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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2011.8
- 出版社: 早川書房
- サイズ:20cm/344p
- 利用対象:一般
- ISBN:978-4-15-209235-9
紙の本
ネザーランド
ある春の夕方に届いた訃報。ロンドンに暮らすオランダ人ハンスの思いは、4年前のニューヨークへさかのぼる—2002年。アメリカを厭う妻は幼い息子を連れてロンドンに居を移し、ハ...
ネザーランド
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商品説明
ある春の夕方に届いた訃報。ロンドンに暮らすオランダ人ハンスの思いは、4年前のニューヨークへさかのぼる—2002年。アメリカを厭う妻は幼い息子を連れてロンドンに居を移し、ハンスは孤独で虚ろな日々を送っていた。しかし、ふとしたきっかけで遠い少年時代に親しんだスポーツ、クリケットを再開したことで、大都市のまったく違った様相をかいまみる。失うとは、得るとは、どういうことか。故郷とは、絆とは—。数々の作家・批評家が驚嘆した注目の作家がしなやかにつづる感動作。PEN/フォークナー賞受賞。【「BOOK」データベースの商品解説】
【PEN/フォークナー賞】2002年、妻子と別れひとりニューヨークで暮らすハンス。ふとしたきっかけで少年時代に親しんだクリケットを再開したハンスは、大都市のまったく違った様相をかいまみる…。注目の作家がしなやかにつづる感動作。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
ジョセフ・オニール
- 略歴
- 〈ジョセフ・オニール〉1964年アイルランド生まれ。ケンブリッジ大学ガートン・カレッジで法律を専攻し、法廷弁護士となる。
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紙の本
大きな悲劇を、具体的日付や事件名を出さず、各人が心身に受けたダメージの痕跡として慎重に表現する――そういう姿勢が好ましい。この国が今年見舞われた大きすぎる不幸、いまだ出口の見当たらない被害の連続も、いつか『ネザーランド』のように静謐で繊細な小説として記録される日が来るだろうか。
2011/09/28 22:49
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
作家にどうしても書きたい思い出やイメージ、考えがあり、それに一番ふさわしい表現が探され見つけられ重ねられていったとき、作品は読者の耳に届く音を奏でる。脳裡には色や姿を露わにさせ、魂に生気を吹き込んでくれる。そのような成果がもたらされるものが「文芸」と呼ばれるに値すると私には思える。
「文学」というジャンルでくくられるものを愛好するだけでなく、学問や批評対象にならなくとも「文芸」として抜けたものに触れ、支えられたいと感じる。これからは、より一層……。
言葉は、扱いようによっては、空疎や虚脱しかもたらさない難しい生き物には違いない。
あの9月11日から後のマンハッタンを主要な舞台にした小説『ネザーランド』は、3月11日からこっち、現実を現実の像として、説得力ある言葉で自分の脳裡に結べなくなってしまった私の意識の世界に、言葉によって獲得できる何物か、その力の存在を少し取り戻させてくれた。
全体の三分の一ほどのところ、中年ビジネスマンとなった主人公ハンスが、亡母の存在感について考える場面がある。一人暮らしの母の急死で故郷オランダに戻った彼は、一人っ子だったため、自分だけが彼女を憶えていなくてはならない重荷を負った感じを持つものの、母の友人たちが開いてくれた追悼会のおかげで重さから解放される。
しかし、それから数ヵ月間、母の存在感が、たまの電話や行き来しかしなかった以前と変わらないので、罪悪感に苛まれる。
最初、自責の念から居心地の悪い思いをしているのだと思っていた。仕方がなかったとはいえ、親のそばにいなかった自分に罪があると思っていた。ところがそのうち、もっと物騒なことを考えるようになった。つまり、母はもうずっと前からいわば架空の存在になっていたのではないか、と。(P113)
この部分、思い当たる状況、思い当たる心理描写だ。すぐ隣に母親が住んでいる私も、生活を別にしているため、彼女が生きているのか死んでいるのかが分からなくなることがたまにある。不謹慎極まりないけれど……。
上の引用の後に書かれた「現実の母にはなんとなく満足できなかった」という表現にも思い当たる。昔から子どもへの期待過剰だった親は、今の私に一言こぼしたいのを常に抑えているようだ。けれども、人の個性を尊重しなくてはならないと分かっているつもりの私も、「母がほがらかに何にでも取り組んでくれればいい。例えば、あの人のように……」と考えるのを止められやしない。
ハンスが亡母を考えるこの場面も他の場面同様、彼の意識を構成する断想の一つとして書かれている。そして、葬儀と遺産整理のための帰郷で確認した、子ども部屋からのなつかしい眺めを書いた美しい言葉が続く。さらに、子ども部屋での母親との幸福な思い出話がつづく。
主人公の断想の積み重ね、意識の流れの丁寧な描写で語られていくのは、うまく運ばない私生活だ。ニューヨークに新たなテロの不安を抱いた妻と小さな息子がロンドンに移って始まった別居生活。海をはさんでの暮らしは、夫婦関係に深い溝をもたらす。
もう一つ、断想の大きな部分を占めるのは、悩み深いハンスが、のめり込んで行く昔なじみのクリケットだ。米国のコート状態の悪さに落胆し、米国風プレースタイルに違和感を持つが、クリケット仲間チャックとの付き合いで開眼させられることもある。
目の前に問題が生じても「傷つく力」「悩む力」が足りない人間は少なくない。「そこのところ、もっと繊細に感じ取れよ」と、肩を揺さぶりたくなることがままある。もしかすると、中には、自分の立場や生活を保守するために鈍いふりをしている人もいるのだろう。しかし、そういう人の意識に、もぐり込んで行くのは物悲しい。
主人公ハンスの意識の断想から成る宇宙は、もぐり込んで行けば、神経質の少し手前までの繊細さで周囲を見回し、世界を見通していこうとする力があると分かる。
9・11の扱いもまた、その日付や事件名を具体的に出さず、各人が心身に受けたダメージの痕跡として慎重に表現する姿勢が好ましい。失われた二つの建物を、個人や家族という小さな単位にとっての希望と結びつけた最後の場面は忘れ難い。
『ネザーランド』という題名は、ハンスの祖国オランダを思わせながら、「低地」という意味合いで、グランドゼロや開拓地がゼロに等しい時代のことを響かせようとしたのか。
予期せぬ悲劇に襲われて傷ついた人々の心を慰めてくれるものは、力強いエールや勇ましい言動ばかりではない。ささやくような声であったり、内面のたどたどしい伝え方であったりする。
「復興」が掛け声だけでなく、具体的な制度や形として現れてくる何年かののち、私たちもこのような静謐でありつつ力強い文芸作品を持てたら、どんなにか嬉しいことであろう。
紙の本
911以降のアメリカ
2024/02/24 23:27
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
フィッツジェラルドの『グレート・ギャッツビー』の現代版とでもいった雰囲気をまとっている。911以降のアメリカを、現代的感覚で描くとこうなるのかもしれない。