紙の本
混沌の中に見える力強いラストシーン
2021/04/30 23:36
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
上巻から引き続き、手探り状態の捜査が続く。糸口は時に思わぬ発見に繋がり、時に行き止まりに誘い込む。作者の最高傑作に違いないという確かな手ごたえを感じつつ読み進めてきた。
各書評にも言われている通り、このシリーズは90年代のスウェーデン社会を如実に映し出したものということだが、とくにスウェーデンに限ったことではなく、当時の世界の広い部分について言える状況だと思う。雇用の不安定化、人間を今現在の効率に当てはめて評価する価値観、しっかりと根を張った生き方を見つけづらい社会システム・・・。
どれをとっても当時から現在に至る日本の状況に当てはまらないものがあるだろうか。
そんな中で、ひとは安住の地を求めて自分だけの世界を構築し、自分だけの秘密をもつ。同僚、友人でも他人の奥底をのぞき込むことはできず、仮にのぞき込めたとしても決して理解することはできない。そんな現代を当然のこととして、生きているものもあれば、ヴァランダーのように長年の同僚の人生や考えにも理解が及ばないことを悩んでいるものもいる。
そしてシリーズ中屈指の不気味さを感じさせる犯人にしても、その素顔はときに性別すら超越してしまうほどの不可解さを見せる。ましてや犯罪の動機など決して分かることはないのだ。
冬を迎えた群島に旅立つヴァランダーは、一時の安らぎを与えてくれた女性にももう寄りかかることはできないと感じる。だが、荒波の中に佇む孤島と、そこで生きたかつてのスウェーデン人の先祖を感じることで、これこそ今のそしてこれからの自分に、この世界に必要なものではないかと直感的に感じ取る。さらに警察官を務め、この世界の崩壊を食い止めるために。群島の描写が真に迫って素晴らしい。ヴァランダーの悩み多い生に幸多かれと願わずにいられない。
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50歳目前にして糖尿病になったりと、老いを感じさせる描写がちらほら。本シリーズは単独として読んでももちろん面白いが、登場人物たちの成長や変化は、シリーズを通してじっくりゆっくり描かれる。そんな捜査チームのひとりが悲劇に見舞われるというのが事件の発端。
寝る間なし手掛かりなしというスタイルは今回も同じだが、被害者とヴァランダーとの距離感が根底にあるため、心理的な苦しさや葛藤がやや前面に出ている気がする。仲間を失った自分、老いていく自分、事件を解決できない自分──内面にくすぶる苦悩と対峙できないまま、混乱の中で必死に手掛かりを追うヴァランダーに、不思議なくらい感情移入してしまう。
国内情勢を反映させた事件の本質や、被害者となってしまった複雑な要因など、これまでは多角的な面から事件を捉える印象が強かったのだが、今回は捜査チームを軸に据え、犯人へと近づく過程が丁寧に描かれている。そういう意味では謎解きの要素が強い作品と言えるだろう。
ひとつ残念だったのは、犯人の造形が少し薄味だったこと。今までとは毛色の違う事件であり、なおかつ犯罪そのもの様相が変わってきたという警告でもあるのだが、肝心の犯人にそこまでの濃さがない。事件の全貌に対してはきちっとまとめるシリーズなのに、今回は若干曖昧さが残った。
上下巻で相当な長さだが、そこを一切感じさせない手腕はさすがの一言。筆致はゆっくりしてるのに、ページを繰る手は常に止まらず。少し長めのプロローグが心地よいストレッチとなって、じんわり癒してくれる。
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何ともやるせない気持ちにさせる結末。
でも、文句なしのベストワン。
ヴァランダー刑事と私は、この物語の段階で同い年であることが分かった。糖尿病の心配はないが、血圧は高いし、運動不足だし、そういう意味でも親近感を覚えた一冊であった。
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基本的な感想は上巻で書いたとおり。
最後の解決段階でやたらと主人公がスーパーヒーローじみるのが、マイナス点。
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本作のタイトルである「背後の足音」という表現だが…直接的には、ヴァランダーの背後に蠢く謎の犯人―これがこのシリーズの“犯人”の中では「最も不気味で不可解」な人物かもしれない…―の足音であり、“足音”が示すその人物の気配のことを示すと理解出来る…が、同時にこれは「知らぬ間に社会が抱えている、名状し難い不気味なもの」とでも言うようなもの、「気配はしてもハッキリ姿が見えない“悪意”」とでも言うようなものを暗示している…という気がした…
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殺された同僚は3人の若者の失踪事件を単独で調べていたらしい。
ヴァランダー警部はじめイースタ警察の面々は捜査に奔走するが、新たな犠牲者が…。
ヴァランダー警部もアラフィフになり、スウェーデンの国民病とも描写されている糖尿病を発症する。
周囲に素直に打明けることができないなか、この大変な病と共に事件捜査に立ち向かう。
当然病状は悪化し、周りからの信頼もぐらついてしまう。
別れた妻からの再婚の報告に、その相手を貶めてみたりもしてしまう。
これぞ、まさしくしょぼくれ親父ヴァランダー!
身近な人が糖尿で倒れて救急車で搬送と言うことがあったばかりなので、飲酒や乱暴な食事のとり方にやきもきしながら、先へ先へと頁をめくる。
事件は地味に展開し、僅かずつその形が見えてくる。
その合間にもこの親父のしょぼくれっぷりはいかんなく発揮され、今回の犯人の性格もあって捜査は後手後手に回ってしまう。
それでも一歩一歩犯人に近づき、最後に半歩だけ先んじるあたり、読ませる。むふー。
犯人の動機が弱く感じられる面もあるけれど、ラストのもっていき方がそれを十分補って、スウェーデンにおける社会の病巣を描いている。
やっぱりヴァランダー警部シリーズはいいなあ。
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犯人がなぜ犯罪に至ったのか、理由がとうとうはっきりしないままですっきりしないが、現実に、なぜこの人はこんなことをしたのだろう?と理解できない犯罪が多いことに気がついた。その点でこの作品は非常に現代社会をリアルに描いているということだろう。
日本では最近、北欧の暮らしが理想郷のように演出されているけれど、移民排斥問題もあったりと、現実はそう甘くないのだろうなあと考えてしまった。
ついに恋人と別れ、糖尿病まで発症してしまった刑事。最後の場面で少し救われた感じ。レストランで財布を忘れて…のシーンは笑えた。
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のどかな北欧の国、スウエーデン。
私にとっては美しい自然と手仕事の盛んな国という
イメージの憧れの地。しかし、ヘニング・マンケルの
描く小説世界のスウェーデンはかなりダーティ。
そこには現代のこの国のかかえる問題点が
浮き彫りにされている。社会福祉の進んだスウエーデン
にも格差社会により生まれた『落ちこぼれ』は
確かに存在しているのだ。
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捜査は紆余曲折を経てようやく決着に。
消去法ともいえる捜査の緻密さが読みどころのようだ。
もうすこし息が抜けるところがあってもいいかな。
久しぶりに登場人物の名前に苦労した。加えて地名がごっちゃになってしまう。充実した「登場人物」欄と地図(地図が付くのはめずらしい)に随分助けられました。
それにしても北欧ミステリの犯罪は陰惨。夜の長いせいなのか。
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重く、暗く、そしてすばらしく面白い
自分の中では
マイクル・コナリーの『ハリー・ボッシュ』シリーズと双璧をなす
ヘニング・マンケルの『クルト・ヴァランダー』シリーズ第7弾
アメリカ、イギリスとは違う、スウェーデン独特の雰囲気がとてもいい
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上を借りて返して10日ほど待たされてからやっと届いた下巻でした。1泊2日の旅行で一気に読みました。「犯人」の見当は大体ついていたけど、関わりとか動機とか。ヘニング・マンケルは事件のありようがしっかり書かれていて好きなんだけど、ヴァランダーはちょっとウザイ。話に引き込まれるだけに、リアル感が強くて少し身につまされる感じです。
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スウェーデンのミステリ。
クルト・ヴァランダー警部のシリーズ7作目後半。
規模の小さな警察が大事件を抱えての奮闘を描きます。
部下の警官スヴェードベリが殺され、目立たなかった彼の意外な面がわかってくる。
夏至祭に殺された3人の若者の事件を、ひそかに捜査をしていたらしい。
スヴェードベリが隠していた写真に写っていた人物は、誰なのか。公開しても、見た者はなかなか現れない。
ヴァランダー自身は体調が悪くて治療を始めるが、たまたま血糖値が高いだけと糖尿病であることを認めず、署員にも病気のことを知らせない。
こういうふうに、仕事にのめり込むタイプなのですが。
周囲に心配をかけながら、何でなの、このダメおじさんは全くぅ~という中年男の危機がなんとも相変わらず。
地道な捜査で、殺人者を追いつめていく所は、迫力。
犯人の方でも、次の標的や、警察を狙っているのだから、それが交錯していくスリルで、胸が苦しくなりそう。
犯人の人間像も、筋が通っているわけではないのが、またリアルな怖さがあります。
とうてい幸福とは言えないが、決して暴力的ではなかった人間がなぜ突然、凶行に走ったのか…
世界は歪み、崩れようとしているのか?
孤独がちなヴァランダーですが、新たな知り合いに誘われて思いがけない休暇を過ごすことに。
船でもはや住む人のいない島へ渡り、この国に人が暮らし始めた原点を思う。
最後に何とも良いシーンがあります。
夏至祭に扮装してパーティをするというのも、やや変わったことではあるらしい。
被害者も、ただ幸福な若者だったわけではないんです。
北欧では夏は「暖かくて快適」な季節で「暑くてしんどい」というのはないそう。
そのため夏至祭は、クリスマス以上に盛り上がるハッピーな時期なのだと。
後書きにそうあったので、あらためて事件の印象を認識しました。
1997年発表、2011年7月翻訳発行。
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私の評価基準
☆☆☆☆☆ 最高 すごくおもしろい ぜひおすすめ 保存版
☆☆☆☆ すごくおもしろい おすすめ 再読するかも
☆☆☆ おもしろい 気が向いたらどうぞ
☆☆ 普通 時間があれば
☆ つまらない もしくは趣味が合わない
2012.8.17読了
感想は上巻に合わせて、記載。
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ヴァランダー警部シリーズ7作目。今回は初めからなかなかおもしろく読めた。脇役の一人がいなくなったのは残念。
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苦みばしったヨレヨレの主人公刑事、今の世相を反映した不気味な犯人、素晴らしい物語と三拍子揃った、文句無しの傑作。
主人公のヴァランダーが、弱く、孤独で、疲れ果て、イライラしているという人物造形がいい。それでも、正義を失わないでいたいと祈るようにして動き回る中年の刑事。
この犯人のように、奇妙に現実感覚のない人物に、ぼくも会ったことがあるから、余計に怖かった。
まったくダレることなくページターニングさせる。文章もいい(訳文はちよ微妙)。
このシリーズ、コンプリートを誓おう。