紙の本
設定の嵐
2023/10/05 21:19
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ブラウン - この投稿者のレビュー一覧を見る
科学的設定の妙に尽きる。発展も、デフォルメも、衰退も、信仰との融合も自由自在。設定を肉付けする物語はどれも一抹の寂寥を感じさせながら、人への愛に満ちている。間違え、衰え、信じたものに裏切られながら生きていく人々の姿が印象的な短編集だ。
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#読書記録 2023.8
#息吹
#テッド・チャン
宇宙船やタイムリープが飛び交ういわゆるSFでなく、現在と地続きのちょっと未来、本当にこんなことあるかも、という物語。
ペット型AIの成長との関わりや、人生全てを動画でライフログ化が可能になった時代の話等が印象に残る。
そうかと思えば量子論の分岐世界と交信できる機器が発明された世界の話で脳をフル回転させられたり。いずれの物語も、そのとき人が取る行動が中核にあって、考えさせられるものばかりだった。
今存在するテクノロジーが進歩してこうなったら、貴方はどうする?と突きつけられる。リアルに想像できる近未来なので、その岐路に立つ自分を容易に想像できて、倫理観や情緒を揺さぶられるよ。
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三年前に刊行されたときに評判になって、手にとって見てすぐにテッド・チャンの世界の虜になり、SFという分野の食わず嫌いに気がついたきっかけの本が文庫になったのでさっそく入手。「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」がいちばん好きで、他も何度でも読み返したい作品ばかりなのでありがたい。
ちょうどChatGPTなどの生成AIの話題が旬なので、機械にできることと人間にしかできないことの違いはなんぞ?と改めて考えながら読みたい。
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総評として、テーマが現代的かつ倫理をテーマとした話が多かった。そして最終的に「道徳的に正しい」決着をする話が多い。そういう意味においてはSFを読まない人でも安心して読み進められると思う。しかし、それ故に射程が短く思いもよらない場所に連れて行ってくれるパワーが不足していると思った。
以下各話を100点満点でレビューする。
「商人と錬金術師の門」(60点)
仕掛けが多い割りに話が単調。
「息吹」(70点)
設定は面白いけどストーリーがない。
「予期される未来」(30点)
そうだね、としか言い様がない……。
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」(65点)
やたらページが多いが、オチが微妙。倫理についても踏み込みが甘い。
「デイシー式全自動ナニー」(65点)
ドラえもんとか読んできた身としてはそもそも機械が人間を育てることに否定的な立場ではないので、コンセプトを面白いと思えない。
「偽りのない事実、偽りのない気持ち」(95点)
これはめちゃくちゃ面白い! 人間個人の人生が全て記録されたらどうなる? というアイデアを基に二つの物語が交互に語られ、テーマとしっかり結びついたオチに繋がる。
「大いなる沈黙」(85点)
オウムの一人称で語られる味のある掌編。着眼点が良い。
「オムファロス」(70点)
既定路線でしかない。異世界を導入することによって異化されるものがない。
「不安は自由のめまい」(90点)
もし自分が別の選択を取ったら……というIFはありがちなアイデアだが、パラレルワールドとコンタクトできる装置を売る仕事や、その装置の中毒になった人をカウンセリングする仕事など、上乗せされるアイデアが面白い。紋切り型の「過去を振り返るな今を生きろ」にもなっていないし、深みのある物語になっている。
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短編集「あなたの人生の物語」を大いに楽しめたものからすると、この第二短編集には期待値爆上げ。ただ、寡作の作家だし、これを読み終わったらテッド・チャンの新たな作品は読めないんだなと思うと、読みたいけどなんだかもったいない、後にとっておきたい、という貧乏性の気質がムクムクと顔を出し、ついに単行本は手に取らず。が、たまたま本屋で文庫版を発見し、思わず購入。だいたい期待値が高いと、肩透かしを食うことが多いのですが…読んだタイミングも良かったのかな、めちゃくちゃ楽しめました。
全9篇。うち既読は「商人と錬金術師の門」「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」「息吹」の3篇。前の2篇は初読も再読もすーごい面白かったのですが、「息吹」だけは初読でヒットせず。再読となった今回は「あれ、めちゃくちゃ面白くないか?」と評価を改めることに。
残り6篇のうち、「偽りのない事実、偽りのない気持ち」「不安は自由のめまい」は設定からユニークで、思索に耽ることができました。特に後者は個人的にめっちゃヒット。
◉商人と錬金術師の門
「この世にはもとに戻せないものが4つある。口から出た言葉、放たれた矢、過ぎた人生、失った機会だ」
この作品に限らず、著者の作品からは「過去は変えられない」「運命は決まっている」という強い主張を感じます。が、それはそれとして、じゃあ何をしても無駄なのか、というと決してそうではない。その問いに対するひとつの回答を本作は示してくれているような気がします。
◉ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル
初読の時は物語として面白かった覚えがあるのですが、子育てをして、我が子の成長を日に日に感じるようになった今回は感じ方が違いました。なんだか登場人物の言動を自分ごととして捉えるように…。物語は尻切れに終わっている感があるのかもしれませんが、私はこれで良いと思います。アナとデレクの関係も含め、これでいい。
◉息吹
たぶんどちらも人類が登場しないからだと思いますが、読了後真っ先に頭に浮かんだ作品は、ティプトリーの「愛はさだめ、さだめは死」。
物理法則上、種族の滅亡が証明されてしまう物語。種の滅亡が物理法則で証明されるという設定もさることながら(ここでも運命の残酷さを感じます)、作中、主人公らが利用する貯蔵槽がかつては彼らと同じような世界だったのでは?と思ったことから、彼らの世界に対するものすごい皮肉を感じたのですが、これは正しい読み方だったのかな。いずれにせよ、読後、じっくりと心に染み渡ってくる作品でした。
◉偽りのない事実、偽りのない気持ち
高度なテクノロジーが完全な記憶を提供する未来社会。記憶を忘却したり、都合よく改変することで過去の自分と折り合いをつけている人間にとって、その未来社会はどのような影響を与えるのか。個人的にはオチがちょっと微妙でしたが、素敵な言い回しも多く、印象に残っている作品。
「最初は憤怒していた侮辱が、過去を映すバックミラーの中で、だんだん赦せるものに見えてくる。」
◉不安は自由のめまい
多世界解釈。分岐した世界の自分と交信できるプリズムなる装置が開発された社会。あの時あの選択をしなかったら、今頃私はどうなっているのだろう…分岐した世界の自分を知ることはとても興味深いことでしょう。だけども、その結果心に残るものは安心?それとも妬みや嫉み?結局自分の人生は変えられない現実が待ち構えている。
どんなガジェットが開発されたとしても結局扱う個人の良心次第、といった感じか?個人的に本書で一番よかった。オチがとても綺麗。いいですね。私はこういう後味のよい作品が大好きなのです。
うーん、「あなたの人生の物語」を再読してみよう。新たな発見がありそうだ。
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『あなたの人生の物語』のテッド・チャンによる 17年ぶりの短編集。映画化もされた世界的な有名作家なのに専業ではなくものすごい寡作ぶりで、そのぶん一編一編が奥深く、消化するのに時間もエネルギーもかかる。
収録は全 9本、ネビュラ賞やヒューゴー賞など名だたる賞を獲得した珠玉の作品ぞろい。
この人の頭の中はどうなってるんだと思うようなぶっ飛んだ設定の上で、さらに話が想像もつかない方向に発展していくので、一度読んだだけではなかなか理解が難しい。
毛色の違う作品ばかりだが、「避けられない運命、受け入れ難い真実を知ったとき人はどうするか」というテーマは一貫している。
「息吹」
舞台が地球でもなく主人公が人間でもない幻想的な世界の中で、自己の存在と世界の真実について、文字通り身を切りながら考察する彼。「息吹」というタイトルからは息こそが生命そのものというギリシア哲学のプシュケーを連想させる。
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」
技術書かと思わせるようなタイトルで、本書中もっとも長い150ページ超の中篇。求職中の元飼育係に持ちかけられた仕事は、仮想ペットの訓練。ゲームは一時ブームになるもあえなくサービス終了、だが彼女はその後も私的に自分のペットの育成を続ける。
「偽りのない事実、偽りのない気持ち」
網膜プロジェクターを埋め込んでライフログを録ることが一般的になった世界。曖昧で主観的だった人の記憶が、デジタルデータで厳密に検証されるようになると何が起こるか。口伝社会だったアフリカの部族にヨーロッパ人が紙と文字を持ち込んだ逸話が交錯して語られる。
「オムファロス」
約8千年前にこの世が創造されたという証拠が存在する世界で、それでもこの宇宙は人間のために作られたものではないという天文学における発見が人々の信仰を揺さぶる。
「不安は自由のめまい」
分岐した並行世界と限定的に交信することができる装置「プリズム」が発明された。死んだ子の歳を数えるがごとくのめり込む人々と、それにつけ込んで金儲けをする人々が織りなす人間模様。
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『商人と錬金術師の門』『息吹』『偽りのない事実、偽りのない気持ち』が良かった。
SF的なテクノロジーが人に与える影響がリアル。
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錬金術の話は心に響いた。
パラレルワールドと交信できる話も、面白い。
積み重ねが未来の自分を作り出す。
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科学・思想の理論に対する幅広い見識基づいたハードSFでありながらも、詩的で精緻な文学表現がよかった。
『息吹』、『偽りのない事実、偽りのない気持ち』、『オムファロス』が好みだった。
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オムファロス
科学者であることとキリスト教徒であることは両立するのかずっと疑問だった。これはこういう世界だったら…の話だけど、現代の科学者はどう折り合いをつけているのだろう?
不安は自由のめまい
クリストファー・ノーランの映画になりそうな設定。選択をした時点でもう一方とは違う自分。その選択が次の選択に影響を与える。
ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル
ディジェントの流行とブーム終了。プラットフォームの廃止で動かせる場所が無くなるとか、ありそーな展開。
が、我が子のようにディジエントに感情移入するアナには全く共感出来ない。
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読むのにほんとうに頭を使った。
集中力が途切れると、「バンド・オブ・ザ・ナイト」を読んでいるような、意味の繋がらない散文のように見えてしまうから、気力が要った。
しかし、面白かった。架空でありながらいつか実現しそうなシステムの数々、それが人のいざこざに上手く絡み合っており、面白かった。
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書店で目立つ場所に置いてあり深く考えずに購入しました。恥ずかしながらテッド・チャンのことをよく知らず本書で初めて読みましたが、とても満足しています。
本書は9つの短編が盛り込まれていますが、それぞれがとてもユニークで粘着性があり、ストーリーやそこから浮かび上がる情景を当分忘れないだろうなと感じました。クライマックス感やラストの驚きなどはないかもしれませんが、まるでカズオ・イシグロ作品のような静かな深い感動を与えてくれる作品とも思いました。さらに言えば、SF作品というよりは未来社会の課題や機会を純文学作家がSF調で書きました、というような印象すら持ちました。時間や空間、自由意思などを哲学的に扱う点は、ミヒャエル・エンデ作品をほうふつさせます。ただエンデ作品よりはだいぶリアリティ度が高いですね。AIや量子コンピュータなどの進化によって近未来に実現していそうなストーリーが描かれています。
本書のタイトルになっている「息吹」という作品も非常に面白かったですが、私が個人的に最も興味を持ったのは「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」です。これは長編とでもいえるような分量なのですが、AIが進化し、バーチャル世界だけでなく、フィジカル世界にもハードウェアをまとって登場するのは時間の問題です(というかすでにまとっているロボット犬などもいる)。そのような新しい「存在」が一般社会に浸透した世界観がかなりリアリティをもって語られていて、いろいろと考えさせられました。もはやSF作品を超えて、学校の哲学や社会学、心理学などの授業でも教材として取り上げられるべきではないかと感じました。
繰り返しになりますが、あっと驚くような結末や、クライマックス感には乏しいかもしれませんが、感動が長時間持続するような、味わい深い短編集でした。
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積読チャンネル(バリューブックス・飯田さん、ゆる言語・堀元さん)の影響で読み始めた。
ブクログのアイコンは文庫版だけど、読んでるのは単行本。装丁かっちょいいんだ。持って歩きたい。
まだ最初の2つしか読んでないけど、どっちも良かった。このまま読み続けられそう。ここまでの感想を、メモがてらちょっと書いておく。
普段SFは読まないけど、SFだということだけ知っていたので、構えて読み始めた。小さい頃、星新一をたくさん読んだけど、子どもだったからか、特に好きでもなく(その時はうまく言語化できなかったけど、正直に言えば気持ち悪いと思ってた気がする)、SFにあまり良い印象がない。
けど、一昨年プロジェクトヘイルメアリーを読んでから、あら楽しいかも!と、少しSF読まず嫌いを克服しつつある。
こっちを読み終わってないけど、すでに「あなたの人生の物語」も購入した。お届け待ち。
▪️商人と錬金術師の門
SFなので、近未来とか宇宙とか壮大でキテレツな感じを想定して読み始めたのだけど、思いがけず、桃太郎みたいな、昔話テイストで面食らった。でもそれが良い。むねあつ。もう一度、読み返したくなる感じ。短編はそれがすぐできそうで、悪くない。
▪️息吹
1話目とは全く違うテイストで、今度こそSFっぽい話。SFって想像上のお話だけれど、でも今の社会で起こっている何かを示唆したり問題提起してるよう。あぁそういうことかとSFのすごさとか魅力なんかを垣間見たりしてる。科学的であり哲学的でもあるんだな。(2024.2.25夜)
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▪️ソフトウエア・オブジェクトのライフサイクル
最初の3話と比べたら長いし、とっかかりにくい。タイトルからして、は?だ。でも、面白い。
シンギュラリティとか子育てとか、自然とはとか、パラレルワールドとか、著作権とか、はたまた男女の関係とか、そんな諸々のことについて、考えさせられる。まだ読んでる途中。
(2024.3.24昼)
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寡作で知られるテッド=チャンの2冊目の著作.
テッド=チャンには「未来がわかっている時に,人はどのような選択をするのか?」というテーマが多いようだ.個人的に本書のベストである「不安は自由のめまい」も,少し設定は違うが近いパターンである.これは「ある場面で別の選択肢を選んだことによって分岐したパラレルワールドとコンタクトができる」世界を描くが,登場人物たちは別の世界の自分を見て,自分自身の選択の結果に,ある場合は安堵し,ある場合は嫉妬し失望する.あまり詳しくは書かないが,ある登場人物は,過去の自分の行動について責任を感じて罪悪感を抱き続けていたが,実は....という救いのある話である.
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悲しい話が多かったが、末尾の「不安は自由のめまい」は明るくて良かった。今自分は当代最高の作家を読んでいるという高揚感ある。