紙の本
新興国の経済をみるには国全体ではなく「メガ都市」と「メガリージョン」単位で見よ!
2012/01/17 11:30
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サトケン - この投稿者のレビュー一覧を見る
中国を含めたアジアの「新興国」が世界経済の牽引車となっていることは、ビジネス界だけでなく一般社会でも常識となってひさしい。だが、生産基地としてではなく、消費市場としてアジアを考えるためには、「新興国」の経済を国全体のGDPという統計数字で見ていたのでは見誤ってしまうのではないか? これが著者の問題意識であり、本書の出発点である。
本書のキーワードは、「メガ都市」と「メガリージョン」である。メガ都市とは、東アジアの中国でいえば上海のような大都市、メガリージョンとはその上海とその周辺に拡がる長江デルタ経済圏のことである。著者は、このほか東南アジアではタイのバンコクとその周辺地域を取り上げてくわしく分析している。上海もバンコクも、いずれもすでに「脱工業化」のステージに入っているメガ都市である。
アジアの経済分析を専門とする著者が本書で取り入れたのは、都市社会学を専門とする米国の社会学者リチャード・フロリダの議論だ。フロリダは、「クリエイティブ・クラス」という知識労働者に似た概念を打ち出して有名になった学者だが、衛星写真で捉えた夜間の光源の強さと広がりからメガリージョンを割り出した。アジアでは、東京圏、大阪・名古屋圏、九州北部、広域札幌圏、ソウル・釜山、香港・深セン、上海、台北、広域北京圏、デリー・ラホール、シンガポール、バンコクの12地域あげている。これらはみな「途切れることなく明かりが灯っている地域」である。
基本的に経済地理学の観点からみた議論を展開しているので、本書ではまったく言及がないのだが、メガ都市とは世界文学である村上春樹の小説が読まれている都市であるという定義も可能だろう。村上春樹が描く都市のライフスタイルは、まさに消費都市としてのメガ都市の風景と重なり合う。本書で考察された経済学的な見方とあわせ考えれば、消費市場としてのメガ都市について考えるヒントになるはずだ。
新興国におけるメガ都市は、いわば大海に浮かぶ孤島のような存在だ。その意味では、国としてのタイとメガ都市としてのバンコクの関係よりも、同じメガ都市であるバンコクとシンガポール、さらには香港や上海、そして東京や大阪といった関係のほうがリアリティをもつことになる。メガ都市どうしはお互いを意識し合い、競争する関係にある。
本書では、メガ都市とそれを取り囲む膨大な農村との関係、中進国化する新興国の政治問題までマクロな議論を行っているが、メガ都市がメガ都市として存在する都市国家シンガポールのような例外を除いては、いずれの新興国においても考慮のなかに入れておかねばならないことは言うまでもない。
消費市場としてのメガ都市とメガリージョンを論ずる際には、まずは本書で指摘されておる経済的な状況を押さえておくことが、アジアでのビジネス戦略を考えるための基本的な前提となるだろう。ビジネスパーソン以外にも広く読むことを薦めたい一冊である。
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少子高齢化と人口減少が進むなかで、国内市場の大幅な拡大は見込めない。(冒頭の一文)
アジアが国別の経済圏ではなく、都市圏レベルの重要性が高まっていることを、消費の観点から論じている。
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経済発展が著しいアジア諸国。これらを見渡すと、そこには限界などまだまだ先の話のように思える。
筆者はそのような楽観的な意見に対して懐疑的な主張を繰り広げる。
筆者の主張の核となるキーワードは、地理的視点と多様性である。
まず、現在発展が著しい国家(中国、タイ、マレーシアetc)は、外から見ると国家全体が発展しているように見えるがそうではなく、地理的視点から見れば、局所的な発展に留まっている。例えば、中国なら上海などの沿岸部、タイならバンコクといった具合である。このような大都市は周辺部をも取り込み、「メガリージョン」として著しい発展を遂げている。
しかし、メガリージョンは一方で、国家内において極度の格差を生み出す。なぜならメガリージョンの発展利益は地方まで行き渡らないからである。沿岸部のメガリージョンと地方の農村部では、格差は50倍にもなる。
これを「中進国のワナ」と呼ぶ。
中進国のワナは何を生み出すか。これは近年に見る国家内の政治不安に繋がる。例えばタイでは、メガリージョンであるバンコクと東北部の農村の間の格差が著しく広がり、首相の政変も重なって動乱が発生した。このように、国家内格差は政治不安へと帰結する。
メガリージョンを抱え込む新興国が先進国になるためには、この格差を是正する必要がある。そのための方法として貧困層向けの公共政策を行う必要があるが、財源の問題が重く圧し掛かる。また、増税はメガリージョンの競争力向上に逆効果でもある。従って、新興国は減税と増税の間のジレンマに陥っているといえるだろう。
明らかに、冒頭の楽観論では間に合わないことが理解されるが、この問題に日本はどのように対応すべきだろうか。
一つは、日本内のアジア新興国に対する意識変革が必要であろう。今までの日本は、アジア新興国を大型市場と見なし、「日本とアジア諸国」という考えで投資活動をしていたが、現在の状況に鑑みると、「アジアの中の日本」というように考えを改める必要があるだろう。なぜなら、投資活動や市場拡大によって日本企業が新興国で利益を上げている一方で、格差の拡大に手を貸しているのも事実だからである。このままの状況では、中進国の課題のために、日本と新興国の両方に長期的な発展は見込めない。日本はアジアの中の一員として、この問題に善処すべきである。
もう一つは、その手段としての日本の技術の利用である。中国・韓国・台湾などが着実に技術力を上げており、かつて最強と謳われた日本の技術力はキャッチアップされている。だが、重機械だけでなく、現在日本が誇れる技術の一つがエコに関連するものであろう。これは、間違いなく日本が世界をリードしている。温暖化など世界的な問題に関しては、日本だけでなく新興国の協力も必要である。持続的な発展を促進し、長期的な利益を求めるのであれば、日本のエコ技術を新興国に売り出す必要があるだろう。
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メガアジア都市論。
アジアの都市(バンコク、上海、クアラルンプール等)という視点からアジアの経済発展、課題、日本の役割・あり方を明らかにしている力作。
アジアのメガ都市がメガリージョンへと広がっていることや、都市部と農村部の格差、アジア新興国の政治不安など最新データとともに筆者独自の視点が新鮮である。
特に、タイの政治不安や中進国の課題、政治学のあり方等は読む価値がある。
また最終章では、アジアの持続的市場拡大の条件と日本の立ち位置を筆者の視点から指摘しており、我々読者のこれからの経済活動やビジネスのヒントになるかもしれない。
そして、この本を読んだことにより、何よりアジアのメガ都市や農村部というものを自分の目で見てみたくなった。私にとってはフィールドワークにいきたくなる本である。
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BOPビジネスも真剣に考える時代になってきた。
露天商、行商人、日雇労働者、タクシー運転手はインフォーマルセクター。
タイで、世界のHDDの30%以上が生産されている。
WTOへの加盟条件は、グローバルスタンダードの遵守であり、中国がそれに従う姿勢を見せたことはタイを含めてASEAN諸国には脅威に映った。なぜなら、日本企業やNIES企業だkでなく、欧米企業も中国への進出を加速させればASEAN諸国への投資は減少を余儀なくされ、農村にある過剰労働力を活用した安価な工業製品はASEAN諸国の輸出を駆逐すると考えられたから。
フリードマン「フラット化する世界」はITの発展により。地理的距離が地域の経済発展を左右するという障壁は低くなったと指摘した。
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前作の『老いていくアジア』には感銘を受けたがこの本も抜群もよい。
アジア諸国のほとんどが富む前に老いるというのはわかる。
これからの消費の根本が国別GDPではなくメガ・リージョン単位だという意見には激しく同意する。関西広域連合にも頑張って欲しいものだ。
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アジアの現状に疎いのであまり自信はないですが、この本は論旨明快で好著だと思います。特に勉強になった点は、1)アジア新興国を国単位ではなく、先進国並の豊かなメガシティ/メガジティリージョンと、依然貧しい農村部で分けて見る必要があること、2)豊かな都市住民に向けて、ボリュームゾーン戦略より高付加価値戦略が重要であること、3)遅れた農村地域に豊かさを拡大するのは極めて困難であること、4)その原因が農村人口の多さと少子高齢化にあること、です。
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発展するアジアの課題、それに対する日本の役割や課題(課題先進国としての日本)。
アジアのメガ都市、メガリージョンは発展が進む中で、農村との格差は広がっている。それは社会不安にも繋がりかねず、中進国の罠に陥らないためにも、適切な政策・投資・人的資本の育成などが求められる。
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この人、タイ大好きなんだろうなぁ・・・と思ってしまう本w 研究にかこつけて遊んじゃだめですよ★ ・・・という意味で、もう少しバランスのとれた分析があってよかった気がします。
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【要旨】
・近年のアジアの経済発展を捉えるには、メガシティ&メガリージョンという枠組みが有効。
・メガリージョンが発展し、それはその他の地域の貧困率も下げているが、所得格差(ジニ係数)は高まってる、或は以前として高い状況である。
・先進国は、グズネッツの逆U字曲線が示すように、人口ボーナスの恩恵を受けて格差を縮めて来たが、アジアでは、既に少子高齢化が始まっていて、同じようには行かないと予想される。
・その状況で、「中所得国のワナ」に対応できるかどうかが、今後の課題。政治のリーダシップ、資金調達、そして、「中心国の課題=メガリージョンの競争力強化と農村の底上げのジレンマ」。
・さらに以前から存在している所得格差に対して、低所得者層の政治意識が高まり、政治不安につながっている。
・高所得者層と低所得者層の合意が必要
【コメント】
・前提としてメガリージョンの国際競争力で、その国の経済発展が決まるという図式があるけど、その妥当性と、オルタナティブについて考えてみたい。
・合意形成が必要になってくると、ナショナリズム、想像の共同体の再構築という言説につながいり安い?或は、中間層を増やすという主張が力を持ちそうな予感。
・スハルト時代や中国の灰色所得のように、統計で出来ない所得がたくさん存在する。
・この議論は、国策的なメガリージョン開発と結びつくけど、結局一部の人の利権に税金が使われることにつながってしまうのでは?
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タイトルで職場の平積みから購入。
大泉さんは、三井銀行総研の主任研究員。
著者の前半部分は、新興国のメガ都市とメガリージョンが発生して、着実に発展している話。
都市を有機的にみるという考え方は、日本でも戦前から、高度成長期まで、都市が極端に拡大していた時代に盛んだったが、そのような時期にアジアもあるということ。
後半の地域格差問題など格差問題は深刻。
①中国、ASEAN、インドのジニ係数は0.4を超え、筆者の中国の計算なども勘案すると、すべてジニ係数は上昇傾向にある。(p122)
アジアの新興国はすべて地域間格差を拡大しているというのは、政情不安の可能性もあるということ。
②タイ、マレーシアでは、原油価格の高騰による物価上昇が契機で、2008年に大規模な反政府運動が起こった。(p179)
都市の低所得者と地方の低所得層の問題が格差の両方の問題になり、タイでは特に、政情不安の原因となっている。
③アジア新興国では、競争力強化などの成長戦略と、社会保障安定策の負担がだれが担い、どのように配分するかについて、地方・農村住民と都市住民、企業との間で合意が形成されなければならない。(p190)
怒れる大衆に対する政策を一歩間違うと、タイのような大騒乱となる。
中国など騒乱の情報はないが、きっと、様々なレベルでの暴動がおきているのだと思う。
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タイと中国を例にあげ、アジア経済の過去・現在をわかりやすく分析している。
また将来の課題および著者の解決法も提示。
アジアを理解したい人は、今すぐ読む価値あり。
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これからのアジア経済の可能性や問題点についてわかりやすく書いており、とても考えさせられる良書だと思います。
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ITS関係の大先輩に教えていただいた本。一気に読んでしまった。
社会学系の本のとっつきにくさはなく、非常に明確にロジックが進んでいくのが見えたのはうれしい。特に項目8が圧巻!
下記は留意しておきたい項目。
1 対象とする国:新興国
(Emerging Economies)
中国、ASEAN5(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム)、インド
2 所得による層別(年間の可処分所得)
富裕層:35001ドル以上
中間所得層:5001ドル以上
低所得層:5000ドル以下
3 富裕層の台頭
・日本 9200万人
・2015にはアジアが抜く
4 商品の2極化
・日本と変わらない製品やサービス(富裕層)
・BOPビジネス(低所得層)
5 都市化率 50%(2008年)
6 国際分業体制(フラグメンテーション)による発展のメカニズム
6 メガリージョン
・東京圏、大阪・名古屋圏、九州北部、広域札幌圏
・ソウル・プサン
・香港・深セン(珠江デルタ経済圏)、上海(長江デルタ経済圏)、広域北京圏(渤海湾経済圏)
・台北
・デリー・ラホール
・シンガポール
・バンコク
7 メガリーションからグローバルシティへ (グローバルシティとは)
・多国籍企業と多国籍銀行の中枢機能が集中
8 「私が読み解く」筆者の言いたい事
1)メガリージョンと農村部の格差の拡大
メガリージョンの中でも所得格差大
2)農村部の少子高齢化(所得が低いまま)
⇒格差是正するためには:
3)農村部とリージョンを結ぶインフラ整備(人、モノの流れを活発化)、いわばシームレスな発展を目指して
⇒実際には、ファイナンスが難しい
4)中所得国のワナ(産業構造の転換を怠れば、成長は鈍化していき、先進国に追い付かない)
マレーシア、タイの対応
5)中所得国の課題
(国内における南北格差)
物言うマジョリティへの配慮
Ex)タイ都市部の低所得者への配慮がなかった(農村部はあった)
負担金の外国企業へ課せる可能性
6)インフラ整備+都市クラスタ開発
7)アジアの未来市場としての日本
・高齢化など世界的な課題を先取りしている。
・課題解決する高度な技術を開発できる(省エネ、リサイクル、)
・本技術を用いることで、メガリージョンでの市場開拓につながる。
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輸出中心で成長してきたアジアがどうやって、社会保障や消費にカネをまわして更なる成長を出来るか。その解は特にはないが、海外企業が入るのはローカライゼーション、ブランド、コネ、コスト競争力をうまくやらないとダメというのは当たり前の話。