紙の本
エネルギー構造が変化した近未来を舞台にした、環境SF
2017/04/30 10:59
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投稿者:コスモス - この投稿者のレビュー一覧を見る
石油資源が枯渇し、エネルギー構造が変化した近未来。物語の中心地はバンコク。
短編集「第六ポンプ」に収録されている「カロリーマン」と「イエローカードマン」と世界観が共通しているので、それらを一度読んでいたほうが内容が理解しやすくなっていると思います。とは言いつつも、小難しい説明を避けて、登場人物の会話や情景描写から作品世界観が伝わってくるように工夫されています。
著者は環境雑誌の編集に携わりながら、小説を執筆しています。
おそらく、資源やエネルギーと地球環境との問題提起の意味も込めてこの作品を書いたのでしょう。また、様々な国籍や立場の人間の視点から物語を描写することで、政治学や経済学的な観点からも多角的に考察されています。
(小説の舞台をタイにした理由についてはわかりませんでしたが、著者が学生時代に東アジアについて研究していたことが関係しているのでしょう)。
(上巻とレビュー内容は同じ)
紙の本
他人事とは思えない絶望的な未来での、人間の意志の強さを感じる
2011/07/21 21:31
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:木の葉燃朗 - この投稿者のレビュー一覧を見る
舞台は近未来のタイ・バンコク。この世界では食物に疫病が蔓延し、人々は遺伝子操作された食べ物しか口に出来ない。また石油が枯渇し、エネルギーは限られた石炭と、動物や人間がネジを巻いて蓄えた力を使う。そのため、多くの国はカロリー企業と呼ばれる食物製造業に支配されている。しかしタイは独自の遺伝子操作による食物開発を行い、支配を逃れて独立した存在を保っている。
このバンコクで、複数の人物の思惑が絡み合っていく。タイへの進出をもくろむ企業の西洋人。彼らと結託し国を掌握しようとする通産省。タイの独立を守るため通産省と対立する環境省。タイに生まれ、生活する人々。アジアの各国から移民としてタイに逃れてきた人々。そしてタイトルにもある、遺伝子操作された日本製のアンドロイド「ねじまき」。
この設定・舞台を作り上げた時点で、この作品は素晴らしいと。SF小説の評価の基準は様々だと思うが、私は魅力的な世界と人物をつくることができれば、その作品は半分は成功だと思う。たとえラストで破綻したとしても(念のため書いておくと、この作品が破綻しているという意味ではないです)。
物語には、暗く絶望的な雰囲気が漂う。それでも、各自がその状況を変えようと行動する。信じるもの、守るものは徐々に変わっていくか、それでもその時々で最善の判断をし、行動する。その意志の強さを感じるので、後味は悪くない。特に印象的だったのは、とある秘密を抱え、自らの立場に悩む環境省の女性副官カニヤ。そして中国からの移民であり、西洋人の企業で働き、一見うまく立ち回っているような老人ホク・セン。彼らが物語の最後に取る行動には、自らに対するプライドを感じる。もちろん、主人公と言っていいねじまき少女のエミコも魅力的。遺伝子操作により、独特のぎくしゃくした動きと、人に服従する性質を植えつけられ、それでも日本人の秘書として幸福な生活を送っていた彼女。しかし日本に戻る主人に捨てられ、不法滞在の身となり、生きるには過酷な気候のタイで、娼婦として暮らしている。彼女がふと耳にした、ねじまきが集まって暮らす村へ思いを馳せ、今の生活から逃げ出そうとすることから、物語は大きく展開する。エミコは日本のマンガやアニメーションの影響を受けているのかもしれないが、より深みを感じるキャラクター。
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エネルギーの枯渇や環境汚染といった、”いまここ”にある危機を写しとったかのような世界設定が秀逸。猥雑で混沌とした未来都市・バンコクの濃密な描写や、その中をしたたかに生きる人々の群像劇にも魅了される。足踏みPCや手廻し電話といったガジェットも良かったね。
静かで淡々としたエピローグの情景も素晴らしい。
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丹念な世界描写の筆力もさることながら、活劇シーンの躍動感の表現もなかなかのもの。個人的には前者にあまりノレなかったのでダラダラ読み流す結果に。人物設定にもう少し深み&面白みがあるとさらに読みやすかったかも。
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(上・下あわせての評価・感想です)
舞台は、海面上昇で水没の危機にあるバンコク。エネルギー資源が枯渇し、遺伝子操作の失敗による疫病や食料危機に見舞われた近未来。エネルギー源は、象を遺伝子改造したと思われる家畜で巻く「ねじまき」。そんな世界の造形が秀逸で、ヒューゴー、ネビュラ、ローカス、キャンベル記念などSFの有名な賞を総なめしたのも納得できます。
但し、この作品が楽しめるかどうかは、この「世界」にどっぷり浸れるかどうかがカギ。世界描写が主で、登場人物やストーリーは従なのです。いろいろな展開の布石はあちこちにあるのですが、それが結局活かされず、私としては、それがいまひとつ物足りませんでした。
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帯にニューロマンサー以来の衝撃とかエコSFとか帯にうたっているが、これはなんだか見当違いな気がする。たしかに東南アジアの猥雑さとか温暖化による海面上昇とかそんな要素もあるけど。でもそんなことより単純にエンタメとして素晴らしい出来。ねじ巻き、ジーンハックゾウムシ、象人間など魅力的なガジェットも豊富である。特に5人の視点でつぎつぎと語り手が変わるのが、飽きを感じ無い構成で良かった。
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ジェイディーの活躍から失脚あたりで
徐々に物語が動き出すが
序盤は、単語や未来の世界像の掴みにくさで
なんとも分かりにくい。
日本でmeti対envといったらスーツ着た役人の
ドロドロした権力争いが頭に浮かぶが
隊長や将軍が出てくる未来の異国であるので
なおさら。
バンコクが舞台でタイ人はもちろん
中国系のひとやタイトルにもなっている「ねじまき」である
日本人(?)のエミコが主人公のひとりなので
日本人には親しみ、西洋人にはエキゾチック
という要素も物語に対するプラス評価につながるのであろうか。
エコSF?ちょっと違うと思います。
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ねじまき少女読むの辛いと思っている方、上巻を頑張って読んでしまえば下巻はあっという間ですよ。
上巻を読んでたときはエミコとアンダースンの話だけで、他のキャラのエピソードはいらないんじゃないかと思ったりしてしまった。最後まで読むとどのエピソードも無くてはならないものなんだけど。
エミコがアンダースンに感情移入できている時点でねじまきでないということは予測できたのかもしれない。でも、あれだけオーバーヒートやギクシャクした動きを強調されたら普通はわからないか。
ねじまきは云わばゼンマイ式ってことですよね…石油が枯渇したなら太陽光、風力、水力、原子力発電はどうしたんだろう。
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2011 6/18読了。Amazonで購入。
@sakstyleのすすめを見て手にとった本。あらすじ等はすすめてくれた当人のブログ参照: http://d.hatena.ne.jp/sakstyle/20110615/p1
環境省と通産省が水際検疫の徹底か通商の振興かで対立して武装して対立しているという世界観が面白いんだけど、読んでいるときは普通に受け入れてしまっているくらいのそれっぽさがあった。
ずいぶん未来の話なのに、舞台がタイという設定だからか(あ、でもハク・センはマレーシア華僑だな)、生まれ変わりやカルマを信じている人が多かったり、それがかなり重要な小道具になっているところも面白い。
同世界観設定の短編もあるし邦訳もされているそうなので、ぜひまとめて発売されないかな。
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ねじまきっていう日本製の人造人間エミコは美人らしいのだが、日本製なんでかってにロリ巨乳って設定にして読むのがおすすめ。クールなはずのアンダースンの執着だって、ナゼという疑問よりも、むしろしょうがねえなあと納得できる。これぞ世界が認める日本文化でしょ、みたいな。しかし、ねじまきの動きがぎこちないというのは、型を重視する日本の美意識に合わないので、それだけがマイナスポイント。そもそも日本の美意識からすれば、そつなく仕事をこなすのでなく、むしろドジっ子で、おいおい大丈夫なのか、とおもわせつつ微妙なバランスで仕事をこなす秘書という線を狙うはず。(おいおい)
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上巻参照
http://spenth.blog111.fc2.com/blog-entry-101.htmlより
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というわけで上巻だけど下巻のレビュー。
上巻のとある主人公一人がリタイアし(これ結構ショックだった。一番好きな人だったので)、ねじ巻き少女・エミコのとったある行動をきっかけに、物語が一気に加速し、動き出します。前半の鈍重さは、このためにあったのかー! と言うほど話がまわるのは、登場人物のいずれもが、「機会」を狙って虎視眈々と雌伏する、あるいは揚げ足をとられまいと目を光らせている―――まこと、人間らしい人間であったせいなのかな、と。
ちなみにこれ聞いてるときに、平沢進の「環太平洋擬装網」を聞いていたら、あんまり歌詞と内容が合いすぎて耳からなにか出てくるかと思いました。舞台どっちもバンコクですしね!
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2011年7月5日 読了。複数の主人公が全てわかりやすく感情移入し易いタイプでない。やはり主人公?はこの混沌とした世界か。ヒューゴー賞をはじめとするSF各賞を総なめにするほどのインパクトを期待するとやや肩透かしをくらった気もする。割と地味な話しだし。
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ヒューゴー賞やらなんやらに釣られて購入しました。しかし私はそもそもヒューゴー賞やらなんやら小難しい賞を獲った作品はあまり得意ではないと読み途中に気付きました。前年のテッド・チャン「あなたの人生の物語」なども私にはさっぱりでした。本格的なSFというのは苦手です。きっと表面だけなぞってSFの醍醐味である本質が見えていないんだと思います。じっくり読めば分かるかもしれませんが、いかんせん私はさっくりと読んでしまうので理解できません。そういうわけでライトなSF好きな方には向かないのかなと思います。ただ、さくっと見る私からしても面白い映画を見たような読後感を感じることができました。意味が分からなくてもそれ以外で楽しめるというやつです。伊藤計劃の「虐殺機関」でも同じ感覚になりました。
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上巻に比べれば物語も急展開を迎え、面白いと言えば面白いんだけど、すごく面白いか?と聞かれると、うーん、という感じになる。
上巻に比べれば読み易かった気もするが、相変わらず背景や関係性が分かりにくく、ストーリー展開が「チャンスだ!のりこめー^^!」みたいな感じでどうにも陳腐に感じて仕方ない。おまけに、視点となる人物が相変わらず多く、最後にちょっと×××だがそれ以外は世界観を見せるためだけに存在するようなもので、読みにくさに拍車をかけているようにしか思えない。にも関わらず周囲の要素は面白そうな物がゴロゴロ転がっているから、視点となる人物を減らしてもう少し掘り下げて欲しかった。
最後のオチも好きだから、もう少し読み易かったりエンターテイメント性を高めてくれればと思わずにはいられない。