紙の本
本当の小説
2024/01/29 08:58
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:魚太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
凄い小説を読んでしまった。ハッピーエンドを期待し、願い、祈って読み進んだ読者は、絶望の淵に放り出され、そこに置かれる。ただ茫然とするしかない。しかし冷静になって考えれば、そのような帰結しかないという状況が、現実的に在るのだ。そう、これは実際に起こり始めている現実の、危機意識という言葉をはるかに超えた恐怖を暴露し吐露した話である。逃避せずに考えなければならない。
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2024.01.11.読了
エンタメ小説家マッツ夢井を主人公に据えたポップで笑える作品、桐野作品で例えるなら『猿の見る夢』や『ハピネス』のような肩の力を抜いてただただ文字を楽しむ作品かと思っていそいそと読み始めた。ところが読み進めていくといつしか不穏な空気が漂い始め、結末では、首筋が寒くなるような重く暗い重要なテーマに気付かされる。
こんなことあり得ないよと笑ってやり過ごすことの出来ない、現在も思想コントロール下にある国家が実在するのは確か。
『日没』とはそう言う意味だったのか。。。
〜沼野充義氏の解説を読んで〜
マイナンバー制度、ヘイトスピーチ規制法、そして菅政権が行った日本学術会議の6名の学者に対する任命拒否など、その時々で???と思うことも確かにあった。しかし、その疑問や不安をどうやって表現すればよいのか?その手段や方法をわたしは持たない。
そこで文字によって表現するという才能を持った作家さん達が必要なんだと痛感した。
そこに純文学だとかエンタメ小説だとかは関係ない。人々の疑問や抵抗、権利や主張の代弁者としても小説家は護られなければならない。
ちなみに私はエンタメ小説が大好きだ。エンタメ小説があったからこそ、読書が好きになり、そこからたくさんの知識を得ることができた。
なにも恥ずかしがることもないと思うが、
恥ずかしながら、私は純文学を学校の課題以外ではほとんど読んだことがない。これからも読むかどうかわからない。エンタメ小説がおもしろすぎるし次々に刊行されるもんだから、純文学に手を出す暇がない。
→私の人生は豊かである。
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桐野夏生の筆によって紡がれるこの小説は、読者を心の奥深くに迷い込ませます。登場人物たちの複雑な感情や関係、そして人生の喜びと苦しみが、美しく織り交ぜられた物語は、心に深い感銘を残すことでしょう。
『日没』は、タグとしては桐野夏生、小説、文学、人間ドラマ、現代文学などが該当します。この小説は、人生の喜びと苦しみを深く感じ、考えることを好む読者にとって、必読の一冊と言えるでしょう。
多くの読者からのレビューでも、桐野夏生の作品がその深い洞察と感情豊かな筆致を称賛されており、この小説も例外ではありません。未読の方、再び楽しみたい方、この小説を手にして、人生の複雑さと美しさに触れてみましょう。『日没』は、あなたの心に新たな夜明けをもたらすことでしょう。
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日没のような夜明けを見たことがある。
あれは絶望的な希望だった。
表現の不自由。
分類という差別。
ここに描かれている世界は
遠からずすぐそこにあるのでは?
というよりカタチ違えど此処に在るのでは?
と思うと、戦慄が走る。
恐怖から逃れたくて
先へ先へとページ走らせ心没了。
TV、マスコミ、メディア自体が、
情報が操作されてて、
私達自体も考えを規制されているのかもしれない。
人と同じことに安心する私たちは、
頭が出るのを恐れ、
目立たないように首をひっこめる。
無関心である風を装うのは楽をするための態度。
国家や政府にはまあ都合の良いもんだ。
誹謗中傷で自死を引き起こすことが目立つ現代に於いて、
表現の自由は叩かれるようなカタチにあるし、
その反対にあるのが表現の不自由なのかなと。
まるでこの日没が何処かの日の出であるように、
相対する関係性で巡りめぐるのかと思うと、
日の本当の姿はどれなのか、わからなくなる。
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ラスト15行を上梓直前で書き足した(書き換えた?)という本作。
その15行で私は「え、そんな…まさか…」となったので、桐野さんの思惑にまんまと引っかかったのかもしれないけれど、インタビューを読むと、特別な思惑があったわけではなさそうだ。あくまで「こういう流れの方が自然だと思ったから」というような感じで、言われてみると確かに…とは思うものの、私はしばらく引きずってしまいそうな気持ちになっている。笑
小説家であるマッツ夢井のもとにある日1通の手紙が届く。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。
不審に思いながらも出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容されてしまう。
「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。態度の悪い職員に不味い食事、ネットも使えない不自由な生活。終わりのない軟禁の悪夢が始まる。
とにかく面白くて一気読みした。
ぞっとするような言論統制の世界と、不自由な生活に振り回されて精神が衰弱していくマッツの姿。
怖い。こんな現実があるはずないのだけど、どこかにあるようなリアリティが迫ってくる。
ネット社会になってから一般の人間ですら表現の仕方に迷うようになったのだから、有名人や言葉を扱う作家のような職業の人たちは一般人の数十倍数百倍苦労するようになっただろうと思う。
言論統制までいかずとも、OKとNGのラインを精査しなければすぐ炎上騒ぎになる。政府どころか、そこらにいる人たちに統制されているような状況なのだから。
桐野さん自身「これは書かなければいけなかった小説」と語っている。
ネットが出来る以前より活動されていたからこそ思うことはきっとたくさんあると思う。
不自由を強いられると、自分を通すことを諦めて権力に屈してしまう。
よくある構図ではあるのだけど、マッツの内面に渦巻くものが事細かく表現されているので、読み進めるごとに恐ろしさが増し、理不尽な思いがストレスになる。
ストレス爆発直前で終盤になって、解放されるかと思いきや…のラスト15行。がーんって感じでした(軽い。笑)
桐野夏生さんの小説はもれなく重くて、もれなく鋭くて、もれなく面白い。社会派小説とは違う枠でも、その時の社会を切り取った要素が含まれている。
映画やドラマ化した「OUT」が話題になったころ、主婦による殺人事件が増えたとか。無意識下で影響される人がいたのだとしたらすごいことだ。
そしてそれも統制の対象になるのか…?などと考えてしまった私は、やはり術中にはまっているな、と思ったのだった。
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「作家矯正療養所」という施設で主人公が地獄を味わう設定。施設の目的は、国家権力による言論統制であり、世間一般(いわゆる大多数の普通の人)に不都合な作品を書く作家を抹殺すること。希望(夜明け)が全く見えない状態、作家にとっての日没である。
主人公によると「良い小説とは、自分に正直な小説」とのこと。不特定多数の読み手全員から共感を得られるとは限らない。そんなことは当然分かっているが、今はネット上で簡単に批判したり、偽の情報を拡散できる。政権に批判的な有識者が、学術会議メンバーから外される時代である。自由にモノを書きたくても書けないという、作家さん達の苦しみが伝わってくる。自由に執筆が出来ないディストピアが、既に始まっているのだ。
自粛モード、相手への想いやり、空気を読むこと、絆、忖度といった言葉に現せられるように、この数年間で日本社会が、単一的な思考しか受け入れない方向へ向かっている気がする。常識があり、対人関係に優れ、他人と異なる言動をしないことが、平穏無事に人生を送るためには必要なのだろうか?
最近、職場の忘年会の案内が来た。コロナ前のスタイルに戻り、4年ぶりに大会場を貸し切って行うという。参加への強い圧力を感じた。正直、私は乗り気ではない。思い切って行かないという選択肢もアリかも知れない。その時間とお金で、桐野さんの本を何冊かジックリ読もうかなぁ。
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桐生さんの本とても怖いね。まるで、ホラーの指定席の最前列に座る感がある。
幽霊より、人のこころの闇に肌がゾワゾワする。
私達の全ては100%の善人ではない。どう、手綱を引くかだ。引き方を間違えると普通の人が闇に落ちる。
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うーん。大々的に売出されていたから楽しみによんだけど、期待したほどではなかった。
社会派小説ではなくないか?あとちょっと冗長すぎるんだと思う。
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刊行されたときに話題になってちょっと気になってたけど、そのまま忘れてて、文庫化でまた話題になっていたので手に取った。読み始めればすぐにするっと物語の世界に引き込まれる。
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文化文芸倫理向上委員会
???
知らないうちに 誘導される。隣が空っぽになっても何にも思わない。周りから言われることに唯々諾々と従うのみ。
そんな風に生きていくのは いやだーーっと 思う。
ほんとに?上手く真綿にくるまれて「はい」って言うんじゃない? ふ ふ ふ フ ㇷ
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当たり前のように描かれたりする作品がいつか制限されるようになる日が来るのだろうか。本好きだからこそ、軽い絶望感がある。
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桐野夏生ワールド初体験。
なんだか後味の悪いやり切れなさが残る。
自由を奪われひたすらに蝕まれて行く精神。
読みながら病んで行くようで。
表現の自由を奪われると言うのは表現者にとっては拘束衣を着せられる様なものなのだろう、と。
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岩波で桐野夏生の作品に触れるというのも何か格別な思いだ。それは例えるなら、大衆に人気のある崎陽軒のシウマイ弁当を横浜中華街の老舗・聘珍楼(現在は閉店)で食す感覚に近いかもしれない
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エンタメ系小説を書く作家・マッツ夢井のもとへ文化文芸倫理向上委員会なる政府機関から突然召喚状が届いた。疑問を感じながらも千葉県の外れにある指定場所へと足を運んだ彼女に待ち受けていたのはあらゆる自由を奪われた暗黒の日々だった
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オーウェル「1984」やブラッドベリ「華氏451度」など、ディストピアを扱った小説の多くは近未来を背景とするが、本作では舞台を現代に設定した点が大きな特長だろう。法治国家だからと何の疑問も持たずに安穏と暮らしている裏側で、この話みたいに不条理なことが実際に行われていそうな、そんな言い知れぬ怖さを覚える
タブーや良識が及ばない部分にこそ人間の本質が在ると信じ、作中でレイプやペドフィリア、フェチなどを描いてきたマッツ夢井(松重カンナ)は、それらが世の中の風紀を乱す元凶だとして、お上から目を付けられ、改善を強要される。マッツを糾弾する役人たちが、揃ってアスリート然とした容姿をしており、ヘイトスピーチと文芸作品を同列で論じたうえに、映画の原作になるのが良い小説と平気で口にするような、如何にも「本」とは無縁の輩として描かれているところに作者の痛烈な皮肉が窺えよう
ジャンルに囚われず、あらゆる物語へ果敢に挑み、そのどれをも面白く書き上げてしまう希代のストーリーテラー桐野夏生の筆はここでも冴えわたり、最後の頁までほぼ一気読みに近かった。何処かスッキリせず、後味の悪さが残るラストも彼女らしい
言論・表現の自由という言葉は、一部人々の間で都合よく使われるケースも見受けられるが、改めて真の意味合いを考えてみたくなる内容だ。巻末の解説によれば、生命と人権、言論・表現の自由の擁護を基本理念に掲げる「日本ペンクラブ」の現会長を務めるのは、桐野夏生とのことである
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読み進める手が止まらず、気合いの一気読み。
『表現の自由』について今一度考えさせられるトンデモ作品だった。
良いディストピア。
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先の展開が読みづらく、常に先が気になり続ける作品(あらすじとか帯を見ずに買い、何をテーマにどんな話なのか知らずに読んだからってもあるかも)
身体的・精神的に追い詰められる描写は本当に作者が経験したことあるんじゃないかって思ってしまうくらいリアリティを感じられた
作家は読者のためでなく、自分のために、自分が面白いと思える作品を書くんだ、という主人公の主張はもっともだなあと思う。
読者受けの良い作品ばかりだと、音楽のように特定の時期は同じテイストの音楽ばかりはやるといったつまらないことになりそう。
個人としての解釈だけど、最後の15行はなくても作者としての結末は変わらなかったのではないかなと。
というのも成田はブンリン側の人間であることは、それ以前から読み取れた気もしている。
成田はブンリンに面是服従していたと言っていた際は多田のことを呼び捨てにしていたが、その後の会話ではさん付けしており、脱獄後(厳密には違うけど)にも関わらず、他職員の私生活に関しても詳しく把握していることから、やはりブンリン側の人間に思える