紙の本
グローバル化への疑い
2023/07/03 08:32
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投稿者:figaro - この投稿者のレビュー一覧を見る
人間は言葉というものを介して抽象概念を伝えることができる。これは大変素晴らしいことだ。最近ならば「英語」がその筆頭格なのだろう。便利であることには間違いないが、少数言語はより振り出し、どんどんと絶滅していくことになる。
ムラブリには時制の概念がない。逆に言うと私たちには時制について厳密に定まっており自由度がない、とも言える。
著者は大学にて研究者として活躍していたが、結果的には「自由」を選んだ。それは著者がムラブリ化した、ということもできる。
便利になったが故の不自由さを招いた現代社会をムラブリから考える著者の視点は、一考に値する。
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ただの「偶然」だろうが、「いま」わたしが読みたいような本ではなかった。著者はおそらく、運の良さを自覚してはいらっしゃるけれど、ほんとうの意味で「不運ではない」状態には、なってはおられないのだろう(それを言ってしまえばわたし自身、まったく「不運ではない」わけではないけれども)。著者は男性で、奨学金を受けながらも大学に行ける家庭に生まれ、日常生活でなにかしらの襲撃に遭う危険を「現在も」考えずに済んでいる。襲撃という大袈裟なと思われるかもしれないが、日本でも技能実習生や「女性」になにが起きているか考えれば、こんな文章は書けないだろうと思う。
まあつまるところ、言ってしまえば、「カラム ドゥ モイ」なのかもしれない。
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ムラは「人」、ブリは「森」。だから、ムラブリは「森の人」という意味になる(中略)
狩猟採集民だ。服はふんどし。(「はじめに」より)
「負の走“嫌”性」には(私もコレだ!)と共感することばかりで、最初からトップスピードでおもしろいのだけど、「服はふんどし」が伏線回収されるくだりでは、さまざまな常識に囚われてるのは私達なのかも?と大笑いしながらもハッとさせられた。映画も楽しみ。
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言語学のフィールドワークのことがよくわかるよい本だが、それよりも何よりも、その上での本書(著者)の着地点に度肝を抜かれた。すごいな、この人。
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ムラブリ語を研究対象にしていたはずが、言語を獲得するうちに、ムラブリの身体性を生きるようになる。言語学とは関係ないと思っていた武術家の先生の本に共鳴し、講座に通い、稽古する。言語は型である。しまいには探検家・冒険家の様ですが、なるほど、こういう展開になるのだと納得する道のりでした。
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少数民族「森の人」ムラブリとの出会い。
その美しい言葉に惚れて言語学者となった半生と、
彼らとの関わり、そして大いなる影響を語る。
・本書に登場するムラブリの主な居住地
・ムラブリ語の頻出表現リスト
第1章 就活から逃走した学生、「森の人」に出会う
第2章 駆け出し言語学者、「森の人」と家族になる
第3章 ムラブリ語の世界
第4章 ムラブリの生き方
第5章 映画がつなぐムラブリ、言語がつなぐ人間
第6章 ムラブリの身体性を持った日本人
コラム①~⑤、参考文献有り。
タイやラオスの山岳地帯で暮らす「森の人」ムラブリ。
少数民族であり、消滅の危機にある「危機言語」の
文字が無いムラブリ語を話す、遊動生活をする狩猟採集民。
就活から逃げ大学院へ。TV番組で知ったムラブリの美しい
言葉に惚れて、フィールド言語学で調査したくなった。
様々な出会いと縁により、ムラブリの人の村々を訪ね、
言語を覚え、記録してゆく。
それはムラブリたちとの交流となり、擬制家族ともなり、
その生活にどっぷりハマりこむ。
タイやラオスにか細く点在する村を巡り方言の調査、
離れた村の住民同士を引き合わせたり、記録映画にも関わる。
いつしか身体までもムラブリ化してしまう。そして現在へ。
「森の人」ムラブリだけの話かと思ってたら、
著者の半生や言語学に関する話もたっぷりでした。
いや言語学って難しいなと知れたのも、大事。
その言語学の学者なんだなぁと再認識してしまうことも多々。
良かったのは、ムラブリ人たちとの交流の場面。
他愛ない会話が、ゆったりとした時間の中の自由さを
体現しているように感じられました。
自分における自由って何だろうと、再考してしまう。難しいけど。
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ゆる言語学ラジオで伊藤先生の動画を見てこの本を手に取りました。
狩猟採集民の生活は、私たち日本人にはなかなかイメージしづらいものですが、ムラブリ語を通して垣間見えたような気がします。
ムラブリが「自由」を求めてこの生活スタイルに定着し、伊藤先生自身、ムラブリの体現として生きようということで、ムラブリの生活スタイルが自分に合っていて、それを欲している現代人も多くいるはずだ、という論旨で書かれていらっしゃることは重々承知ですが、私個人的にはその中に寂しさ、儚さを感じてしまいました。
言葉を通じて自分の生き方についても考えさせられる良い本でした。
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ゆる言語学ラジオで興味があったコチラ、先日図書館の新刊コーナーでたまたま見つけて手に取った。
「ピダハン」やら、最近読んだ「銃 病原菌 鉄」からも強く感じていたけれど、
言語の話は面白い。
狩猟採集民の話も面白い。
昨年まで全然興味なかったけど、
フィールドワークってのがまた面白い。
確かにこの分野はハマるとかなり深い沼だろう。(ゾミアも読んでみたい)
こちらの作品、
サブタイトルにもあるように、
文字も暦ももたない狩猟採集民であるムラブリとの関わりで得た言語学者である筆者の変遷を、
学部生時代から遡り現地でのフィールドワークを軸にして描かれている。
第一章の学部生時代にはじめて訪れたムラブリの村での失敗談から、
最終章、作者自身がムラブリの身体性を獲得して自由に生きることの意味を見出すところまで、するする進むのに、
内容は全章みっちり詰まっていて読み応えがあった。
とりあえずは作者のムラブリ語、ひいてはムラブリの人々への敬愛がすごい。
そして言語学者だからなのかどうかわからないけれど、文章がすこぶる上手い。
かなり専門的な分野だし、複雑に混み行った状況であったりする場面もシンプルにわかりやすく、しかも面白く書かれていて、ストレスフリーで読める。
ゆる言語学ラジオでの補足はあったけど、今まで読んだ言語を扱っている本の中でもダントツに読みやすかった。
わたしの中に無意識にあった狩猟採集民のイメージも、ここ何ヶ月かの読書やPodcastなんかのおかげでずいぶん変化していたけど、こちらの本でもその変化がより補強された感じ。
かと言え、自分は狩猟採集民の生活を選ばないし、そもそも選べないとも思う。
作者のたどり着いた「自由」に、
まあそんな考えや感じ方もあるのだろうと理解はできるが、自分事としては考えうる不便さを脇に置いて手に入れたいとはまったく思わない。
現代日本での適応力が人並みにはあるので、その部分はある意味で恵まれているのかな。
しかし新しく言語を身につけることで、新しい身体性を獲得するという部分については凄くやってみたい。
面倒くさがりで怠け者なので、自分が今さら新しい語学を身につけるイメージは全然できないけど、(やるとしたら英語の学び直しくらいだろう)
複数の言葉を話せる人について(その努力を棚に上げて)より羨ましいと思うようになった。
それにしてもムラブリ語。
少し聞いてみたけど、響きが本当に綺麗だな。
作者の敬愛やまない表現に引っ張られてる感も否めないけど、確かに消えていくのはもったいない言語だと思った。
本棚制限があるから迷ってたけど、
やっぱりコレはそのうち購入しよう。
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タイに住む狩猟採集民ムラブリの言語について研究した著者がその研究過程や村で自分が感じたことをまとめた書籍。相当頑張られて研究されたと思うが、この時点でどのような表現を用いたとしても(ムラブリとして研究すると著者は言われる)、タイに在住するムラブリの方に関する研究を辞めるのなら最初からそっとしてあげたら良いのでは、と思った。タイのムラブリに触れて自分の方向性を見つけていくのもその人にとっては有意義なことだけど、生きている場所が異なるだけで生態や言語の研究対象とされるのはこちら側のエゴかなと思う。
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『森の人』を意味するムラブリは、タイの山岳地帯に住む少数民族だ。文字を持たない彼らの言語を研究する著者の行動記録だ。
ムラブリに対しては興味深く、また著者の青春記として面白く読んでいたが、最終章で詰まらんものを読んでしまった感に襲われる。彼の通った学校も、診察を受けた病院も、捨てたごみの処理も、し尿の処理もほとんどのインフラ設備は税金を基にしているのになぁ。彼の思うように生きれば良いんだが、こんな形で声高にムラブリ研究の結果として言われてもなぁ。
残念感満々の読後感だった。
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文句なしに 面白い!
文字がないからこそ
豊饒な暮らしの文化が
見えてくる
文化人類学を専攻しておられる
何人もの研究者の方から
よく聞かされる言葉のひとつ
文字をもってしまったから
豊かになったモノ
文字を持たなかったから
豊かさが保たれたモノ
どちらが 良い悪いではなく
いろいろ 考えさせられました
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亜熱帯の狩猟採集民は、文字や暦の観念が希薄。それと比較して、農耕民族の言語における感情表現の多様性は同調圧力の強さの現れ。
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ゆる言語学ラジオが紹介していた『ムラブリ』をようやく読むことができた。図書館で予約してから何ヵ月待ったことか。
期待以上に面白く、あっという間に読み終わってしまった。読み物としても素晴らしい!
私は外国語学習への興味と言う観点から読み始めたのだけれど、ピダハンを読んだ時もそうだったが、言葉以上にムラブリと言う人々のことを見ることが、筆者にとって言語学習や研究には重要になってきている。
文字も暦もない民族の言葉をイチから研究してものにしていくのが、カッコいい。
私はテキストもYouTubeも何でもかんでも学習材料がどっさりある言語を勉強しているのに、長続きせずに、全然モノにできないなぁ。
その言語を使う人々に、歴史に興味を持ってないからなのかもね。
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ゆる言語学ラジオで取り上げられていて知って手に取った本。
世界は広い。当たり前のことのようでなかなか日々の生活では実感しづらいこと。本は、そんな普遍的な事実を手っ取り早く咀嚼させてくれるツールとして最適だ。
この本は正に、“世界は広い”という何の新鮮味もない当たり前の事実を改めて腑に落ちさせてくれた。
文字も暦も持たない(ちなみに世界中の言語のうち約4割は文字を持たないらしい!)狩猟採集民の言語。言語には文化や価値観が現れることはこないだ読んだ「言語が違えば、世界も違って見えるわけ」にも書いてあった。こんなにも、狩猟採集民の言語は我々から見て特殊なのか。と同時に、彼らから見た我々の言語もとても特殊に映るんだろうな、と思うと興味深い。
特に印象的だったのは、ムラブリ語では「上は悪く、下は良い」らしい。これは世界のマジョリティの言語とは真逆のものの見方だ。心が動くことは良くないこと、平穏な状態が是であること、という見方が根底にあるらしい。狩猟採集民であることが関係しているのだろう、と筆者は述べている。また、年齢や数を数えることが重要でないというのも非常に新鮮だ。「今、ここ」を大事にする狩猟採集民だからこそ、抽象的な概念の必要性が薄いのだろう。幾何学的でない、有機的な世界。
この著者の書く文章は、淡々としているけど熱がある。静かなドラマチック。言語学の面白さ、言語学的な観点からのムラブリ語の面白さを素人にもとてもわかりやすく教えてくれる。
そして最も印象的だったのは、定住生活を始めたムラブリの中には自殺者も増えた、というエピソード。計画性が求められるようになり、「今、ここ」以外の未来や過去を考えるようになったせいだろうか。色々と考えさせられるエピソードだった。
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言語学者からの言語に関しての視点だけではない、もっと幅ひろい視点での考察が刺激的。
人の行動には何かしらの理由を求められることが社会ではしばしばあると私は感じている。その度に、えっとそれは…って理由を考えることがあるけど、人間の行動は、何かしら考えた上で実施しているのではなく、脳の無意識の深層の範囲で判断されたことが多く、意識下で判断していることは実はそう多くない。そして、何でそういう行動を取ったのかというと、それについてあとから意味づけされている、ということはよく言われている。
筆者も学生時代は失礼ながら、気の赴くままの判断で日々を過ごしていたようにもみえた。でもそこからの学者としてのスタンスがだんだんと形成されていく成長過程を、さらけ出して本にかけているところに物書きとしての才能を感じてしまう。
もともと突き詰めて考えることが筆者の性分からか、学者としての職も手放し、より研究に没頭できる立場を本執筆時期には選択している。このあたりの行動の早さも今後の展開に大いに期待してしまう。
ちなみに私はこの本を知ったきっかけは、筆者自身がとあるゆる言語系のユーチューブチャネルで対談されているのをみて興味を持った。まだ見ていない方は是非視聴頂きたい。