紙の本
他人とは異なるイメージの威力
2015/09/14 16:27
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投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
「サラの柔らかな香車」と書かれた黄色い文字のタイトルを見て、不思議な感じを受けた。将棋を全く知らない人には分からないだろうが、香車と言えば、一番下段から真っ直ぐに突き刺さる槍。個人的には色で言えば赤のイメージだし、柔らかいの対局にある駒だ。しかしそれを覆したこのタイトルに、作者の人生観が詰め込まれている。そんな感想を抱いた。
棋界の頂点に立つ芥川名人に新進の石黒竜王が挑む名人戦の大盤解説会場には、奇妙な空気が漂っていた。次の一手を当てるゲームで金髪碧眼の少女が述べた後手3六歩を、実際に名人が指したのだ。
大盤解説をしていた施川航五段や萩原塔子女流三段、誰もが思いつきもしなかった一手が刺された途端、盤面は名人優勢に傾いていく。そんな一手を、外国人の少女が指すとは…。その彼女が表舞台に登場するまでは、あと四年の月日を経る必要があった。
その少女の名は、護池・レメディオス・サラ。小学校からも見捨てられた彼女は、元奨励会三段の瀬尾健司にめぐり合い、同い年のテレビで有名な天才少女・北森七海と対局し、棋力を高めていく。
主人公はサラという少女のはずなのだが、中盤からは瀬尾健司という男が物語の流れを作っていく。彼はかつて萩原塔子と共に三段リーグに在籍していたものの、塔子が理由も告げずに女流棋界に転身した後、年齢制限に切られて奨励会を退会することになった人物だ。
パチプロに身をやつし、生きる気力もないままに生きていた彼は、公園でブランコを漕ぐ少女に才能を見て、彼女を将棋界に差し向ける刺客として、自由奔放に育てていく。
自らが突きつけられた才能という壁。自身の存在意義の崩壊。そんな地獄を潜り抜けた後にめぐり合った、それを乗り越えられる才能。瀬尾は自らは掴めなかった真理に至りうる存在を開花させるため、彼女に合わせた指導を施すのだ。
意味の良く分からない才能という言葉に振り回され、中途半端に才能があるからこそ、彼我に横たわる断崖に気づけてしまう不幸。しかしそれでも嫌いになり切れないのが、将棋というゲームなのかもしれない。
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視点が目まぐるしく動くのがとっちらかった印象。登場する男にリアリティが薄いので、区別するのが難しいのだ。観念的な思い入れの記述が多く、もっと骨太の物語にならんもんかなと不満たらたらで読み進めて来たが、最後は良かったね。七海ちゃん、応援したい。
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マイ将棋小説フェア第2弾。
結果「盤上のアルファ」のほうが確かに軽快で爽快。おもしろかった。
しかしながらこちらの作品も、元奨励会会員の「男性」が書いた作品としては、どことなく女性的で、盤上~が男臭い作品なら、こちらとっても女性的なイメージ。この感じは嫌いではなかった。
個人的には、とりわけサラをはじめ、登場する女性の人物像を、もうすこし掘り下げて描いてほしかった。なので★★★
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小説すばる新人賞受賞。
将棋の世界で、天才少女サラを描いた作品。
天才とは何かを考えさせられる。
将棋は全く知らないが、とても面白ろかった。
(図書館)
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"サラはね、災いなの。生まれたとき災いと予言されたの。"
*****
将棋界を去り、現在はパチプロとして生活している瀬尾。
ある日、白いワンピースを着た白人の美少女と出会い、いつの間にか将棋を通して交流を深めていく。
瀬尾は彼女-サラ-の特異的ではあるが確かな才能を確信し、将棋を本格的に教え始める。
天才小学生、北森七海や女流のスター、萩原塔子。
天才とは、才能とは何なのか?
*****
第24回小説すばる新人賞受賞作品。
題名と表紙にひかれて読んだ。
タイトルが何だか好き。
瀬尾とサラの出会い、彼がコミュニケーションを上手く取ることができないサラへ将棋を指導するあたり。
一つの駒に対して多様な見方ができるようになるため、時間と共に姿を変える氷を使って直に触れさせ、将棋の攻め方にバリエーションを持たせようとするところとか面白い。
人物描写としては若干物足りなさを感じてしまった。
サラに関しては完全に外からの視点のみで描かれていて実際に彼女がどう思ったのかなどは表情として描写されるのみ。
でも、彼女が詩のように言葉を繰り出す描写は良い。
そういう意味では七海に関する物語は細やかであり、他の登場人物に比べて彼女は喜怒哀楽が描かれていたので自然と感情移入もしやすかった。
なので、最後はほっとした。
女流棋士のお話というと、どうしても安藤慈朗さんのコミック『しおんの王』(講談社)が浮かんでしまう。
特に塔子は頭の中で沙織のイメージになってしまっていたくらい。
瀬尾、桂木、橋元(ライター。著者と読みが同じなのはあえて?)…かつて将棋の世界に足を踏み入れ、去って行った男たち、そして塔子を支え、七海を指導した施川。
サラたちの打つ将棋、天才が見せてくれる風景に魅せられていく。
天才の持つ圧倒的な“何か”。
サラには何が見えているんだろう。
ラストは予想外に前向き、爽やか。
やっぱり、将棋も将棋をする人々も興味深い。
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碧眼の少女とタイトルに惹かれて読了。
将棋の世界に異能の少女が登場する。
著者自身とイメージが重なる男がサラを導く。
将棋の世界を垣間見ることができる。
『盤上のアルファ』や『3月のライオン』など将棋をテーマにした作品がこの頃目につく。
将棋、おもしろいのだろうけれど……。
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将棋を自然万物のイメージで捉えたらというアイデアに、棋界の事情、奨励会、女流棋士等を絡めた作品。 最後の最後に出てくる大逆転?が心憎い。将棋は詳しくなくても何だかわかった気にさせるそのさじ加減が上手い。 生来の天才ではなく育てられていく才能、という立場が好感を持てる。
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将棋を題材にした小説で、作者自身が元々将棋をしていて
脱落した人なので、将棋についての専門的な言葉も多いし、
脱落した人の視点からもストーリの大きな骨格になっている。
ストーリは、女流名人とそれに対するブラジル人少女
の大局を中心に進んでいるが、ブラジル人少女や
女流名人、そしてその周りの人たちの群像劇なところもあって、
将棋盤をはさんで人生が回っている、という感じだった。
終盤のあたりになって、女流名人の話が入ってくると、
そこから一気に物語が動いて終わっていく感じもあって、
この終盤はとても面白かったし、続きがあるのであれば
読んでみたいとも思ったりもする。
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元奨励会の方の作品ということで、将棋のなんとなくな部分が言語化されていて面白かった。
将棋好きは、棋譜の元ネタやセリフのでところが分かってりやりとできそうですね。
続編でもそうでなくてもいいので、是非作者には将棋小説をこれからも書いて欲しい。そして、中盤のねじり合い、終盤の善悪を超えた一手など将棋を本格的にやった人にしかわからない世界を言語化して欲しい。
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棋界を去って七年になるフリーライター(だったかな。なんせ語り手の影が薄すぎて)の橋元。彼が取材に訪れたのは女流の名人戦。サラという青い目に金髪の少女と荻原塔子という美しき女流棋士との対戦を軸に、前哨戦、中盤戦、終盤戦、感想戦と章を分け、サラという少女、荻原塔子、天才少女ともてはやされメディア露出も多かった北森七海などの様々な女流の天才少女たちを連載形式を借りて綴り、ひとつの大きな物語をあぶりだしていく。天才を描くのはすごく難しいと思う。あまりにもうまく行きすぎ勝ち過ぎでもなんだか単調だし興ざめだし、かといって少年ジャンプ的サクセスストーリーも正直見飽きた感がある。この天才少女サラの描き方が無理なく清々しくて好ましい。そしてそのサラと出会いサポートし、サラの母親と同居し始めるという驚きの人生を展開させる、四段の壁を破れなかったパチプロ瀬尾がやはり一番好き。(これは完全に『将棋の子』の熱が自分の中から抜けきっていないからだろう)サラになんとか将棋を教え込もうとする様子、そしてあの「柔らかな香車」の教え方は素晴らしいです。サリヴァン先生を引き合いに出してたけど、私は氷が出てきた段階でうわー『百年の孤独』がここで役に立ったうまいなーと思った。ただ、これもうちょっと長い話でもよかったなと思う。新人賞作品だからページ数の制限なんかもあったんだろうけど。桂木とか瀬尾とかもっともっと読みたかった。
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2011年小説すばる新人賞の作品。
元棋士による、渾身の将棋小説、という気がする。
全てがこの一冊に詰まっている、というか。
誰かに迫るのではなく、将棋の世界、「天才、才能とか?」が主のテーマ。
どの登場人物もそれなりに良い終わり方で、小説だからな…と思うものの、将棋の面白さ、天才への憧れなどを存分に味わえた。
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100年の孤独の世界と将棋の世界がミスマッチで私にはしっくりしないまま終わってしまいました。七海の成長は良かったけど、、タイトルロールのサラの気持ちが全く感じられないのが、物足りなさの一つです。
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小説すばる新人賞。「猫を抱いて象と泳ぐ」を思い出した。あれは、チェスの話だったけど、今回は将棋の話。盤上で繰り広げられることは、人からにじみ出るもの。
技の名前に、歴史も感じる。
パチッと音を出して、将棋を指してみたくなる。
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第24回小説すばる新人賞受賞作。
プロを諦めた青年が、日系ブラジル人でサヴァン症候群の少女サラに、将棋を教える。「関わる世界の一つを滅ぼす」と予言された彼女に何らかの期待を込めて。
将棋の難しさや魅力、奥の深さを、知らない人にもわかるよう言語化して書いてあるのがいい。
勝負の世界を描いているだけあって、終盤戦はとても引き込まれ、先を急ぎながら読んだ。
夢を諦めざるをえなかった者の複雑な感情、作者なりの答えが提示されているのも、胸を打った。
語り手はこれでいいのかや、構成面で疑問はあるが、実際に将棋の世界に身を置き、努力と挫折をしてきた人間だから書ける力強さは素晴らしいと思う。
カバーを取ると、小説のあるシーンを受けて、黄色い蝶が飛んでいるのが心憎いな、と思った。
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将棋の世界が舞台だけど青春スポーツ小説みたい。主人公のサラがブラジル生まれの碧眼天才美少女という設定が興味深く、3人の少女が各々いかに才能を伸ばしていくかが面白い。対局シーンの緊迫感や将棋界のお話が凄くリアルで読み応えがあった。