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商品説明
シンデレラ、白雪姫、みにくいアヒルの子…耽美で鮮烈な現代版西洋童話、全7篇。【「BOOK」データベースの商品解説】
シンデレラ、白雪姫、みにくいアヒルの子など、代表的西洋童話を現代日本に置き換えた、耽美で鮮烈な全7篇を収録。『小説すばる』掲載に書き下ろしを加えて単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
収録作品一覧
迷子のきまり | 5−32 | |
---|---|---|
鵺の森 | 33−61 | |
カドミウム・レッド | 63−92 |
著者紹介
千早 茜
- 略歴
- 〈千早茜〉1979年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。小学生時代の大半をザンビアで過ごす。2008年「魚神」(「魚」改題)で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。同作で、泉鏡花文学賞受賞。
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紙の本
嶽本野ばらがおとぎ話を書いたら、きっとこんな雰囲気になるだろうな、って思いました。毒の混ぜ方がとても上手、その暗さが、湿っぽさが、文章が今流行の軽さを拒否しているようで気高さすら感じます。
2011/07/11 20:01
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
千早茜は、『魚神』で私を虜にした作家で、現在、最も期待できる一人と言えそうです。前作の装幀は、新人作家には勿体無いような素敵なものでしたが、今回のものも総じて好きなデザインといえます。私は、どちらかというと単行本はすべからくハードカバーであるべきだ、と思う人間ですが、今回に関してはソフトカバーも小説の内容には相応しいし、紙のしなり具合も嫌いではありません。
ただ、です。どうも雰囲気が海堂尊の『ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて』に似ているんです。よく見れば違うんですよ。同じなのは赤い色だけじゃないか、向こうはハードカバーだし、なんて言わないで、見比べてみてください。さりげないキンキラの入れ方や、白の遣い方。違うんですけど、似ている。第一、赤といったっていっぱいあるのに、この赤が似てるっていうんだから・・・そんな、装丁は松田行正+日向麻梨子。
それにしても、サブタイトルが興ざめです。人によってはこれだけで手を伸ばさない人もいるのではないでしょうか。単純に『おとぎのかけら』でよかったのに、ブツブツ・・・。早速、内容ですが、とりあえずビール、じゃなくて出版社のHPの言葉は
*
本当に幸せなのは誰か? 現代のおとぎ話7篇
シンデレラ、白雪姫、みにくいアヒルの子など代表的西洋童話を現代日本に置き換えた短篇集。童話の結末に疑問を抱く著者が見つけた、それぞれのハッピーエンドとは? 泉鏡花文学賞受賞後第一作。
*
となっています。そうか、まじで西洋童話を現代日本に置き換えたんだ、それなら興ざめサブタイトルもやむなしか、だって本当にそうなら、断り書きがなければ読んだ人間のほうで「あれ、これって有名なあの話ジャン」なんて言い出して、どうでもいいような騒ぎになってしまうかもしれない。各話のタイトルだけ見れば、元の話は分からないでしょうが、きちんと童話名が書かれているんじゃあ、仕方がありません。というわけで、早速、それぞれのお話の内容紹介。
・迷子のきまり(「帰らない子ども」改題 小説すばる2009年12月号):ヘンゼルとグレーテル。離婚して荒れている母親から虐待されている兄妹。母のもとに帰るのを拒む妹は・・・
・鵺の森(小説すばる2010年4月号):みにくいアヒルの子。自分に苛めが向かってこないように、こっそり手をうって、矛先を他の人間に向かうようにした。その相手に何年ぶりかで出会って・・・
・カドミウム・レッド(小説すばる2010年2月号):白雪姫。美しい絵を描くことに情熱を傾ける女講師と、それを醒めた目で見る美大の事務員。叔父の助手をすることもある彼女に、その妻でもある講師は・・・
・金の指輪(「ゆがんだ指輪」改題 小説すばる2009年10月号):シンデレラ。資産家の家に生まれ何不自由なく育った青年が探しているのは、昔ピアノのレッスンに通っていた時に出会った少女・・・
・凍りついた眼(小説すばる2009年8月号):マッチ売りの少女。取締役の姪を妻に持った男は水商売の女が苦手だった。そんな男が出会ったのは、痩せこけた少女。金を払えばにんでもするという彼女に、ただ話を聞いただけの男は・・・
・白梅虫(書き下ろし):ハーメルンの笛吹き男。同棲している女が祖父の形見分けで押し付けられてきた梅の盆栽。虫がついたのをいいことに、気になっていた女性に声をかけ・・・
・アマリリス(書き下ろし):いばら姫。83歳の祖母は、起きている時は子供にかえる。そんな祖母をわたしたちは〈さやちゃん〉と呼ぶ。そんな祖母を訪ねて来た男は・・・
さすが、私が見込んだ作家です、千早は見事に元ネタを換骨奪胎し、現代小説として蘇らせています。ちらっと、乙一と嶽本野ばらの名前が脳裏を過ぎりました。ともに独特の味わいを持った、透明であるよりはどこか纏わりつくような暗い雰囲気の文章を駆使する作家ですが、現代日本であってもどこか幻想的な世界を舞台にしている、という点でも似通っています。ふと、思いついたのですが、その先頭を走っているのが桜庭一樹かな、なんて思いもします。
ちなみに、四人の生年と出身地を見ると、桜庭は1971年、鳥取県生まれ。嶽本は自称1974年、京都府出身生まれ。乙は1978年生まれ、福岡県生まれ。千早は1979年北海道生まれ。見事に東京と縁がなく、おまけに全員が1970年代作家です。だからなんだ、と聞かれても困るんですが、少なくとも東京の人間からは、こういう文体が生まれにくいということは感じています。
どの作品も、レベルが高く、出来に差はありません。各話の主人公にしても、子供から老人まで巾が広い。そういう点で、誰もが物語の力を実感できる作品集だと思います。美術の世界でもそうですが、小説世界も1960年代作家が主軸になり、1970年代作家がその力を見せ、1980年代作家が芽を出し始めた、それが2011年です。10年後に、桜庭、嶽本、乙、そして千早がさらに大きな存在となっていることを願ってやみません。