紙の本
結構面白かった。
2017/10/26 20:30
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投稿者:たまがわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
訳者は前語りで、
『 つまらない挿話は省いたのか。無意味だと判断した書き足しを削ったのか。
すっきりさせて「ダイエット版の現代語訳 平家」を生んだ?
否だ。
私はほとんど一文も訳し落とさなかった。敬語だって全部訳出した(むしろ増やした)。
章段の順番もいっさい入れ換えなかった。』
『 私は全身全霊でこの物語を訳した。
鎮魂は為せたと思う。』
こう言っているので、安心して読めた。
原文ではとても読む気になれないし、どうにかこの訳で、途中飛ばし飛ばししながらも
何とか読み通せたので、良かった。
この訳によって、登場人物たちがより生き生きと描かれているのだと思う。
結構面白かった。
現代でも馴染みのある神社仏閣が、物語の舞台として結構出てきて、これも良かった。
試しに一部分を、手元にあった原文(版が違うかも?)と併せて載せてみた。
薩摩の南方の洋上にある鬼界が島についての描写の部分。
嶋の中にはたかき山あり。とこしなへに火もゆ。硫黄と云物みちみてり。
かるがゆへに硫黄が嶋とも名付たり。いかづちつねになりあがり、なりくだり、
麓には雨しげし。一日片時、人の命たえてあるべき様もなし。
島の中には高い山がございます。
永久に火が燃えております。
硫黄というものがいっぱいです。
そのために硫黄が島とも称されるのですが、まあ噴火の轟がいつも鳴り上がること、
そして山頂より鳴り下ること、それから麓では雨がしきりです。
一日片時といえども人が生きていられるところとは思えません。
壇ノ浦の合戦中の出来事。
「けふは日くれぬ、勝負を決すべからず」とて引退く處に、おきの方より尋常にかざっつたる小舟一艘、
みぎはへむいてこぎよせけり。磯へ七八段ばかりになりしかば、舟をよこさまになす。
「あれはいかに」と見る程に、船のうちよりよはひ十八九ばかりなる女房の、まことにゆうにうつくしきが、
柳のいつづれぎぬに、紅のはかまきて、みな紅の扇の日いだしたるを、舟のせがいにはさみたてて、
陸へむいてぞまねひたる。
とはいえ「今日はもう日が暮れてしまう。決戦は無理だ。」というわけで、引き揚げはじめた。
そのときだった。
沖のほうから立派に飾り立てた小舟が一艘、汀をめざして、来る。
漕ぎ寄せる。
と、磯へ七、八段ほどの距離となったところで、船の向きを横にする。
「あれは、なんだ」源氏の軍兵たちは訝る。
目を離さないでいると、船屋形から年のころ十八、九の女房が現れる。
柳の五衣に紅の袴を着て、優美なことこの上ない。紅の地に金箔でもって日輪を描いた扇を持っている。
いや、扇は竿の先についていて、その竿を持っている。その竿を船乗りたちが足場とする船の縁板に建てる。
それから、陸にーー源氏の武士たちにーー向かって手招きをする。
紙の本
難しいけど面白い。
2022/08/17 12:43
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投稿者:抹茶 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ふとした今日まで買ってみました。とても長いのですが、現代語訳されてるのでスラスラと読むことができます。わからない言葉が出た時は調べて新しい知識も得られました。昔の話なのに心が痛むところとかもあったりして、小説に時代は関係ないんだなと痛感します。
紙の本
驚異の物量。
2019/07/21 17:36
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投稿者:ROVA - この投稿者のレビュー一覧を見る
語り口が耳元で聞こえてくるような名訳。
やはり戦の場面が一番盛り上がるというか、琵琶の音が聴こえてくる。
昔教科書に載っていた部分以外の平家物語をちゃんと読めたのは初めて、だと思う。
後半の幼子が多く死んでいく場面はやはり悲しい。と同時に、実に上手い語り口!
月報でも書かれている通り、中盤の語り口が急に変わる場面はゾクッとする。
からかわれる猫間中納言にはちょっと笑った。
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声が幾つもの鳴り響いている。『平家物語』は単一の語り部ではなく複数語り部が物語を継ぎ足した、だから声は幾つもある。
異なるvoiceの集合体だ。だからこれはミックスされた物語としてある、古川さんの作品を読んだ人ならわかるだろうが、古川日出男という作家は幾つもの声を、voiceが鳴る小説を書いてきた。そして、DJのように繋ぎミックスしている。だからこそ、『平家物語』が古川日出男訳で新しく形になることは極めて正しいと読みながら思う。
幾つもの声が鳴り響いている。諸行無常、あらゆる存在は形をとどめないのだと告げる響き。
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こういっては何だが、本人の書いた源氏物語を材にとった小説『女たち三百人の裏切りの書』より面白かった。現代語訳とはいっても、本来語り物である『平家物語』を、カギ括弧でくくった会話を使用し、小説のように書き直したそれは、もはや別物だ。加筆した部分に作家自身の小説作法が顕わで、いかにも小説家らしい訳しぶりであることが評価の別れるところかもしれない。が、そのおかげで、この大部の物語を読み通せるのだから、ありがたいと思わないわけにはいかないだろう。
読み通した人は少ないだろうが、誰でも中学や高校の教科書でその一部は読んだことがあるはず。冒頭部分の「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらわす」を暗記している人も多いだろう。那須与一の「扇の的」や、義仲の死を描く「木曽最期」など、授業で教わったことを今でも覚えている。また、歌舞伎にも『熊谷陣屋』、『平家女護島』など、熊谷次郎直実や俊寛僧都といった『平家物語』に登場する人物にスポットを当てた芝居も多い。
そうした有名な合戦の様子や武士たちの戦いぶりばかりが目に留まりがちだが、冒頭部分にあるように、『平家物語』は、諸行無常、盛者必衰といった仏教的無常観にどっぷり浸かった物語だ。また、祇王、祇女と仏御前の悲話からはじまり、後白河法王が草深い大原の里に建礼門院を訪ねる「大原御幸」で終わる、そのことからもわかるように、戦いに明け暮れる男たちだけでなく、その陰で夫や子、孫、想い人と別れなければならない女たちの物語でもある。
もちろん、「平家にあらずんば人にあらず」とまで言わせた栄耀栄華の暮らしから、清盛の死を契機に凋落、源氏の旗揚げにより、西国に落ち延び、壇ノ浦で滅びるまで平家一門の姿を追った部分が主たる筋となる。それを太い幹としつつ、幾つもの挿話が枝分かれし、時には本邦を遠く離れ、中国にまでおよぶ。項羽と劉邦、蘇武に李陵、玄奘三蔵まで登場するにぎやかさだ。おそらく、琵琶法師によって語り継がれてゆくうちに、増殖していったものでもあろうが、その雑多な物語群の入れ子状態にこそ『平家物語』の魅力があるように思われる。
数多く登場する武士や公達のなかでも特筆すべきは、頭領である平清盛ではなく、嫡子重盛。清盛が尋常ではない悪人として一目置かれながらも、高熱を発しての有り得ない死の有様を見ても分かるように、どこかカリカチュアライズされて描かれているのに対し、重盛の方は、その学識、物腰、人に対する配慮、朝廷を敬う態度、とどれをとっても申し分のない人物として最大級の扱いを受けている。平家の凋落は、重盛が神意によって病を得て、父より先に死ぬことがその遠因となっている。
しかし、聖人君子のような重盛では物語の主人公はつとまらない。そこで、登場するのが朝日将軍木曽義仲や九郎判官義経といった武人たちだ。現役バリバリの小説家による現代語訳最大の成果は、人物造形の力強さにある。特に義仲は、奔放なエネルギーを持て余す豪傑として出色の出来。「だぜい」を語尾につけるところは、どこかの芸人みたいだが、都流の雅など知らぬと言いたいばかりの���礼千万な振る舞いは、いっそ小気味よく、墨をたっぷり含ませた太筆で一気に描き切ったといった感じ。剛毅であって、稚気溢れる人物像が粟津の松原での最期のあわれをいっそう掻き立てる。
それに比べると、反っ歯で小男という外見もそうだが、奇手奇策を用いて相手の隙を突く戦法を得意とする義経は、あまり英雄豪傑らしくない。搦め手の大将という位置にありながら、功名手柄を独り占めしたがり、配下の梶原平蔵相手に先陣争いをしてやり込められるなど、梶原の言う通り将たる者の器量ではない。扇の的を射た後、船上で舞い踊る人物を必要もないのに射させるなど残虐なところもある。性狷介固陋にして子飼いの者にしか心許すことがない。後に先陣を許されなかったことを恨みに思う梶原の讒訴により兄との仲を割かれるが、あながち梶原ばかりが悪くはないと思わせる人物として描かれている。
意外に思うのは、重盛をはじめとする当時の政治家たちが自分の国をどう見ていたかという点である。幼帝の践祚や還俗しての重祚など、何かというと中国の先例を引いて、その正当性を確かめようとするところに、中華文明圏の一員としての自覚を見ることができる。自分の国は粟粒ほどのちっぽけな島であるという言葉さえ見られる。また、自分の置かれた状況を図るのに、『史記』にある蘇武や李陵の例を引くなど、中国文化をモデルにして生きていたことをうかがわせる。自分の国の小さいことや歴史の浅さをよく知り、中華文明を生きていく上での規範としていた訳だ。
多くの作者によって語られた物語群の統合としてある『平家物語』。そのなかに、何人かは知らないが、世界を俯瞰できる眼の持ち主がいたのだろう。今でこそ『平家物語』は軍記物の古典である。しかし、当時これだけのものを書こうと思えば、中国古典に習うしかない。そして、そのなかに仏教的無常観を招じ入れ、独特の語り物文学をつくり上げた。訳者は、そこに諸国放浪の琵琶法師はもとより、皇族、公家や武士、多くの女人たちの声を聴きとり、ポリフォニックな語りの文体を採用した。かなりの長さだが、単調になることなく最後まで面白く読み通すことができたのは、その工夫によること大である。古川本で『平家物語』を読んだ、という人が増えることはまちがいない。
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900頁の大作をやっと読み切った。
平家物語が源平合戦で亡くなった武将達の鎮魂の物語というのがよく分かった。
前半で清盛の傍若無人を描き、後半で子孫達の哀れな末路を描く。因果応報である。
この平家物語を起点とする幾多のスピンオフ作品があり、興味があり、色々と読んでみたいと思った。
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2017.1.14市立図書館 →2022.1購入
図書館の予約待ちが意外と(話題になっているわりに)はやく回ってきたけど、ちょっとじっくり腰を据えて読める状況ではなく、この厚み、手元においてゆっくりゆっくり読み続けていくものかも知れぬと読了は諦め、冒頭や解説などをぱらぱらとつまみ読み。現代語訳の語り口はするするとひきよせられるものだし、やはり買うしかないか。
巻末に系譜などがあってたすかるのだけど、(この作品に限らず大河文学の場合)できれば折り込み付録か切り取れる仕様になっていると参照しやすくていいのになぁ、と思う。
***
2022年1月、アニメ版の放送が始まるため、とりあえず購入。映画のほうの犬王(文庫)もあわせて。
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余りにも有名な物語。でもその内容は断片的かつ曖昧にしか知らない。知っている所もひどく曖昧。琵琶の撥にあてられて読み進められそうで、やっぱり難しくて。文体がいつのまにか変化しているのにも気付かないほどの時間をかけて読了。清盛の悪行は分かったけれどここまで書かれると「ほんと?」と逆に思ってしまう。祇王、巴、静、徳子、千手、横笛。女はいつも悲しい。この頃はまだ思いのつよさで命が絶てた時代。人外のものも生きた時代。おごれるものは久しからず、それた源氏とて同じ。雅も織り交ぜ西に落ちる平家のその様々な悲しい物語。
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完訳というのは素晴らしい。900頁近くある大作だけれど、読みやすく一気に読んだ。
それにしても、断片的な知識というのは勘違いが多いということをあらためて思い知られた。こうして物語を通読してみると、切れ切れのエピソード同志の因果関係が理解できて、頭の中がすっきりする。
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読み終わった達成感がすごい。
飽き性で、書き下し文で読むの辛い…とか思ってたので、口語訳・しかも琵琶法師の語り口調で書かれていたのは、語調に引っ張られるようにぐいぐい読めて楽しかった。
それにしても、平家のことよく知らなかったけれど、平清盛ってあんなに破天荒な人だったんだァ…と今更衝撃。
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●うむ。たいそう手こずった。
夏休みの読書感想文(←平成末期でもこの課題は存在してるんですかね?)に悩む中高生には1ミリもお勧めしませんぞ。
古川日出男作品のファンなら御自由に。
●まえがきでは「一文も訳し落としていない」とのこと。たしかに。
気になった箇所について、底本として挙げられてる小学館全集版をひっぱりだし、どれどれと(部分的に)見比べてみたのですが、確かにそのようです。
むしろちょいちょい足してますな。ま、でなきゃわざわざ現役作家が現代語訳なんかしなくてもいいよねー。
●ではここで唐突に古川日出男作品チェーーーック! ファンの皆様のご意見は知らんぞ。
1・いきなり一定の単語を反復する
2・いきなり文章を倒置する
3・いきなり読み手に話しかける
……私、古川作品を読むのは約6年ぶりなのですが(←その辺りが確認できるブクログさんありがとうございます)、どうやらまったくもってあいかわらず1~3を踏襲されている模様です。ソコはええんやで?スキ。
ただし。
面白いか面白くないかを問われれば、「よくわからない…」とお答えします。
なんせ『平家物語』。
そもそもの筋立てがつまらなかったら、21世紀まで語り継がれるわけないだろうこのやろう!(白目)
●率直に申し上げると、本来の『平家物語』の筋立てを追いたい方にお勧めするのは、こちらではなく底本の小学館版日本古典文学全集です。
するする読める訳文です。
挿絵も訳注も充実。素敵。
それでも古川版を選んだ人の目的は、散りばめられてる(はずの)古川色だと思うのですが…どうなの皆様ご満足なの??
個人的には
1・比較的長い文章は、もすこし切り分けて古川粉を振りかけた上で提供してくれてもよかったんやで?
2・そんで終盤にドヤドヤ登場する語り手の皆様は、もすこしはやめに声を大きく話しかけてくれてもよかったんやで??(←原典を損うギリのラインかな? でも、語り物ならもちっと前面に出てみてもいいのでは。各々が/口々に語る効果はいいと思います。声は出す&張るものです。特にマイノリティはな…声をデカくしたら品がないと言う意見はわかりますが…)
●そんなところで。ウエメセ気味な感想部分は申し訳ございません。期待値が高いと比例して厳しくなるものです。
ちなみに、お試しでとある段を声に出して読んでみたらちょっと楽しかったです。壁ドン!されない住まいの者ならではの遊び方ですね。もちろん貴族ではない。
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ついに読み終わりました。
読みやすかったし読み応えあった。
複数の語り部がいる複雑さを見事に表し、琵琶のリズムを巧みに躍らした文章だった。
悲哀に満ち満ちた、敗者、弱者に寄り添う物語。
何百年も時を隔てたその物語の登場人物に感情移入出来ることが素晴らしく、時を超えた読書だった。
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印象に残ったフレーズ
・平重盛
聖徳太子の十七条の憲法にもこうあります。「人には皆心がある。心にはそれぞれ固執するところがある。彼を正しいとすれば、私は正しくない。私を正しいとすれば彼が正しくない。よって是非というのは定め難いもの。人は皆、相互に賢であり愚である。ちょうど環には端がないのと同じである。以上を持って腹立たしいことがあったとしても、それは自分の方に過失があったのではないかと省みよ」
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初めて平家物語を読みました。
長い!!!
800Pはなかなか読み応えのある内容でした。
読み終わったことに満足しました。
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生者が、死者が、怨霊が、物怪が、語る平家の没落の物語。明確な作者が存在せず、無数の琵琶法師たちにより形成された本作は、このようなポリフォニックな無数の声により形成された稀代のエンターテイメント作品である。
本書は古川日出男による平家物語という古典の現代語訳である。その訳文は死者の世界にいる無数の琵琶法師たちとの一種の霊的な結びつきにより示されたのではないか、と思うくらうの完成度を誇る。それは何よりも、この物語が、恋愛、戦争、政治紛争、災害、物の怪への恐怖、家族との情愛など、人間が生きる上での様々な要素を余すことなく盛り込んだ一大エンターテイメントであるということを完膚に伝えることに成功している。
正直に言って最初のページを繰る手が重かった本作であるが、やはり歴史を経た弩級のエンターテイメント作品の面白さというのは途轍もない重力がある。池澤夏樹監修の日本文学全集の中の一冊であるが、この平家物語の役者に古川日出男を選んだ同氏の慧眼に感謝したい。