「honto 本の通販ストア」サービス終了及び外部通販ストア連携開始のお知らせ
詳細はこちらをご確認ください。
このセットに含まれる商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
商品説明
僕らが生まれ落ちた世界を考えてごらん、こんな素晴らしい世界はないのよ−。語りの名手・渡辺京二が、次の世代に伝えておきたいことをまとめる。1970年10月〜12月の日記も収録する。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
渡辺 京二
- 略歴
- 〈渡辺京二〉1930年京都市生まれ。日本近代史家。「北一輝」で毎日出版文化賞、「黒船前夜」で大佛次郎賞、「バテレンの世紀」で読売文学賞を受賞。
あわせて読みたい本
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
紙の本
書生を自認する人の言葉から気づかされる
2022/02/28 20:32
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、渡辺京二氏の「肩書のない人生」「寄る辺なき時代を生きる」「あなたにとって文学とは何か」「道子の原郷」という4つの講演録、「コロナと人間」というインタビュー、「日記抄」で構成されている。特に、「日記抄」は昭和45年(1970)10月から12月のものだが、ここには三島由紀夫の自決について著者の正直な感想が述べられている。これは時代を表象する意識として実に貴重な箇所だ。
とはいえ、今回、本書を手にしたのは、著者が2021年(令和3)から熊本日日新聞に連載予定の「小さきものの近代」という維新に関する予告を知ったからだ。事前に著者の考えを読んでおかなければ、その方向性がわからない。この連載は、明治維新に至る過程での「地べた」に生きた人々を取り上げているという。新たな明治維新、近代というものを知る喜びがある。従来の、明治維新は無名の下級武士の青年たちが新国家を成したと伝えられる。しかし、果たして、それは新日本の庶民にとって幸せだったのかという問いかけである。明治維新を一つの革命であるとするならば、革命の後には庶民が幸福でなければならない。そのことを著者は問題にしているという。実に興味深い。
本書に納められている講演録、インタビューの中で、やはり「コロナと人間」というインタビュー記録は現実の問題として、考えさせられる。近代化によって人権尊重の時代を迎えた日本において、思いもつかない著者の答えに「信じられない!」という声が起きるだろう。コロナの出現は自然界における生物間の淘汰であって、人間の死も自然界の死と同じ。ゆえに、無駄な抵抗を試みようが、増えすぎたものは数量調整を図るからという。しかし、読み進めば、著者がコロナという感染症よりも怖い結核の闘病を体験しているだけに、その言葉からは不動の信念を感じる。
だらだらと、著者の頭を濾過して落ちて来た言葉の数々の中に、はたと膝を打つ言葉を汲み上げる。「庶民の知恵が無いのが現代」など、その最たるもの。世間の妬みを意図的に買うように仕向けているのがインターネットのSNSという。まさしく、正鵠を射ている。生活保護を受けている者が、実は、日常生活において王侯貴族の生活を送っていることに気づいていないと。ゆえに、日本社会全体が行けど果てない経済成長のジレンマに陥る。「まさしく」と気づかされる。さらに、本書を読み進む事で、著者が、何を読んできたのかという事に関心が向く。誰の、何に、影響を受けたのか、など興味はつきない。
インターネットも含めたマスコミが垂れ流す情報に左右されることなく、自身の頭で考える。著者はそう訴える。講演録が主体なだけに、軽く一読できる。しかし、その文字起こしされた行間から滲み出る事々は多い。考えることも多い。
ちなみに、若き日の著者を嫌った村上一郎は、三島の決起、自決を予言していた。三島の死後、追い腹を切った村上の自裁を渡辺京二氏はどのように評するのか。知りたいと思った。