紙の本
幻の作家
2017/07/25 23:45
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投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る
ネミロフスキーは最近とみに話題に上がる作家。この大作ではドイツに占領されるパリから市民たちの混乱と様々な逃避行を描く。そして第2部ではそれから少し時間が経って被占領民としてドイツ兵を受け入れるフランス人と、占領者であるドイツ兵との交流。特にリュシルと、ドイツ兵との微妙な恋愛が描かれる。おそらくフランス人が忌避したい記憶を触発する内容を、突き放しながらもかなり細密に描いているので、もっと近い時期にこの未完の大作が出ていても受け入れられなかったかもしれない。この作品が書かれた伝記的な事実も興味深いが、何といってもこれだけの物語が読めたのは満足だし、未完であったことはやはり残念。
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思いがけなく骨太でダイナミック。そして柔らかな切なさも。
とりわけ「ドルチェ」のピアノのシーンがいい。
とても画になるから、映画にするといいのに…と思って読んだが、やはり映画化の話が進んでいるらしい。
5章の構想だったという。読んでみたかった、と思う。
ロシアからフランスに移住したユダヤ人である作者が、1940年代という不穏な時代に、悪い予感と書く紙がなくなることとを恐れながら、薄い紙に極度に小さなな文字でびっしり紡いだこの物語は、「〈巣箱の精神〉の不条理と、それにあらがう個人の姿」をくっきりと呈示する。
それは、「1952年の読者も2052年の読者も同じように引きつける」と作者が意図した以上に、今も色褪せていかぬテーマであることは、歓迎せざることではあるけれど。
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フランスにドイツが侵攻したときからロシアに出兵していくまでの数ヶ月を、身分や立場が違う登場人物たちを通して描いていく。悲惨な中にもユーモアと、香り立つような自然描写。登場人物のキャラクターが立ち上がり、組曲との名の通り紡ぎ出される章に聴き惚れて一気読み。
ユダヤ人である作者は製作途中に軍に連行され、最後はアウシュビッツで命を落とす。夫も同じ運命を辿るが、直前に娘に母の原稿が入ったトランクを託す。幼い娘たちは名前を変えながら両親の友人の協力で潜伏生活を続けた。巻末に収められた膨大な執筆メモや、夫が必死に妻を救おうと働きかけた書簡集が胸を打つ。
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何という美しい戦争文学。
「読者に衝撃を与えたければ、悲惨さを描くよりも、
悲惨な人々のすぐ脇で花を咲かせる繁栄を描くべきだ。」
これは本編二部に加えて収録された
イレーヌ・ネミロフスキーの構想ノートからの一説です。
「戦争」と「美しい」という言葉をを結び付けるのは
普通ならば余りにも不相応だと思います。
しかし、とてもとてもどこまでも美しい。
戦争という異常と、
生活という日常の対比、
都市と田舎の対比、
絶望と希望の対比。
それら対立するものが色鮮やかに表現され、
そのコントラストに息を飲んでしまう。
これは正に、戦争という巨大な手の上で
否応なく躍らされた人々が奏でる壮大な交響曲です。
本著は著者と同じくアウシュヴィッツで散った最愛の夫が
幼き長女に託した著者の遺品のトランクに収蔵されていた
遺作で、「二十世紀フランス文学の最も優れた作品の一つ」と讃えられ
2004年に死後受賞は初となるルノードー賞を受賞し、
フランスで70万部、全米で100万部、世界でおよそ350万部の
売上げを記録した作品だそうです。
独軍の進軍を控えた1940年6月、
仏政府のパリの無防備都市化宣言を受け、
一斉脱出を余儀なくされた
パリ市民の模様を重層的に描いた群像劇「六月の嵐」。
ドイツ占領下のブルゴーニュの田舎町を舞台に、
留守を守る女たちと独軍人たちの交流を描く
「ドルチェ」の中篇(ほとんど長篇)ニ篇に加え、
本来5部作となったはずの本著の構想を記したノートと
著者にまつわる個人的な書簡が後書きで収録されています。
構想ノートには未完に終わった3部以降の考察も記されており、登場人物達の先々を想像する楽しみに耽るのもまた一興です。
そして最後の悲壮な書簡には強く胸を締め付けられます。
本著を刊行された出版社様及び翻訳者様には
最大の感謝と敬意を表明したい。
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ものすごく厚いので1面5秒みたいな速読。暗い時代だと思ってたのに風景描写がきれい(//∇//) 田園的
同じ時代の日本とつい比べてしまう。といっても対応するような日本の小説がないから想像だけど。自分の人生を謳歌しようとする姿勢がぼんやりつかめた気がする
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イレーヌ・ネミロフスキー『フランス組曲』白水社、読了。著者はロシアから亡命したユダヤ人資産家の才女。作家デビューして十年、第二次世界大戦が始まった。「国が私を拒絶するなら、こちらは国を平然と観察し、その名誉と生命が失われていくのを眺めていよう」。本書は歴史の激動をめぐる証言。
舞台は40年のドイツ軍の侵攻から始まる。フランス中のあらゆる階層の人々が本書には登場する。ドイツ人将校と不倫する銃後の婦人は極めて美しく描かれている。食料を奪い合う浅ましき人々の一方で、堪え忍ぶ人間の気高さが冷静に綴られている。
作家が死を意識しつつ、書きとどめた証言は、まさに一編の「組曲」である。「アウシュヴィッツに散った作家のトランクに眠っていた、美しき旋律」(帯)。
http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=08245
お勧めの一冊です。久しぶりにいい本を読んだ感。
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本当に素晴らしい作品を読ませてもらった。
込み上げてくる思いは色々あるのだが、
私なんかが迂闊に表現できない。
未完であることが悔しい。
2004 年 ルノードー賞受賞作品。
http://bit.ly/XiuRG8(訳者トークショー)
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「決して忘れてならないのは、いつか戦争は終り、歴史的な箇所のすべてが色褪せるということだ。1952年の読者も2052年の読者も同じように引きつけることのできる出来事や争点をなるだけふんだんに盛りこまないといけない」と1942年6月2日に記した作家は、一月後、連行され、同年にアウシュビッツ収容所で逝去した。
この小説は、五部構成となる予定であった。二部まで完結をみた原稿と執筆計画に関するメモや他の原稿、書簡等は家族の元に残され、同じくユダヤ人で妻と同じ運命を辿って亡くなった著者の夫から娘に託された。
これらの入ったトランクは長女が保管していたが、中は長期間開けられず、2004年にやっと世に出た。作品はたちまち大きな反響を引き起こし、各国語への翻訳も行われ、日本でも2012年、野崎さんと平岡さんの翻訳により刊行された。
この小説は、さまざまな意味で奇跡である。
著者の悲劇的な数奇な運命と甦るように閉じられたトランクから出てきた作品度はすばらしいものであった。
イレーヌ・ネミロフスキーは、ロシアでもっとも有名な銀行家の一人娘として1903年にキエフで生まれた。ユダヤ人であった両親はロシア革命によりフランスに亡命した。イレーヌもソルボンヌで学んでいる。
同じくロシアより逃れてきた裕福な銀行家の息子のミシェル・エプタンと結婚し、パリに新居を構えたのちフランス国籍となる娘を二人産んだ。
1929年彼女の処女作『ダヴィッド・ゴルデル』はベストセラーになり、舞台化、映画化され、数ヶ国語にも翻訳された。
その後も精力的に執筆を行い、中篇の『舞踏会』も映画化されたという。
本作『フランス組曲』は彼女の遺作になるが、天性の才能のうえに作家としてより油ののっている年齢や時期に時代の凄まじいうねりのなか著された未完の珠玉の作品である。
著者がバッハのフランス組曲を頭の中にいれてこの小説を構想していることは明らかである。
第一部の「六月の嵐」と第二部の「ドルチェ」はそれぞれに単独としても十分に重厚な完成度のある作品であるが、第一部と第二部に関連性を持たせ、バルザックの人物再生法を緩やかなかたちで取り入れている。
「六月の嵐」では、ドイツ軍が侵攻し、とにかく南へ南へと逃れていく人々のさまを中心に描く。
実に多くの人々が登場し、尚且つ複数の視点を映画の鮮やかなカッティングのようにどんどん繰り出すも読者を混乱させないのはひとえに作家の筆力である。
第二部の「ドルチェ」に舞台はフランスの田舎町。駐留するドイツ軍兵士は民家で寝起きしている。
一つ屋根の下に暮らすのは、息子を夫を家族を殺し、傷つけ、捕らえている男たち。
憎悪と恐怖のみであるはずであったフランスの人たちに芽生えてくる別の感情の機微を抒情豊かに描きあげる。
この書物には「六月の嵐」と「ドルチェ」のほかに資料として、『フランス組曲』執筆計画に関するメモと著者夫婦関連の書簡が掲載されている。
執筆計画のメモには、執筆経過や第三部以後のプロット等が記され、二部まででは想像できない著者しか知りえないその後が書かれている。それらはより作家の早逝に愛惜��念を抱くものである。
書簡には彼女の人柄が感じられ、収容所に連行されてからは、夫が妻を救うための懸命な努力の記録でもあり、夫が妻と同じようにアウシュビッツに収容されてからは、残された二人の娘を助けようとする人々の軌跡でもある。
まぎれもなく稀有な才能を持った埋もれた宝石のようなこの作家に、価値に似合った光が当たることを願ってやまない。
翻訳は第一部「六月の嵐」を野崎さん。「ドルチェ」を平岡さんが担当され、それぞれすばらしい翻訳でイレーヌ・ネミロフスキーを私たちに出会わせてくれた。
尚、本作は、どのような形だかはわからないが(「ドルチェ」を悲恋として?)ハリウッドで映画化の話も進んでいるとのこと。期待を込めて見守りたい。
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著者の境遇を知れば知るほど、
描きたかった世界観がいくつも輪になっていきます。
偶然の中にも、必然的な要素が積み重なってい様は、
こころの中に浮かんでは消える葛藤の中にあるもの。
気づきたくなくても、気づいてしまうことを、
より鮮やかに、映し出してしまいます。
ままならないものばかりでも、何もなかったことには
出来ないのが、本音というものなのでしょうか・・・
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第二次世界大戦下のフランスが舞台。前半は戦争による恐慌とそれによって剥き出しになる人間の本性を、後半は敵味方である征服者のドイツ人とフランス人の間の微妙な感情を描いている。
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イレーヌネミロフスキー「フランス組曲」読んだ http://www.hakusuisha.co.jp/detail/index.php?pro_id=08245 … 昔やったバッハを連想したのと表紙の美しさとで借り。本編は普通に読んだが巻末の書簡が辛かった。ホロコーストの話題は避けているのに最近うっかり読んでしまうことが多いなあ(つづく
4、5章で構成予定の「組曲」は作者がナチスに連行され2章だけの組曲に。章の連携は繊細で、完成したときの絢爛度を勝手に想像する。いやそれより書簡だ。作者/妻を奪還しようと奔走する夫と手を尽くす友人たち協力者たちの応酬がすごい緊密で臨場感で、家族の不安と嘆きを思うと苦しかった(おわり
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本来なら5部構成であるはずが、WW2戦時下の中ユダヤ系であるが故に2部で絶筆を余儀なくされた本作。「六月の嵐」ナチスドイツのパリ占領による市民達(様々な階級、職業)の大混乱の様子・その心理状態が戦争を経験していない自分にもありありと細に渡り想像できる描写力が凄い。「ドルチェ」占領が始まったその後、フランス人民とドイツ兵達の微妙なバランスの上に成り立っている人間関係も唯事じゃなく引き込まれる。 中尉が別れの際に出した叔父という人は、この後の登場人物になっていくのだろうと予想されるので益々絶筆が残念だ。
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フランス人のメンタリティがよくわかる作品。
第二次世界大戦の初期、ドイツ軍の侵攻を受け避難するパリ市民(第一部)ドイツに占領されるフランスの小さな村(第二部)。第一部、子供を連れて避難する神父の悲惨な末路。淡々とした書きぶりだが衝撃的。第二部は、占領されたフランス人女性とドイツ兵士との恋愛がメイン。組曲と考えれば、第二章はゆったりとしたテンポで流れることは納得できるが、ここで終わると尻切れとんぼな感じが否めない。
ナチスの迫害により、最後まで完成しなかったのは残念。
本筋には関係ないが、フランス女性にとってリネンって、とても大事なんだなぁ、と感心した。
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戦時下のフランス。フランス人もドイツ人も、農民もブルジョアも、人びとを万華鏡のように、肉厚に描く。パリ。ビュシー。戦時の最中にも、美しく瑞々しい自然は鮮烈に耀く。ミショー夫妻には清々しさを感じる。続きが読みたい終わって欲しくないと急かされるように頁を捲った。巻末の資料編は、その後の構想が窺える執筆ノートと書簡が載っており貴重。ネミロフスキーが執筆中にトルストイを読み返していたと知り、「戦争と平和」を思い返す。フランス組曲五部全てを読めないのが残念でならない。他の作品の邦訳も復刊して欲しいと思う。
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映画を見に行きたかったのだけど。
ひとつの物語だけかと思ったら、ひとつなぎではあるけれど、二幅の物語で、映画になったのはドルチェの方。
最初の六月の嵐は、ちょっと読みにくかった。
パリにドイツ軍が侵攻してくるという所からの大脱出劇をする、ブルジョワ家族、金持ち、芸術家、一般市民それぞれの目線からの騒動。
ブルジョワのペリカン家の奥さんが好きになれなくて(笑)、その他の登場人物もあんまり好きになれなくて(笑)
ただ、市民のミショー夫妻と、息子のジャン=マリのエピソードだけは、なんかホッとする。と思ったら、作者の創作メモに善良な云々とあって、あぁ!と思った。
ドルチェはさくさく読めた。
ただ、まだ何もない。何もなくはないけど、まだ手前。青いところで未成熟で終わってしまった。淡々と占領下の日々が語られ、ある日突然終わりを告げられた感じ。
この先どうなるのか、見えないまま、気になる、と思ったら。本のタイトルがフランス『組曲』てだけに、5部までのはずだったみたい。
作者が、あの時代にユダヤ人 という理由で捕らえられ、未完に終わった話。
3部のメモは残っていて、断片を見ると、ちょっと悲しいエピソードになりそうだったから、うん…。