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たまがわさんのレビュー一覧

投稿者:たまがわ

155 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

身近な話題で読みやすい

15人中、15人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

おもしろく、読みやすい。
著者の別の本も読んでみたくなった。
著者は「謝辞」で

『 どうすれば「学者っぽくない文体」で書けるのか、工夫するのは簡単ではなかったが、
執筆中は多くの人に助けられた。』

と書いているけど、たしかに著者に親しみを感じるような文章だった(翻訳も)。


第4章の、「社会規範」と「市場規範」の話は、興味深くおもしろかった。

一例を挙げると、イスラエルの託児所で、子どもの迎えに遅れてくるのを減らすために、
親に罰金を科すのが有効かどうかを、著者の友人でもある二人の学者が調査をした。
結論を言うと、罰金はうまく機能しないばかりか、長期的に見ると悪影響が出ることが分かった。

なぜかといえば、罰金導入以前は親たちは、「社会規範」の意識、
つまり遅刻をすれば先生に申し訳ない、という気持ちが強かったので、
あまり遅刻をしていなかった。
しかし罰金制度が導入されると、考え方が「市場規範」に変わってしまい、
罰金を科せられているのだから、遅刻するもしないも決めるのは自分とばかりに、
親たちはちょくちょく遅刻するようになってしまった。

しかも、数週間後に託児所が罰金制度を廃止した後も、
親たちの遅刻は治らず、わずかだが悪化したという。

『社会規範も罰金もなくなったのだから無理もない。』と著者は言う。

そして、

『 この実験は悲しい事実を物語っている。
社会規範が市場規範と衝突すると、
社会規範が長いあいだどこかへ消えてしまうのだ。
社会的な人間関係はそう簡単には修復できない。
バラの花も一度ピークを過ぎてしまうともう戻せないように、
社会規範は一度でも市場規範に負けると、まずもどってこない。』

という。
これ以外のより多くのこととも関係しそうな、考えさせられる話だ。


同じジャンルの本で、同じハヤカワNF文庫に「ファスト&スロー」
(ノーベル経済学賞受賞者・ダニエル・カーネマン著)があるけど、
本書の「解説」では、本書を先に読み、つぎに「ファスト&スロー」を読むのが良いと書いてある。
たしかに、本書の方が、読みやすいのと、扱っている内容がより身近な感じ。
「ファスト&スロー」は、より内容が濃く専門的な感じ。
分量も上下巻で多いけど、そちらもおもしろかった。

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紙の本

紙の本日本文学全集 09 平家物語

2017/10/26 20:30

結構面白かった。

12人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

訳者は前語りで、

『 つまらない挿話は省いたのか。無意味だと判断した書き足しを削ったのか。
すっきりさせて「ダイエット版の現代語訳 平家」を生んだ?
 否だ。
 私はほとんど一文も訳し落とさなかった。敬語だって全部訳出した(むしろ増やした)。
章段の順番もいっさい入れ換えなかった。』

『 私は全身全霊でこの物語を訳した。
 鎮魂は為せたと思う。』

こう言っているので、安心して読めた。
原文ではとても読む気になれないし、どうにかこの訳で、途中飛ばし飛ばししながらも
何とか読み通せたので、良かった。
この訳によって、登場人物たちがより生き生きと描かれているのだと思う。
結構面白かった。
現代でも馴染みのある神社仏閣が、物語の舞台として結構出てきて、これも良かった。



試しに一部分を、手元にあった原文(版が違うかも?)と併せて載せてみた。

薩摩の南方の洋上にある鬼界が島についての描写の部分。


嶋の中にはたかき山あり。とこしなへに火もゆ。硫黄と云物みちみてり。
かるがゆへに硫黄が嶋とも名付たり。いかづちつねになりあがり、なりくだり、
麓には雨しげし。一日片時、人の命たえてあるべき様もなし。


 島の中には高い山がございます。
 永久に火が燃えております。
 硫黄というものがいっぱいです。
 そのために硫黄が島とも称されるのですが、まあ噴火の轟がいつも鳴り上がること、
そして山頂より鳴り下ること、それから麓では雨がしきりです。
一日片時といえども人が生きていられるところとは思えません。


壇ノ浦の合戦中の出来事。


「けふは日くれぬ、勝負を決すべからず」とて引退く處に、おきの方より尋常にかざっつたる小舟一艘、
みぎはへむいてこぎよせけり。磯へ七八段ばかりになりしかば、舟をよこさまになす。
「あれはいかに」と見る程に、船のうちよりよはひ十八九ばかりなる女房の、まことにゆうにうつくしきが、
柳のいつづれぎぬに、紅のはかまきて、みな紅の扇の日いだしたるを、舟のせがいにはさみたてて、
陸へむいてぞまねひたる。


とはいえ「今日はもう日が暮れてしまう。決戦は無理だ。」というわけで、引き揚げはじめた。
 そのときだった。
 沖のほうから立派に飾り立てた小舟が一艘、汀をめざして、来る。
 漕ぎ寄せる。
 と、磯へ七、八段ほどの距離となったところで、船の向きを横にする。
「あれは、なんだ」源氏の軍兵たちは訝る。
 目を離さないでいると、船屋形から年のころ十八、九の女房が現れる。
柳の五衣に紅の袴を着て、優美なことこの上ない。紅の地に金箔でもって日輪を描いた扇を持っている。
いや、扇は竿の先についていて、その竿を持っている。その竿を船乗りたちが足場とする船の縁板に建てる。
それから、陸にーー源氏の武士たちにーー向かって手招きをする。

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紙の本

古代DNAが切り拓く、衝撃の人類拡散史。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

現役の超大物遺伝学者による、このジャンル中の現時点での決定版。
扱っている年代は、主にネアンデルタール人以降。

科学の力によって、次々に新しい事実が明らかになっていき、
驚き感心するとともに、この学問が持ちつつある切れ味と破壊力に、
怖さのようなものも多少感じた。

例えば、ある民族の先史時代からの出自と由来が
科学によって明らかにされるということは、
その民族にとっても個人にとっても、アイデンティティに関わることでもある。
良くも悪くも、その民族が持つ神話を打ち砕いてしまうようなパワーを持つ。

あるいは、ある民族グループの人たちは遺伝的にこのような特徴を持っています、
また、遺伝子的にこのような病気にかかりやすいです、などと示されたときの、気持ち悪さ。
本書ではまだこれらのことは、それほど明らかにはしていないけれども、
本書を読むと遺伝学の進歩スピードにより、すぐにでもこのような主張が
たくさん出てくることは確実と思われる。

第11章では、上記の問題を含む、ゲノムと人種偏見などに関する
難しい問題に切り込み、論じている。

人種間の違いはないとする従来の科学界の教科書的見解と、
人種差別主義者たちがその主張の根拠として、
遺伝学の研究結果を利用していることの両者を、
著者は科学的立場から批判しつつ、今後、この分野の
さらなる研究の進展により、様々な新事実が次々に
明らかにされていくであろうことに、備えておくことの必要性を訴えている。


以下は本文より引用。

『ところが2009年を境に、考古学や歴史学、人類学、さらには言語学において
長く支持されてきた考え方に、全ゲノムデータが挑戦し始めた。
そして、こうした分野の長年の論争に一つひとつ決着をつけているのだ。』


『過去8000年のヨーロッパ史が目の前に展開し、
超スローモーション撮影ビデオを再生したように、
現代ヨーロッパ人が、今の自分たちとはほとんど類似性のない系統の集団から
どのようにして形成されたのかを見せてくれたのだ。」


『ストーンヘンジの建造者のような人々は、神々に捧げる
壮大な神殿や死者のための墓所を建てていたのだが、
数百年もしないうちに子孫がいなくなり、自分たちの土地が侵略されることになろうとは
知る由もなかっただろう。
古代DNAから浮かび上がってくるのは、現存する北ヨーロッパ人すべてのおもな祖先が、
わずか5000年前にはまだやって来ていなかったという驚くべき事実だ。』


『 ステップの人々がペストに感染して抵抗力をつけていたということは考えられないだろうか。
彼らの持ち込んだペストによって免疫のない中央ヨーロッパの農耕民の数が激減した結果、
縄目文土器文化の広がる道が開かれたという可能性はあるだろうか?』


『こうして、古代DNAによって、可能性のある移住ルートを追跡し、
その他のルートを除外できたため、10年にも及ぶ膠着状態に決着がついて、
インド=ヨーロッパ語の起源に関する議論に終止符が打たれた。』


『人類の先史時代を形づくった重要な推進力は、極めて多様な集団の間の
大規模な移住と交雑だったことが、古代DNAによって疑問の余地なく証明されたのだ。
厳密な科学の前に、純血信仰への回帰をめざすイデオロギーは退散するほかないだろう。』


『わたしたちは今、こんにち生きているほぼあらゆるグループが、
何千年、何万年にもわたってくりかえし起こった集団の交雑の産物であることを知っている。
交雑が人類の本質であり、どの集団も「純血」ではないし、その可能性もない。』

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紙の本

いつもの話の繰り返しもあるけど、それでもやはり、読めば新鮮で響く。

8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

これまで著者が主張してきたことの
繰り返しになるような話もあるけれども、
分かりやすい文章で、簡潔にまとめられているという感じ。

そして読めばやはり、なるほどと感心したり、腑に落ちる感じがしたり、
これはすごい、と感じたりする部分も多かった。


最近自分は著者が言うところの、「自分の心が暗く澱んで」いるような状態のときが多かったのだけれど、
読み終わって、スッキリしたような、心が少し落ち着いたような、迷いが晴れたような、そんな感覚をひとときでも、味わったのだった。

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電子書籍

電子書籍人を動かす 新装版

2015/07/20 19:22

読んで良かった。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

読んで良かったと思う。
ちょっと怖い題名、いかめしい雰囲気の表紙、分厚い分量。
しかし、書評が良かったので電子書籍で読んでみた。

非常に納得のいく具体的な話が多く、一話が短いので読みやすい。
「人を動かす」といっても、冷たいテクニックについてではなく、
暖かい人間観に基づく、物事の受け止め方、考え方、自分が選ぶべき行動について、書かれている。

全編にわたり、役に立つ、しかし少し耳の痛くなる話がたくさん出てくる。
PART1の最初の章だけでも、以下のような鋭い文が、いくつも出てくる。

・人間は決して自分が悪いとは思いたがらないものである。だから他人のあら探しや批判を行っても効果は期待できない。人を非難することは無益である。
・死ぬまで他人に恨まれたい人は、人を辛辣に批評してさえいればよろしい。その批評が当たっていればいるほど、効果はてきめんだ。
・およそ人を扱う場合には、相手を論理の動物だと思ってはならない。相手は感情の動物であり、しかも偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得ておかねばならない。
・若い時は人づきあいが下手で有名だったベンジャミン・フランクリンは、自分の成功の秘訣は「人の悪口は決して言わず、長所をほめること」だと言っている。
・人を批評したり、非難したり、小言を言ったりすることは、どんな馬鹿者でもできる。そして、馬鹿者に限って、それをしたがるものだ。

上記の文だけを読むと、説教臭く感じたり、小手先のテクニックについて書かれていると感じられるかもしれないが、本文は暖かい雰囲気で貫かれている。
そして、こう書かれている。

・重ねて言う。本書の原則は、それが心の底から出る場合に限って効果を上げる。小手先の社交術を説いているのではない。新しい人生のあり方を述べているのである。

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紙の本

著者への畏敬の念が湧いてくる。そんな対談。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書は、朝日カルチャーセンターで行われた連続対談に追加対談を加え再構成・加筆したものだそうだ。

すごいお二人の組み合わせだと、この本の出版を最初に知ったときに笑ってしまった。

とにかく、高橋氏の謙虚さというか柔らかさというか、静けさみたいなものが
全編を通じて流れていて、読みながらずっと、著者に対して畏敬の念を感じざるを得ないような、
一種の宗教的とも言えるような気分を感じながら、読み進めた。

対談の中身は、人の内的体験のような話からキリスト教、教育、資本主義のような現実的な話まで、
結構難しい話題も多いながら、現代の私たちの置かれている状況などと絡めつつ、深くて濃い。

何より、具体的な対談の中身よりも、二人の著者がお互いを尊重しあい、謙虚に尊敬しあう姿が、心に残った。
例えば、本当の賢者ともいえるはずの高橋氏が自身を、
『道半ばを歩いている者』 としていたり、

『 私がなぜ佐藤さんのファンかといいますと、佐藤さんの出された本を読ませていただいて、
自分がいかにものがわかっていないか思い知らされ、もっと学ばなければという気持ちに
させられるからなのです。いま、私をそういう気持ちにさせるのは、第二の啓蒙主義の時代を生きているからではないか。
政治でも経済でも精神生活でも、まだ見えない未来のための土台になる、基本的に大事なことを
わかりやすい言葉で論じてくれている第一人者は、私にとって、日本では佐藤さんです。
特に、見える世界と見えない世界の関係を、佐藤さんはご自身の専門であるキリスト教神学の立場からだけではなく、
ほかの立場からも、しかもその立場を自分のこととして論じてくださっているところが、すばらしいです。』

と語っていたりするので、読んでいるこちらとしては頭が下がり、謙虚な、
清々しいような気持ちにさせられる。

それと思ったのが、新書としては中身が充実し過ぎていること。
一般書として、3300円ぐらいで売っていてもいい本じゃないかとも思った。

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紙の本

紙の本暇と退屈の倫理学 増補新版

2016/09/04 21:55

様々なことを考えさせる本。

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

考えさせる本。約1300円でこのボリューム・内容の濃さは、お買い得。

あとがきによると、
『 この本で取り上げた問題は何よりも自分自身が抱いていた悩みだった。
〈暇と退屈の倫理学〉という言葉を思いついたのは本当にずっと後のことだが、とにかく本文で取り上げた退屈の苦しさを
自分もずっと感じていた。しかし、それを考察してみることはなかなかできなかった。
(中略)
 そうやって始めた考察を今の段階でまとめてみたのが本書である。
この本は人に「君はどう思う?」と聞いてみるために書いた。
自分が出した答えをいわば1枚の画として描き、読者の皆さんに判断してもらって、その意見を聞いてみたいという気持ちで書いた。』
とのことである。

途中で少しややこしい哲学的な議論も出てくるが、全体として、現代人の置かれている環境についての考察や、
哲学者たちの様々な思考の営みについての話など、分かりやすく読みやすく、話が進行していく。
お勉強臭くない。むしろ、私たちの実感に近い部分で議論が進んでいく。
何より、著者の等身大の思考で話が展開されていくので、読者も読みながら一緒に考えさせられるし、
著者のその立ち位置に、好感を持ちながら読んだ。


以下本文より…

『 となると、ハイデッガーが言っていた通り、日々の仕事の奴隷になっているからこそ、私たちは第一形式の退屈を感じるのである。
もしそこから自由であったなら、列車の到着まで待たなければならないぐらいでそんなに焦ったり、退屈を感じたりはしないはずだ。

 しかし更に問うてみよう。なぜ私たちはわざわざ仕事の奴隷になるのだろうか?
なぜ忙しくしようとするのか?奴隷になるとは恐ろしいことではないだろうか?

 いや、そうではないのだ。本当に恐ろしいのは、「なんとなく退屈だ」という声を聞き続けることなのである。
私たちが日常の仕事の奴隷になるのは、「なんとなく退屈だ」という深い退屈から逃げるためだ。』

上記に引用した文はまだまだ退屈論の序盤で、これから更に、ハイデッガーの理論を批判的に考察し、展開していきます…。

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紙の本

情報量豊富で読みやすい。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者が「二十一世紀病」と呼ぶ、
アレルギー、自己免疫疾患、消化器トラブル、うつ病、自閉症、肥満などの疾患は、
いまや、「ふつう」のことではあるが、著者によればこれらが急増したのは、
過去六十年ほどのことなのだという。
それがなぜなのか、著者は迫っていく。

従来の定説を否定する研究を取り上げたり、新説を紹介したりしている。
たとえば肥満に関しては、カロリー計算で体重のコントロールはできないという。
イギリスやアメリカなどで、一日の平均摂取カロリーは過去数十年間で減っているが、
肥満は逆に激増している。
その鍵になりそうなのが野菜を含む食物繊維の摂取量で、これが減っている。
このように、カロリー計算以外の要素を、著者は色々と紹介している。

例えば、抗生物質を投与するとよく太ることは家畜でも人間でもよく知られているという話から、
腸内細菌とマウスの実験の話、肥満はウイルスによる感染症によるものだという説まで紹介する。

著者は怪しげな健康本にならないために、科学的な記述を心掛けているけれども、
どちらかといえば従来の定説に対して手厳しく、
新奇な説に対しては肯定的に取り上げている傾向はあると思う。

出産時の経膣出産と帝王切開との、赤ん坊のその後の成長に対する影響の違いとか、
糞便移植による難病治療の話とか、
トキソプラズマという寄生虫(感染者は多い)により、ヒトの性格が変わるという話とか、
様々な話題が興味深い。
一読の価値はあると思う。
難しい本ではなくて、読みやすい一般向けの本。

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紙の本

小さなミスが、大事故につながるまで

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

原題は、
"INVITING DISASTER: Lessons from Edge of Technology"

膨大な数の重大事故の検証集。
アポロ宇宙船やら潜水艦やら原子力発電所やら、
飛行機墜落事故、工場爆発、船舶火災、熱気球、自動車…。

「序章」で著者は、

『わたしは、人間のミスとマシンの不調が結びついた災難を中心に検討することにした。
ニアミスですんだり、多少の損害はあったが大惨事にいたる寸前ですんだものもある。』という。


本書内では、ある一つの事故について考証しているうちに別の事故に言及したり、
また最初の事故についての記述が終わったのかどうかはっきりしないままに、
別の事故についての詳しい記述が始まったりと、
とにかく膨大な量の過去の事故について、ひたすら紹介と考察が続いていく。

教訓は、とにかく高濃度酸素は何でもすぐに燃やしてしまうから危険とか、
水と電気の接触による事故は、より重大な事故に結びつくとか、
NASAや納入業者は、打ち上げ期日や納入期限に追われると
小さな不具合を無視するようになるとか、
24時間勤務のシフト制では、情報の引継ぎが重要とか、色々、多数。

もちろん、リスクを扱う組織はこうしたほうがいいとか、
小さな問題に直面した個人としてこういう行動もありうる、などの提言もある。

著者が強調するのが、今日システムはより巨大化し、ハイパワーになっているために、
ほんの小さなミスが災害の引き金を引いてしまうことがある、ということだ。
本書の実例でも、小さな不具合やミスが、システム全体の破局につながるというケースが
多く紹介されている。

そもそも、システム自体が元からかなり危険度の高い、
脆弱なものだと感じるケースもある。
少なくともスリーマイルアイランド原発事故当時(1979年)の原発は、
危険だらけの代物なのではないかという印象を、本書を読んで持った。

当時、何が起きているのか現場の誰も分からない大混乱のさなかに、
技術者のひとりが、問題を起こしている二号炉の担当ではなかったブライアン・メーラーを
制御室に一本しかない電話で自宅から呼び出して、
そして彼がある問題に気付かなければ、どんなことになっていたかわからないという。

またこの原発事故の二年前にも、オハイオ州のデビス・ベッシ原子力発電所一号機で、
惨事寸前のニアミスが起きていた。

著者はいう。

『 本書で訴えたいことのひとつはこうだ。
われわれは凶暴化することもあるマシンにかこまれて暮らしているのだが、
そうしたわれわれの世界においては、いまや平凡なミスが
莫大な被害を招きかねないことを認める必要があるし、
その結果として、より高度の警戒がもとめられるばかりでなく、
家庭や小企業のレベルまでもが高度の警戒をしなければいけないように
なりつつあることを知る必要がある、ということである。

たとえば、惨事につながる連鎖は、飛行機の機体の洗浄を担当する会社からも生じうるし、
マンションのガス管のそばで作業する人からも生じうる。』

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紙の本

紙の本心を癒す言葉の花束

2018/08/11 20:03

タイトル通りのような本

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

一九三二年ドイツ生まれで、日本に長年住む著者が選んだ言葉と、それについてのエッセイ集。
聖書からの言葉や、ドイツのことわざや哲学者や作家の言葉、著者自身の言葉まで色々。

第一章……苦しみ
第二章……光
第三章……愛
第四章……勇気
第五章……受容
第六章……死
第七章……希望
第八章……今を生きる

著者は上智大学名誉教授で、専門が死生学のため、ホスピスに関する話題などが多い。
また、著者の子供のころの戦時中の体験話もいくつかあり、印象的。
著者の人柄か、職業柄か、文章から受ける印象が、とても穏やかであたたかく、心を落ち着かせてくれる。

「心を癒す言葉の花束」というこのタイトルは、それほど大げさでもない。
本当にそんな感じで、派手な大きな花束というよりも、小さくて美しい花の数々…。


以下、本文より…。

『 苦しみは、人格的な成熟へのおおきなきっかけとなります。
 苦しみを体験することによって、以前には思いも及ばなかった
人生の複雑な側面に気づき、より豊かな人間に成長できるのです。』

『 人生には、どうしようもない困難がつきもので、私たちに選択の余地はありません。
 けれども、起きてしまった苦しみにどう対応するかは、ある程度自分で選択することができます。』

『そんな暗い体験の中、父と母から貴重なアドバイスをもらいます。
「暗闇の中でも、小さくてもいいから、光を探しなさい。」
 暗闇の世界にも必ず光はある。
すべてがつらく絶望的にしか見えないような状況でも、
何かしら希望を見出す努力をしなさい、という教えです。
 苦悩に対する、安易な解決法や特効薬などはありません。
苦しみの渦中にあるとき、たとえわずかでもその人にできることがあるとすれば、
それは、闇の中でも光を探し求め、行動に出る、ということでしょう。』

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紙の本

紙の本ドキュメント道迷い遭難

2018/06/10 17:16

道に迷ったら、沢を下るな!!!

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

道迷いから遭難に至り、何とか生還した実例が7件紹介されている。

「おかしいなと思ったら引き返せ。」
「道に迷ったら沢を下るな。尾根に上がれ。」

というのは本書にも何度も出てくるし、有名な教訓でもあるけれど、
本書に出てくる例では、山歩きの経験者であっても、様々な要因から
結果的にこの逆の行動を取り、遭難に至ってしまっている。

道が不明瞭で、木の枝に巻き付けられている赤いテープを目印にして進む、というのはよくあることだけど、
まさにその行為が原因で、道に迷い遭難に至ってしまった、という例も何例か出てくる。
つまり正規の山道ではない道に、例えば沢登りをする人たちが沢から登山道に出るまでの目印としてとか、
何の用途か分からない道にテープが巻かれていたりとかして、
登山者がその目印を頼りに進んで行くと沢に行き当たったり、もうこれ以上進めない場所に出たりする。
そして無理をして強引に下りてきたため、もう上り返せなくなっていたりする。

さらに斜面を転落したり、家屋や自動車の幻覚を見てそちらの方に進んでしまったり、
雨が降っていたり、コンタクトレンズを落としたり、滝つぼに転落して骨折したりと、様々な要因が重なる。
迷いやすい山域を歩く人ならば、遭難は誰にでも起こり得ると分かる。

逆に本書に出てくる例では、30人の高齢者グループが多少の道迷いはしていたものの、
単に下山遅れで一晩ビバークをしただけなのに、大量遭難としてメディアで大騒動になってしまったという、
「マスコミ遭難」の話も出てくる。
この例の教訓として著者は、関係者が警察に遭難として届け出るべきタイミングについての、
事前の打ち合わせの必要性を訴えている。
なぜなら、下山の時間が予定より遅れることは山登りでは日常茶飯事のことであり、また、
そのために一晩ビバークする、ということもあり得ることだからだ。

このグループが道を間違えたポイントについて本書の中で、『山と渓谷』二〇〇四年二月号で
解説されている記事が紹介されていて、

<三叉路だが、直進する山道のほうが明瞭で、左側の372mピークに登る道は枝道にしか見えない。
しかも直進する先に石仏が鎮座しているため、ますます正規コースとの印象が強まる。
道標はなく、赤テープも両方の道についているため、ほとんどの人は直進してしまうだろう>

と写真付きで書かれている。その写真では間違えやすい道のほうにはロープが張られ、
立入禁止の札がかかっていた。
このグループはここを間違えて直進し、コースはやがて沢に突き当たり、沢沿いを行くようになる。

『 ところが、沢沿いのコースはところどころで崩壊しており、それらを高巻いて越えるのに
予想外の時間がかかってしまった。結局、小一時間をかけてどうにか林道に出たときには
午後四時を回っていて、あたりも薄暗くなっていた。』
『 まず、林道に出たはいいが、この林道が清澄山に続いている林道なのかどうかの
確信が持てなかった。というのも、林道が清澄山とは逆の北の方向に向かっていたからだ。』
そして
『事故を起こさないためには危険を冒さないほうが賢明だろうと判断し』ビバークを決断した。

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紙の本

紙の本霊能動物館

2018/01/28 15:37

狼、狐、その他…を宗教、歴史、文化、民俗、そして霊能などから考察

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

力作。
著者の、幅広く深い知識と考察、
それに著者自身の実体験や伝聞、
それらが融合して、まさに著者にしか書けない書物になっている。

例えば「狐」についての章の中では、お稲荷さんと狐、それにいわゆる狐憑きの関係など、
すべてが明らかにされているわけではないけれども、整理されている。
様々な憑きものとしての動物の話も、面白かった。

内容がとても充実していて、それでいて文庫本でこの価格なので、かなりお得だと思う。
文体も読みやすかった。

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電子書籍

電子書籍怪談徒然草

2017/10/01 21:10

怖すぎる。でも語り口調なので緩和されてる。

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この本、読みたいと思っていて新刊では手に入らず、
中古本でもまあまあな値段がしていたので、
現在発行されていないのは、何か著者の考えがあってのことなのかもしれない、
と思って読んでいなかった。

急にこの電子書籍版が出たので、さっそく読んだ。
最後の『三角屋敷の話』は怖すぎるし、ヘヴィーすぎた。
この話の印象が強すぎて、他をあまり思い出せないぐらい。

この本は文体が語り口調で、内容はかなり怖いんだけど、
その現代的な語り方によって、多少、良い意味で怖さが緩和されているというか、
そこで現実世界と何とかつながっている感じがして、
その点で良かったと思う。

なぜ文体が語り口調かというと、三夜に亘って著者が体験談を中心に
怪談を語るという企画コンセプトがあり、その話を
なるべく忠実に再現したものだからということだ。

全体にわたって内容が濃く、また分量もある。
けど、文体のせいもあって読みやすい。でも怖い。

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紙の本

鋭すぎる視点。読む価値ありだと思います。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

雑誌『AERA』に2008年から6年半にわたって隔週で連載された
900字コラムを収録したもの。
連載順ではなく、テーマごとに再編集されているが、文章は当時のままのようだ。

時事問題を扱っているコラムでは、その前提となっている話題(週刊誌発行当時は
前説明なしで読者が認識していたであろう話題)を、読んでいるこちらが
よく覚えていないというようなこともあったが、
書かれている内容はもっと中長期の、ある程度普遍的なものが多いので、
読んでいて問題は感じなかったし、楽しく読むことができた。

第1講が 生き方・仕事論
第2講が メディア論
第3講が 国際関係論
第4講が 教育論
第5講が 政治・経済論
第6講が 時代論

1話につき900字なので短いが、中身が濃い。
そして、切り口が非常に鋭い。
認識を改めさせられるというか、考えさせられるというか、軽い衝撃を受けっぱなしという感じ。

この中身の濃さで文庫本。読む価値ありだと思います。

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紙の本

理論は興味深い。ビジネス書の枠を、完全に超えている良書。

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書はビジネス書として刊行されているが、その内容は明らかにジャンルを超えている。
普通ビジネス書といえば、実用向けの、深くない内容のものが多い。
また、明確な根拠を示さずに経験から得た結論を掲げる、といったことが多い。

本書はむしろ、心理学の本と言っていいだろう。著者も心理学畑の人のようだ。
内容は濃く、ビジネス書にありがちなハッタリ系ではなく、むしろ科学的な態度の記述。
実例も多く紹介されているが、非常に現実的。

また、単に読むだけではなく、読者も読みながらこの理論を実践できるように、手引きも丁寧に作られてある。
自分も免疫マップを完成させるところまではやってみたが、実際に実験を繰り返し検証してみるところからは、
実践しないで読むだけにしてしまった。
組織についても、自分の所属する組織でもしもこれを導入したら…? とは一瞬思ったが、実際には導入できない。

本書の理論は興味深く、参考になる。
ビジネス書の体裁なので読むのを躊躇してしまう人が多いと思うが、その内容は、しっかりしている本。

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