紙の本
ユーロの歴史と将来展望は、人類にさまざまな希望と試練を同時に与えている
2011/04/04 00:13
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
まぎれもない力作だ。本書は、ユーロという通貨が誕生する経緯を説明しており、またリーマンショックが広く波及した世界的金融危機にも言及している。したがって、80年代、90年代、2000年代以降の世界経済の情勢を概観することができる。
ユーロが誕生する経緯を理解するには、EUが形成された政治的な思惑も考慮する必要がある。89年の東西ドイツの壁の崩壊という世界史的なダイナミズムが、ユーロを後押ししていたのである。
ドイツが統一されることで、その影響力が増すことをおそれたフランスをはじめとする各国が、ドイツと足並みをそろえさせた。ドイツの側でも、ユーロという共通通貨への影響力を保持しながら、参画することの意義が増した。当時の世界情勢を知る人には、その背景としての金融の世界で何が起きていたのか、著者に教えられる。
リーマンショックが米国だけでなく、EUや日本の金融をも揺るがした。その仕組みは2008年秋以降の新聞やテレビでおおよそ説明されているが、それを著者は、的確な描写でおさらいしてみせる。これはよい頭の整理になる。また、改めて世界の金融が怖いくらいに一体性を高めていることに気づせてくれる。
サブプライムローンが証券化商品によって世界にまき散らされたことで、その痛手は米国50%、欧州40%、その他10%と、予想よりもEUに打撃を与えた。この構図は、これからも世界のどこかで問題が生じる度に再現されるだろう。
ユーロは、2007年ごろまでは、世界通貨としての地位を高め、ドルに迫る勢いがあった。それが、ギリシャをはじめとする南欧諸国の問題によって、勢いが衰えている。エコノミストによっては、ユーロの崩壊や解体を予測する人もいる。
著者が本書を著した動機は、ユーロ解体がありえないことを、さまざまな経済事象やユーロが果たしている役割などを一つ一つ検証しながら、示したいというところにある。
共通通貨には、ドイツやフランスなどの強国だけでなく、ギリシャやPIGSと呼ばれる財政事情に問題のある国々が加盟したことで、予想しない問題が生じたという。特に、ドイツは、中東欧諸国が加わったことで、安価な労働力や新興市場、原材料の供給地を得て、経済力が増した。
一方、南欧諸国も、インフレなどの国内問題を抱えていながら、EUの共通した低金利金利という好条件を利用して、住宅バブルや消費ブームを引き起こして、一時的な好景気に沸いた。南欧諸国が、ユーロ加盟の好条件を産業育成に回していれば、バブル崩壊に見舞われなかった可能性がある。
南欧諸国のバブル崩壊に直面して、その救済のためにドイツは多額の資金拠出を迫られてしまう。ドイツの国内世論は、ギリシャの放漫財政に怒りを覚えるが、これを救済しないとさらなる危機が起きてしまう。米国にも説得されて救済に乗り出すが、このあたりの苦渋の決断が著者の懇切丁寧な描写によって、手に取るように分かる。
ユーロという共通通貨を創設し、まがりなりにも10年以上やってきたからには、もう後戻りできないというわけである。ギリシャの危機は一時的な手当がなされただけで、再燃するおそれが高いと著者も指摘する。
ただ、エコノミストたちと違うのは、それでもユーロなしにはEUはやっていけない以上、危機に対処するルールを整備しながらやっていくだろうという展望を語る点である。
EU経済圏を30年に渡って研究してきた著者であるから、たぶんにユーロへの肩入れは感じられるが、予想されるこれからのシナリオをきちんと考察しつつ、それでも前に進むべきだとする意志には敬服する。ギリシャのユーロ離脱、ドイツのユーロ離脱などのシナリオをありえない予想として退ける。
結局のところ、人類はそれが正しい道であろうと誤った道であろうと、進んでしまったからには、その地点からしか先には進めないということである。時計の針を巻き戻して、最初からり直すというわけにはいかない。修正主義でいくしかないのである。
ユーロを取り巻く金融情勢を著者とともに確認しているうち、そうした人生訓のようなものにたどり着いたのは、東日本を襲った大震災の影響下に今なおいるという厳しい現実がそうさせたのかもしれない。
夢なら覚めてほしいという願いを聞くことが多いが、私たちはここからやっていくほかないのである。震災のおよそ半年前に書かれた本書は、著者にはその意図がないとしても、今の私たちにそのことを教えてくれるようだ。
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ユーロの歴史とともに、現在の危機を説く。
著者は、決してユーロは後戻り出来ないと主張する。
現在の危機を乗り越えるには、さらに進化するしかないだろう。
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今更ながら、ギリシャのひどさを知った。それとドイツの強さも。ひとつの通貨にすることは、水路を設けて、水田の水をどこも一定に保つことにも似ている感じがした。
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ユーロの果たした役割
・ユーロ圏経済の安定化を実現
・ユーロ圏経済統合を大きく進展させた
・ヨーロッパの基軸通貨、そしてドルに次ぐ世界第二の基軸通貨となった。
アメリカは1980年代までソ連に対する冷戦体制を支えるために、軍事宇宙技術分野に多数の科学者、技術者を抱えていたが、冷戦終結によってそれらの人材が民間にスピンオフしてインターネットやコンピュータ技術の飛躍的発展、金融工学の開発に貢献した。そしてICT革命を支え、またICTの民間経済への大規模な導入によって労働生産性の引き上げに成功した。
経済同盟は、商品・サービス・資本・人の自由移動を実現した単一市場が経済同盟の基盤である。
サッチャー、ミッテランは同値統一に反対したが、ソ連、アメリカは同一統一を後押しした。
ギリシャで発火した経済危機にドイツ人が冷静さを失ったことは不幸だった。ルール重視のドイツ人はギリシャ人のでたらめさを許せなかったのだ。
ユーロ体制はドイツが基軸にならないと回せないだろう。メルケルはEUの大統領である。
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通貨統合の歴史と政策決定過程、さらには昨今の世界金融危機とギリシャ危機以降のユーロのあり方を概説する。論旨としては、ユーロの通貨統合の歴史とそのモーメンタムを提示し、一部の雑誌や学者に囁かれている「ユーロ崩壊論」に異議をとなえる内容である。
元来、ECBは通常業務を行うものであり、今回のような金融危機への緊急対応を行う制度は整備されてこなかった。そのため、今回の出来事を踏まえてユーロの制度改革が進むと筆者は述べる。
今後は財政赤字の大きい南欧諸国(PIIGS)とドイツを中心とした財政健全国との齟齬の解消が焦点となる。金融市場の監視と各国財政の健全化、また支援ローンの返済をいかに行うかが鍵だ。
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田中素香さんは今のギリシャ含めユーロに対する市場の過度な悲観論に対して、またメディアに煽られて狭量で、偏ったものの見方しかできない人間に対して、注意を促しているようにも思えた。あとがきにも著者はそのことについて言及している。「通貨は一つだが、財政はバラバラ」-そんなところに今回の欧州危機の欠陥があったと一概に片づけている人がどれだけいるだろう。かくいう私も、要因はそれだけではないにしろ発端の一因だとは考えていた。しかし一般には多くの人がニュースや番組で出演するどこかの教授やその畑の人の意見にあまりにも簡単に感化されすぎであると思う。実際に現地にいって研究したり、EU関係者にでもなって当事者にならない限り、私たちはもっと広い視野をもち、一時の事象に囚われず、その国の歴史を軽視するべきではない。「だってテレビで○○大学の教授が言ってたし」「だってニュースで言ってたし」とかそんな根拠はユーロを過度に批判、否定する何ほどの根拠にもなりはしない。批判するのならそれ相応の根拠が必要である。私は意見を主張することの難しさをこの本で改めて痛感させられました。歴史や統計、様々な著者の方の意見を読んだ上で、自分の意見に責任を持ちたい。
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ギリシャ危機よりユーロについて精力的に執筆していた田中素香氏(中央大教授)のユーロについての本。学術書を書くマニュアルがあるとするならば、それをきちんと徹底した本であると思う。というのは、序論・概論・歴史・今日・建設的提案という流れは非常に汎用性が高い型通りに書かれているからである。そのおかげあって、内容的には穴がなく一通りユーロについては理解できた。筆者が述べるよう、今回のギリシャ危機の原因はユーロによるものでもなく、ましてやギリシャが自らユーロを離脱することにメリットはない。一方で、ドイツやフランスといった主な基金負担者は、ユーロ及び自国の経済のためには非常に政治的行動力をともった決断が必要と言えるだろう。その意味では、今回のギリシャ危機はユーロ圏にとって試練の時と言える。また、最近ではユーロ国債なるものが考案されているが、これは安易に減税を求めるポピュリズム民主主義の抱える問題の先送りに過ぎず、相互の国による監視・管理こそが最も望まれる提案である。その前提において、ドイツが憲法の中に財政に関する規定を付けくわえたことは先進的と言える。いずれにせよ、これから流動的となるユーロを確かな視座を持って見据えることを可能にする良書であると言える。
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教科書的な所が多かったけど、後半になるにつれ面白かった。物価の安定、金利の安定って日本じゃ感じないけど、大切なんだな。
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2章にユーロ導入までの道のりが書かれている。通貨統合を決定的にしたのは「ドイツ統合という戦後の世界政治の大転換であった。」
通貨統合前の西ドイツの「世論調査では常に60%以上が通貨統合に反対であった。」
「『EC統合とはドイツ問題である』といわれた。ドイツは20世紀、イギリス、フランスの植民地帝国主義に対抗して中欧地域に覇を唱え、二度のヨーロッパ戦争・世界大戦の口火を切った。EC統合は第二次世界大戦後に西ドイツを西欧に包摂して、仏独不戦体制の構築を目的にスタートした。ECとは西ドイツを平和のうちに西側体制に包摂するための知恵と努力の結晶であった。」
しかし1989年11月のドイツ再統一によって欧州情勢は全面的に転換した。主権を回復したドイツがECを離れてソ連(あるいはロシア)と取引し、再び中欧に支配権を確立するような次のヨーロッパ戦争につながるかもしれないという警戒感がEC各国を支配した。
「イギリス・サッチャー首相とフランス・ミッテラン大統領はドイツ統一に反対したが、ソ連の再強化を警戒したアメリカは強く統一を支持し、ソ連のゴルバチョフ大統領も統一に反対しなかった。米ソが支持するとなれば、イギリス、フランスが阻止するのは不可能であった。不可能とわかると条件闘争になる。
EC諸国はドイツ統一を無条件に承認し、東ドイツを即ECに迎え入れ、また西ドイツの中央銀行制度を模範に通貨同盟を組織するという約束をした。その代償としてドイツはマルクを放棄し単一通貨を採用する。マルク放棄とドイツ財政のECレベルでの規制によって「独り歩き」を封じる。
この取引をコール首相に代表されるドイツ支配層は受け入れた。ドイツ財務省の手になる当時のユーロ解説文献には、「マルクを放棄する以外に統一ドイツが他のEC諸国に受け入れられる道はなかった」と書かれている。
マルク放棄を決意した西ドイツ政府は、統一通貨を西ドイツ風に制度化することを要求した。統一通貨はマルク同様に物価安定を目標とすること、欧州中央銀行制度は西ドイツ連銀制度をモデルにすること、などである。ECBの所在地がドイツの金融センターであるフランクフルトに決まったのも、その一環と考えられる。」
「ドイツ統一がなければ、あれほどすんなりとドイツ型の通貨同盟が受け入れられることはなかったであろう。通貨統合を時代の風が後押ししていたのである。そしてこのことは、ユーロが『政治的通貨』というDNAを継承していることを物語っている。
さらにコール首相の決断が非常に重要であった。コール首相は世論調査の結果が通貨統合に不利であってもまったく動揺しなかった。『欧州統合は平和か戦争かの問題だ』と繰り返し、世論を押し切った。統一ドイツが統一通貨の制度に組み込まれなければ、また戦争に向かうかもしれないという危機感をもっていたのである。ドイツ南部で敗戦の日を迎えた若きコールは鉄道が麻痺していたため故郷の街まで徒歩で帰ったのだが、その途上で見たドイツの町々は空襲で見るも無惨に破壊されていた。『ドイツは二度と戦争をしてはならない』と念じて彼は政治家になった。」
2010年6月に開かれた80歳の祝賀会においてコールは「ドイツ人がドイツのこ��だけを考え、ギリシャやユーロ圏全体のことを考えないことに警告を発した。戦争体験世代が政界からいなくなった21世紀のヨーロッパに危機感を抱く人は少なくない。」
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ユーロ危機が叫ばれている。大学のゼミが欧州政治であった為、復習のつもりで読んだ。
氏の見解(2010年著なので少し古いが)は、「ユーロは崩壊しない」という結論。
通貨統合のもたらした意義と背景を丁寧に説明されているが、特に1990年以降急速に発展した金融経済(マネー経済)から欧州経済を守った意義が大きい。確かに、1992年のEMS当時の投機筋による欧州通貨危機と、それに続いたアジア通貨危機は、ユーロ発足を政治的な観点からも大きく前進させた。
しかし、ユーロ発足後の欧州経済の発展は、当初の「シナリオ外」の好循環、つまりバブルであった。(財務的にわりと危なく、国債の金利が高かった国が、ユーロ発足後信用度が高まり国債金利が切り下げられ、資金が流入してバブルになった)ギリシャは粉飾を続けていた。欧州経済安定のために、欧州各国が支払った資金は5500億ユーロ(IMFは2000億ユーロを出資)ギリシャに続いて他の国も危なくなったら、独・仏などの国民の怒りは計り知れない。
氏は、ドイツにとってユーロを手放すことは逆に損になるとしている。その理由は、マルクが高くなり製造業が大きなダメージを受けるというが、それは本質からずれて詭弁であるように思う。
それでも、やはりユーロは崩壊しないだろう。少なくとも欧州内部から自壊することを必死に独、仏は食い止めると思う。
ユーロは多くの欧州国民にとって前進/進歩の証であり、それを手放すことが改革と考える人は少ないのではないか。
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ユーロの成り立ち、長い歴史の中での現在の到達がよくわかる作品。ギリシャ危機といわれるものが、その後著者の予告のとおり解決に向かったことで、この著書の価値が判る。
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p-5「利回り格差」
「ユーロ導入により、ユーロ加盟国の国債の利回り格差は一晩で消えた。」
p-7「ユーロ加盟の利点」
「経済の遅れた国がユーロに加盟すると、国の信用力が強化され金利が下がり、資金調達コストが低下する。ユーロ圏での為替リスクもなく域内の進出が活発化し、経済成長を促進する。」
p-8「ユーロ加盟の4条件」
1.物価安定:域内の物価安定上昇率が低い方から3カ国の平均から1.5%以内
2.低い長期金利:1.の3カ国の10年国債の平均の2%以内
3.為替相場の安定:ユーロとの2年間の相場安定
4.財政赤字がGDPの3%以下および債務残高60%以下」
p-25「シェア」
ドル :86%
ユーロ:37%
円 :17%
p-27「貸付高」
ドル建て :3兆ドル
ユーロ建て:1兆ドル
円建て :1000億ドル
p-27「外貨準備高」
ドル :62%
ユーロ:27%
p-28「ユーロ圏の収支」
「経常収支はほぼ均衡⇒赤字のドルと違い世界にバラ撒かれていない。」
p-29「基軸交代」
「ユーロ圏が経済力を基軸通貨戦略に集中させる政治力、外交力を備えない限りあり得ない。今のところユーロにその意思はない。」
p-38「4つの自由」
「単一通貨地域には商品・サービス・資本・労働力の4つの自由がなければ経済の不均衡が生じてしまう。」
※実際は労働力の移動は難しい。やはり自国(いい国)で働きたいと思う。
p-66「ドイツ統一」
「ドイツはマルクを捨ててユーロになることに反対だったがドイツ統一(東ドイツもEC入りすること)と引き換えにユーロを認めたが、マルクをモデルにすることを要求した。」
p-74「通貨危機」
「EMS域内の為替変動をなくすと金利差を利用され通貨危機に陥る。ユーロ導入はその対抗措置でもある。」
p-83「ECBの目標」
「物価安定が達成されている限りにおいて、他の政策目標を支援できる。」
p-85「金融調節法」
「ユーロはインターバンク金利をオペにより誘導する通常の方法」
p-90「単一金融政策のジレンマ」
「ある国では高金利で不況を深刻化させる一方、ある国では低すぎてバブルを引き起こす。」
p-94「制止措置」
「財政赤字がGDP比3%を超えると、赤字の削減手続きを取らされる。」
p-96「外貨準備」
「ユーロシステムの外貨準備は4600億ユーロ、日本の半分、非常に少ない⇒市場介入をしないから」
p-98「介入」
「2000年に唯一介入し、ユーロ下落を食い止めた。」
p-110「マーストリヒト条約」
「ユーロ制度は平時の対応を決めただけで、リーマンショック後のような危機を準備してなかった。」
p-116「住宅バブル」
「基軸通貨ドルとかけ離れた高い金利を付ければ、資金が流入し資産バブルを起こす。世界はバブルになった。」
p-151「ハードカレンシー」
「ユーロ加盟国で流動性危機に陥った時、ECBは無制���にユーロを供与して銀行を救済する。ソフトカレンシーでは世界は受け取ってくれない。」
p-158「スプレッド」
「それまでは、ドイツとギリシャの国債のスプレッドはほとんどなかったが、リーマンショック後二つは同じ国債ではないことに気づき、2~3%に広がった。」
p-165「ユーロ借入」
「ギリシャは危機時ユーロを1100億ユーロ借入れた。自国で発行する国債を中央銀行が買えない条約があるからだ。」
p-168「ドイツ世論」
「ドイツ世論はギリシャ支援に反対だが、ユーロ暴落はドイツ人の生活に悪影響を及ぼすため、最終的にドイツ政府は支援を決めた。」
p-172「IMFの参加」
「EUの基本条約(リスボン条約)には危機に陥った国を義務で縛りつける規定はない。IMFの参加でそれが可能となる。また、IMFを通じてアメリカの意見が入ってくることは画期的である。ドイツのような内向的で世界経済に疎い国が主導権をにぎるEUにとって利益が大きい。」
p-174「トリシェの後任」
「ギリシャ危機でECBは各国の国債を買い続けた。その結果市場機能を回復させた。これに対し次期総裁候補のドイツのウェーバーは批判的。2011秋にウェーバーに交代したらどうなってしまうのか?」
p-180「ギリシャのごまかし」
「ギリシャ政府は財政赤字を過小評価し続けた。しかしEUはユーロシステム離脱の強制も検査する権限もない。」
p-182「ギリシャ離脱」
「ギリシャがユーロからドラクマに戻れば、ドラクマの暴落から負債は拡大し、間違いなくデフォルトする。」
p-186「リージョナルインバランス」
「ユーロ圏では、為替変動がないためインフレ国では競争力がなくなる。ドイツに有利、イタリア・スペインに不利。」
p-188「リージョナルインバランス2」
「ユーロ圏のリージョナルインバランスは各国の物価上昇率格差が是正されない限り構造的な問題として残り続ける。」
p-190「ギリシャの返済」
「2013年以降、450億ユーロを返済、その他合わせて800億ユーロとなる。」
p-202「世界金融」
「先進国の銀行は相互に資産負債を持ち合っているため、ユーロ危機は米英日にまで直ちに波及する。」
p-203「陰謀」
「ドイツ政府はギリシャ危機の問題として各国の経済発展水準の高低を無視している。ドイツにとっては競争力問題はドイツの競争力を引き下げる陰謀だという捉え方もある。」
p-210「熱意」
「EUの一体性が薄れてしまった。オランダのように熱心だった国ですら、21世紀に入ると顕著に冷めてしまった。戦争世代が引退し、「平和」が接着剤にならなくなったことも大きい。」
p-212「ドイツの思い」
「ドイツはすべてを手に入れた今日、EUでこれ以上新しい責任を持たされることに原則的に反対する。」
p-222「フランスの思い」
「フランスはアメリカ、イギリスと並んで世界政策を常に考えてる国。ヨーロッパ主導の世界を目指している。フランスにとってドイツ抜きのヨーロッパはありえない。」
p-222「ドイツの思い2」
「���ーロを離脱すれば、マルクは切りあがり製造業は大打撃を受ける。」
p-224「経済政府」
「フランスはリージョナルインバランスを縮小するような政策をとる経済政府の設立を提案するが、ドイツは反対。今後これが進まなければユーロの未来はない。」
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手頃で手堅いユーロの入門書。ユーロのこれまでの実績、ユーロ導入に至る歴史、ユーロの仕組み、2010年時点までの世界金融危機やギリシャ危機とユーロとの関わり、ユーロの今後の展望がコンパクトにまとめられている。ユーロの構造的問題としての、競争力問題を中心としたリージョナル・インバランスの問題の指摘が興味深かった。
著者は、ユーロの実績を高く評価し、ユーロの崩壊や解体はありえず、制度を前向きに改革するしかないという主張をしている。確かに、ユーロが全体として崩壊することはないだろうが、2015年時点で考えると、ギリシャのユーロからの離脱は避けられないのではないかと思う。ユーロをめぐる情勢は刻一刻と変化しているので、2010年時点までの情勢しかカバーしていないという点が本書の惜しまれる点である。
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20181028-1105 2010初版なので既読かもしれない。
2010年段階だと、ギリシャ危機がピークを迎えたころ。8年位前の状況を今振り返って読むと、なかなか面白い。まだシリアの難民問題は生じていないので、EU圏外からの大規模移民難民の流入も、生じていない。イギリスも金融危機が生じたので、ユーロ加盟が議論になったというのも、BREXITが大問題な2018年現在からみると隔世の感あり。
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・金融政策集権、財政政策分離
・ギリシャがユーロを脱退→ギリシャドラクマ暴落→ユーロ建てのギリシャ負債高騰→デフォルト必至
・ギリシャ危機によりユーロ安のなったことでドイツは競争力上昇