紙の本
本当の問題は移民問題なのか
2024/05/26 18:05
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投稿者:pinpoko - この投稿者のレビュー一覧を見る
北極圏に位置するアイスランドが、その最もアイスランドらしい貌を見せる真冬に、ある10歳の少年が刺殺された。彼はタイに「バックグラウンドをもつ」少年で、その家庭環境は複雑だ。この「バックグラウンドをもつ」という表現が、いわゆる移民問題に関してずいぶん及び腰の姿勢をとっているという感じを強く与える。
実際、その少年エリアスは、タイに旅行していたアイスランド男性が現地で知り合い結婚したタイ人女性スニーが、夫とともにアイスランドに移住してから生まれたハーフの子供で、その後両親は離婚し、現在は母親がタイ人の元夫との間にもうけた長男ニランと母親との3人暮らしをしている。このニランの存在を結婚当初は夫に隠していたスニー。そのこともあって夫婦仲は破局を迎え離婚にいたったらしい。しかし今は別のアイスランド男性との交際が始まり、そのほか弟であるヴィローテもアイスランドに移住し、何かと姉家族と交流をもっている。
いや、ストーリーの流れの中でこれらの事実が明かされる限りは、スラスラと頭に入ってくるのだが、この家族の複雑さは半端ではない。もし隣人にこういう背景を持つ人たちが越して来たら、余り関わりたくないかも・・・と思ってしまうに充分だ。
昨今の風潮で欧米諸国は軒並み移民問題に苦慮している。多くは経済的、あるいは本国の政情不安などの理由から、移民とも難民とも定義しづらい人々がより良い暮らしを求めて先進国に押し寄せている。最初は人道的配慮から制限を設けずこれらの人々を受け入れていた国々も、そこに割く予算が膨大となり、自国民が仕事を奪われるなど徐々に受け入れに消極的になり、イギリスなどは一定の条件を満たさない移民はアフリカのルワンダに移送する措置を採るらしい。
誰でもより良い生活を求める権利はあるものの、それが自国内で満たされないというのが根本的なところではないだろうか? 移民先の国である程度の成功を収めた人は、晩年になっても本国には帰国せず、支援する親類が亡くなった後はただ遥かな思い出の彼方に本国を追いやってしまうのだろうか? いわゆる故郷には何の感慨も抱かず、新しい国で人生を終えるのだろうか? 移住など考えたこともない人間にとっては、ただただ想像の外としかいいようがない。
今作の物語の中では、この移民問題はあくまで表面的なものに過ぎず、真実のテーマは確かな立ち位置のない人生からくる覚束なさではないかと思われる。
この意味でスニー一家はまさしく当てはまるし、ラスト近くになってやっと登場する経済的には恵まれた少年二人もそうだし、悲惨な人生を生きてきたと思しいアンドレスも十分この範疇に含まれるだろう。
結局ひとは家族でさえも踏み込めない領域というものがあって、そこに手を触れることができるのは自分自身のみ、どこまでも暗い中を自分の経験と知覚のみに頼って辿るしかないのではないか。それが生きるということなのだと思う。
得体のしれない老人ゲストゥールにたった一人で挑もうとするアンドレスの底知れない孤独と覚悟こそがこの問題のひとつの解答なのかもしれない。彼の登場シーンがとにかく印象的で、自分の考えに今最も近いものだというのが偽らざるところだ。
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シリーズ5作目は、前作とは異なり過去に遡るのではなく、現代のアイスランド社会に鋭く切り込む作品となっている。
移民に対するアイスランド人の戸惑いというテーマに真正面から取り組み、手掛かりの少ない事件にじっくり腰を据えて捜査に当たる展開はかなりのスローペース。骨太なストーリーは読み応えがあるが、一向に進まない捜査に比例して深まっていく移民問題の側面が若干ちぐはぐな感じ。ちぐはぐと言えば、娘やエーレンデュル自身の回想で語られる過去パートの絡みがメインストーリーに馴染んでおらずただ邪魔なだけ。
事件の着地にも無理があり、五作目にしてちらほら粗が目立つ気がするのが残念でもあり不安でもあり。
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シリーズ5作目も、期待通りの作品!移民問題を、根底にエーレンデュルら、いつもの登場人物達も、よりパーソナルな部分が、増して読みごたえたっぷり!!
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一人の少年がアパートの中庭で死んでいるところを発見された。彼はタイの出身で、第一発見者もまた有色の子だった。
後書きにあるようにアイスランドは移民を多く受け入れ、他のヨーロッパ諸国と同じく文化的な衝突が起きている。
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シリーズ5作目。テーマは移民問題だ。死体が見つかった。「黒髪が半分凍りついていた」。舞台はアイスランド極寒の地である。そこで移民のタイ人の少年が死んでいた。事件が進行するにしたがって移民に対する人々の感情が露わになっていくのが怖い。内省的な主人公の少し病的な雰囲気も良い。疑わしき人物を数人配して、読者の意識をかく乱させながら、一気にラストに向かって伏線回収。
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【あらすじ】
タイからアイスランドに移住してきたスニーの家族。スニーの次男であるエリアスの死体が発見された。心配したスニーは長男のニランをどこかへ隠す。
エーレンデュル達はエリアスが通っていた学校で捜査していると、アイスランド人の子供たちと移民の子供たちが対立していたことが分かった。そしてアイスランド語の教師、キャルタンも移民の子供たちを嫌っていた。
・失踪した女性
エーレンデュルが担当していた別の事件。エレンは前の夫と離婚して新しい夫と結婚したが、浮気性の夫に絶望し、投身自殺した。エーレンデュルはある女性から謎の電話があり、それはエレンからだと思い込んでいたが、自殺した女性に電話をかけた形跡が無かった。
・エリアスが殺された日
アントンとドッディは学校から盗んだナイフで車に傷を付けた。そのナイフを処分するため、アントンはハットルにナイフを渡した。ハットルと従兄弟のグスティは放課後に会う予定だった。2人は万引きが成功したことからハイな状態になっていた。そのときにたまたま前を歩いていたのがエリアスだった。ハットルとグスティはエリアスをからかっていただけだったが、エリアスが暴れたため勢いで殺してしまった。そのことを両親に報告すると、ハットルの両親とグスティの両親がお互いの子供に責任を押し付けた。エーレンデュルに電話をかけていたのは罪悪感で押し潰されそうになっていたグスティの母親だった。
移民の子供が殺されたことで、初めは移民に反対する人の犯行かと思われたが実際は違った。「外国のバックグラウンドを持つ子供」は現代のアイスランドでもセンシティブな問題とされている。
【感想】
エーレンデュルシリーズ5作目。1〜4作と比べると陰鬱さが薄れたように思う。マリオンの性別については男性だと思っていたので意外であった。
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邦訳5作。今作もアイスランドの寒さがあり、人の心にある暗さ、重さが描かれている。移民を受け入れることへの反発、本音と建前の対立。差別があり偏見がある。そんななか殺害された少年。エーレンデュルたち警察の捜査はなかなか進まず、次第に町の人たちの感情、抱えているものが見えてくる。外国人を受け入れるということは日本も他人事じゃないというのがよくわかる。人種間にある壁、さまざまな問題とともに進む。派手なシーンがあるわけではないけれど人の奥深くにあるものを映し出しているようなそんな物語。
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被害者が10歳の男の子で…と、最初から辛いのですが、どんどん辛くなるのでどんどん読める。アイスランドにおける移民のことなど、知ることがたくさん。
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エーレンデュルシリーズ5作目。
相変わらず、少し暗い雰囲気の中、物語が進行していく。
ミステリーとして謎がすごいわけではないが、何となく読み進めてしまう。
ただ、今回は初めから人種問題への持って行き方がちょっと強引な印象。結局人種問題は事件にはあまり関わりなかったし。
次作に期待。
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アイスランドを舞台にした警察シリーズの第5弾。エーレンデュルを始めエリンボルクなどのプライベートな悩みや痛みを家族みたいに共有しながら読み進めた。どこにでもあるだろう移民問題とそれを取り巻く根強い差別意識が捜査を撹乱させる。毎回主人公の少年時代に囚われた強い想いに「もう、前を向こうよ」と叱咤しつつも、主要人物三者三様の深い描き方にシリーズが出る度に読んでしまう。ミステリーとしては私には物足りない。
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あらゆる失踪事件に関心を持つエーレンデュルが女性の失踪事件を追うのは当然だけど、ミステリとして、それがミスリードの役割を果たしていたのか。
アイスランドって何代か遡るとみんな親類というのを聞いたことがあるけど、移民を嫌う人はそういうのが崩れるのが嫌なのかな。血統主義みたいな。
エリンボルクの歌にエーレンデュルがイラつくけど、エーレンデュル自身思わず口遊むのに笑った。
アンドレスの義父は次作以降登場するのか。
アイスランド駐在の米軍兵はフェンスの中で暮らしているのか。アイスランドに米軍基地があるのも知らなかったが。日本でも特に沖縄では、米兵はフェンスの内に囲われるといいのに。
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アイスランド・レイキャビク警察の犯罪捜査官・エーレンデュルが事件の真相を解き明かしていくシリーズ第五作。
これまでは死体が発見されたことによって過去の事件(十数年前~数十年前)を掘り起こすという体裁が多かったが、今回はたった今起きたばかりの事件を扱う。
しかも被害者はアイスランド人の父とタイ人の母の間に生まれた10歳の少年。いわゆる移民の子だ。
そのため、最初は移民に抵抗のある人間の仕業なのかとも考えられたが、少年の周囲を調べると様々なことが分かってくる。
アイスランドのような厳寒の町にも移民の波はやって来ていた。訳者あとがきによると、アイスランドは他のヨーロッパ諸国同様、早い段階で移民を受け入れていたようだ。
だがスウェーデンを舞台にしたヘニング・マンケルの作品やデンマークを舞台にした特捜部Qでも触れられているように、移民が手放しで迎えられるということはない。
アイスランドでも激しく抵抗感を持つ人間もいれば友好的な人間もいる。
どちらが良い悪いではなく、互いに歩み寄る努力を見せない限りこの問題は解決しないだろう。
ただ新しくやって来て、そこで生きることを決めた人間はやはりその土地に馴染む努力をした方が良いだろうとは思う。その中でその土地の人々も新しい住民を受け入れる気持ちになるのではないだろうか。
このシリーズは特に派手なアクションシーンがあるわけではなく、エーレンデュルと同僚たちとの軽快な会話があるわけでもない。
エーレンデュルを始め同僚たちにもそれぞれプライベートに問題を抱えているし、アイスランドの暗く寒い雰囲気と相まってずっと鬱々としている。
それでもついつい読みふけってしまうのは作家さんと訳者さんの上手さなんだろうなと思う。
舞台がヨーロッパだけに警察の聴取は実に穏やかだし無理をしない。そこに付け込んで事件関係者たちは皆何かを隠している。子供から大人、老人に至るまで皆が嘘を吐いていたり何かを隠したりしているのだから堪らない。被害者の家族も残らずだ。それでいて警察に事件解決を迫るのだからエーレンデュルら警察官のストレスはどんなものだろうと読者ながら同情するし、こちらもストレスが溜まる。
移民問題なのか、児童生愛者による犯罪なのか、それとも少年たちの中のトラブルなのか、家族間の問題なのか。次々と要因が浮上しては消えていく。
更に同時進行で女性の失踪事件も抱えているし、エーレンデュルの過去の傷である弟の行方不明事件も引き摺っているし、子どもたちとの関係もあるし、元上司マリオンがいよいよ最後の時を迎えるというシーンもあるし、盛りだくさんだ。
ちょっと詰め込み過ぎかなとは思うが、最後はなんとも虚しい。
大人や親に振り回される子どもたちが可愛そうだし、その逆もあるし、気ままに周囲を振り回したり傷つけたりしておいてなんとも感じない人間も腹立たしいし、何だかなという感じ。
エーレンデュルが日々鬱屈としているのも分かるし、プライベートくらい仕事のことを忘れたいという気持ちも分かる。
とにかくストレスに押しつぶされずにいてほしいと���うばかりだ。
このシリーズは名前だけでは男女が分からない。
エーレンデュル=女性っぽいと思ったらおじさんだったし、エリンボルク=男性っぽいと思ったらママさん刑事だったし、シグルデュル=オーリという男性刑事がいれば、シグリデュルという老婦人もいる。
訳者あとがきでびっくり。エーレンデュルの元上司・マリオン・ブリームって一体…。
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アイスランドを舞台にした小説は少ない。アイスランドは北海道に毛が生えたくらいの国土で、北極に近く、それゆえ人口が30万と旭川市の人口ほどしかない。レイキャビクに多くの人口が集中しているのも北海道と同じ現象か。札幌が200万に手が届くほどの大都市であることを思えば、アイスランドが如何に小さな国かがわかろうかと思う。
今年はラグナル・ヨナソンのアリ=ソウルのシリーズにも魅力を感じたがそちらは同じアイスランド小説でも北極海に面したシグルフィヨルズルという港町、インドリダソンの本シリーズは、アイスランド一の街レイキャビクが舞台であるから、雰囲気はだいぶ違う。
タイトルの通り冬は厳寒で、殺人事件の件数もさして多くないのに、二人も警察小説の書き手がいること自体奇跡に近い。インドリダソンという作家は、過去に現在に材を取り、この国の直面する現実を、ミステリーという世界に最も伝わりやすい表現で極東のぼくのもとにまで語り伝えてくれる。ガラスの鍵賞、ゴールド・ダガー賞、マルティン・ベック賞といくつものミステリ賞を獲得してきたことが本シリーズの世界進出の力になっている故だろう。
今回はアイスランドの採った移民政策とそれに纏わる住民間の軋轢、根強く残る差別といったところに作家の眼は向けられる。雪の上で刺殺された被害者は、タイとの混血少年。教育の場にも強く根を張るヘイト殺人なのか、はたまた移民家族の複雑な家庭環境が呼び起こした悲劇なのか。
エーレンデュル警部とその有能な配下であるエリンボルク、シグルデュル=オーリという三人の捜査官が、事件を追う。関係者への聴取場面が多く、そこにいくつもの疑念の根が張られてゆく。真相に近づくというよりも、より複雑な迷路へと迷い込んでゆく彼らの心境を通して、複雑な人間模様やそこに巻き起こる悲喜劇が描かれてゆく様相は、このシリーズの特色であり、それらが丁寧に描かれる繊細な筆致ことが作風の魅力だと言える。
エーレンデュル捜査官の私生活の面も常にどの作品にも付き纏う。別居する娘と息子が作品群の背景で常に成長や遠回りを繰り返し、父との葛藤を繰り返しては、遠からず近からず生活の中に滑り込んでくる。そして決して逃れることのできぬ謎めいた弟の事件、あるいは事故。吹雪の中で手を放したゆえに二度と見つかることのなかった幼き弟への罪悪感は本作でもまたエーレンデュルの心を苦しめる。雪が解けても見つかることのなかった弟の遺体。その謎は永遠に引きずりながらエーレンデュルの人生に影を落とし続ける。
そして何本かかかってくる謎の女性からの無言の電話が、本作では印象的である。まるで作品の途中途中に刺し込まれる鋭利なナイフの刃先のように。
アイスランドの直面する問題に敢えて向かい合うような事件を提供する作品シリーズでありながら、一方でエーレンデュルの生活の陰影の部分を事件以上に追跡してゆく点も、本シリーズの読みどころである。彼の心の動き。彼の動揺。そして彼の誤解。等々。
そして同僚たちとの距離感。共存するには疑わしい影ばかりの目立つ国や社会への不安感。それらを常に見据えながら、物語とい��主旋律を奏でてゆく作家の腕の冴えこそが、常に確かな読みごたえ、重厚な作品価値を産み出して続ける。地味ながらも信頼に値する良品シリーズと言ってよいだろう。
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シリーズ第5作
今回は社会問題として移民を取り上げている
面白い
そんなに複雑でなくシンプルな感じはする。
ラストは少々物足りなくと感じてしまった。
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アイスランドにおける移民問題を扱った1作。
失礼ながら、アイスランドに東南アジアなどからの多くの移民がいるということを知らなかった。日本でも東北など寒い地域は特に、家にいる時間が長いためによそ者に対して閉鎖的というイメージがあり、アイスランドのような寒くて暗そうであまり豊かそうとも思えない国にも大勢の移民がいるということにまずびっくりしてしまった。
アイスランドというのは私にとってはとっても遠くて、人々の日常生活や性質など想像もできないような国だけれど、その国を舞台にした、その国の人が書いた本を読むことで、少しでも知ることができるというのが、翻訳小説を読む醍醐味だなと改めて思った。
訳者さんの後書きも興味深かった。