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完結目前で10年以上も休載した歴史大長編。面白くて丁寧な描写で西洋中世がたっぷり楽しめる。
2010/11/13 17:51
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
14世紀の中世スペインで活躍したカスティリア王の一生を描いた歴史長編。重厚な中に漫画的な面白さをふんだんに盛り込んでいて、楽しみながら世界史を身近に感じられる漫画です。1991年日本漫画家協会優秀賞。
1994年、もうじき完結するかとみえたあたりで、本作品は中断します。そこまででも既に単行本で12冊という長さでした。雑誌は読んでいなかった私は掲載雑誌の休刊を知らず、「まあそのうち出るだろう」とのんびり構えているうちに少女マンガの売り場に立ち寄るのも少々気が引ける年になっていました。
本屋はやはり、時々「逍遥」してみるものです。少し前ふらりと漫画コーナーの前を通ったら、本作品が文庫になっていました。しかも7巻(本書です)には「ついに完結!」の文字が。休載から13年、2007年になって完結編がでたのだそうです。単行本12巻の最後、尻切れトンボに終わったところから話は丁度つながっていて、長い物語がやっと完結。この間の経緯も、いつもの著者らしい挿入頁で説明がされていました。主人公ドン・ペドロの壮絶な最後も上手に組み込まれ、その後のヨーロッパの歴史の長い流れに溶け込むような終り方もすとんと胸に落ちます。長年の「未完結」の心地悪さがすっきりと解消されました。
細部は忘れていたので今回最初から読み直したのですが、要所要所の、著者らしい描写は今読んでも楽しいです。上に立つものの孤独、血縁と政治の複雑な関係。男ごごろに女ごころ。西欧中世だけでなく人間模様としてもさまざまなものが書き込まれています。女性らしいマリアの手に重なったペドロの手の大きさが「男らしさ」を感じさせたり、建築物や衣裳もよく調べられていて(後ろから見た服装とか「その下」とか、戦場での食事とかがどうなっていたとか、簡単にはわからないところもちゃんと描いてある。想像もあるかもしれませんが。)著者の筆力はやっぱりすごい!と感心の連続です。
イスラムとの関係、フランスやイギリスとの関係など、ちょっとごっちゃになりやすいヨーロッパの歴史を改めてつなぎなおしたりもできるし、スペインの歴史・文化に興味を持つきっかけになった、という人がいるのもうなづけるお話です。
私と同様、完結が気になったまま「随分な年齢」になった方も多いのではないでしょうか。文庫本のあとがきには、西洋中世史やイスラーム史の准教授などの名前が連なり、本書が歴史的にもきちんとした基盤を踏まえて書かれていることを裏付けているのですが、それとともに、これらの研究者たちがこの本を読んで育ち、今も自分の学生たちに勧めたりしていることもわかり、ここにも長い時間の流れを感じてしまいます。
ちなみに、本書から派生した物語「修道士ファルコ」シリーズも、別の雑誌ではありますが、やはり掲載雑誌の休刊で9年間休載したそうです。発表の場がなくなる、という「出版社の事情」の影響からはどんな作家も逃れられないもののようですね。
それにしても「続きを書きたい」意欲を持ち続け、13年の時間を開けても完結させた著者の熱意も嬉しく、この場を借りて敬意を表したい思いです。