。柵もまた、設置して終わりではなく、メンテナンスが欠かせない。つまり、動物の進入対策は、相当に手間暇がかかる作業だ。負担が大きい。
歴史的に見て、日本では野生動物とかなりうまく共存してきたとある。ここへきて、山村部の人口動態の変化などにより、野生動物が増加し、被害をもたらし始めている。これは人間にとっても、野生動物にとっても幸せなことではない。
やみくもに有害駆除をしても、きりがない現状がある。そこで、ワイルドライフ・マネジメントという言葉が、本書では繰り返し出てくる。科学的な調査結果に基づいて、野生動物の生息数のコントロールや被害対策を講じようとするものだ。
ワイルドライフ・マネジメントは兵庫県が先進県となって成果をあげつつある。例えば、ツキノワグマが人里に出没しても、学習放獣するのが基本となっている。人里に出れば怖い目に遭う、という学習をさせてから放てば、あまり人里には戻ってこないのが追跡調査から分かっている(例えば、爆竹を鳴らしたり、唐辛子入りのスプレーを吹きかけてから逃がす)。
本書の最終章には、縄文時代にまで遡り、江戸時代に至るまで、日本人が主にタンパク質を魚介類から摂取し、牛、馬、猪、鹿の肉はあまり食べてこなかった歴史をひもといている。
日本人の食生活はすっかり変わったので、こうした歴史文化にはもはや立ち戻ることはできないが、科学的な調査に基づいて、より賢明な共存の道を探ろうとする著者たちの奮闘ぶりには、なかなか敬意を払うべきだけのものがあると感じた。