読めない人が「読む」世界

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また新たな世界が知れた。
やはり翻訳本は苦手だけど、ディスレクシアや過読症などさまざまな理由で「読む行為が難しい人」についての質的研究のかたまりで、寝落ちしつつ読み終わりました。

まさに無知の知。
認知症の章で読むことが好きな人が読めなくなった例示で自分と重なり、涙がほろほろと。

識字障害の子を受け持った経験から興味を持ったけれど、人の悩みは千差万別だなぁと…

読める人生も読みたい人生も当たり前じゃないから大切にしようと思った読了記録でした。

p.20 まずは、生涯にわたって出現する疾患からはじめよう。読書療法では、字を読むことが心の健康に及ぼす影響に強い関心を寄せてきた。”この本では、心の健康が読字に与える影響をあるいは、心の健康が読字ではなく、くりかえしに耐える方法を考察することによって、そのしている。読書療法士は文学の治療的効果を唱えるかもしれないが、そのような療法が効果を発揮するのは、そもそも、その人に読む能力がある場合に限られる。人は、不安、気分の落ち込み、病的な気分の高揚、ストレス、心的外傷、睡眠不足、さもなければ、心理的に環境不適応な状態にあるときは文字を読むのに苦労する可能性がある。健全な精神状態が、本の世界に浸るための必要条件なのだ。
心が乱れている人にとって、本は原因であり治療薬でもある。ジョン・スチュワート・ミルがどん底の状態のときに詩に安らきを求めるようになったのは有名な話だ。®対照的に、ロバート・バートンの「憂鬱の解剖」では、感受性の強い読者に対して、「心を痛めたり、自分を傷つけたりする」。
ことがないように、神経路の症状リストを飛ばし読みするように念を押している。一部の人々にとっては、読むという行為そのものに癒しの効果がある。一八世紀に「英語辞典」を編集したサミュエル・ジョンソンは、ベッドの傍らに本を置いて、自分を寝かせまいとする「黒い犬」を追い払うようにしていた。本は、ジョンソンが「心の管理」。と称するものにおいて極めて重要な役割を果たしていたのだ。だが、そもそも心が管理不能な場合は、本の世界に逃げ場を求めようとしても阻止されてしまう。
黒い犬がそばにいると、読書どころか、本を開いただけで数しく消耗してしまう恐れがある。アンドリュー・ソロモンは著者の「真昼の悪魔！うつの解剖学』のなかで、普段は食欲な読書家である自は何の慰めも与えてくれなかった。「私の家には読むことのできない本・•••がたくさんある」（堤理華訳、原書房）状況だった。
鬱病と本への嫌悪感との相関関係は古くから存在するものだ。中世の倦怠という概念は、鬱病に関連する精神的麻車であり、修道士が聖典から慰めを得る機会を阻まれてしまうことが重要な症状とされていた。そこで、聖ベネディクトは、年老いた修道士をふたり選んで、「読書に没頭していない」修道士を探し出すように命じた。兄弟たちの介入を必要としているかもしれないと考えたのだ。歴史をふりかえってみると、読字は、メランコリーの原因でもあり症状でもあると診断されてきたーつまり、読書量が多すぎても少なすぎても健康を害する恐れがあるとみなされていたのだ。古代の医師が肩じたように、心の酷使はメランコリックな思考につながるのかもしれないが、読字は現代の精神医学でも鬱病の臨床症状の一覧に名を連ねている。読んでいるものがなかなか理解できないという、逆の形をとってはいるが。3
自分が失ったものに気づくと、久落感はますます強くなる。精神分析医のスチュアート・サザーランドは、ほとんどの日々を読書と執筆に費やしたあげくに、四〇代半ばで精神を病んでしまった。回想録では、「もうほとんど本が読めないという思いが頭にこびりついて、私を苦しめた」。と説明されている。新聞さえ読むことができないという現実は、サザーランドほどの活字中毒者にとっては「極めて洗練された携間」。だったのだ。どん底の気分のときに本に慰めを求める人もいるかもしれないが、心の病はもっとも必要とされるときに読字の力を妨げる。従って、読まずに長い時間を過ごしきた人々は、その力が蘇ってきたことを回復への第一歩として実感するのかもしれない。作家のマット・ヘイクは、長く苦しんだ鬱状態を脱したあとで、自分がそれまで知らなかったほど熱心に本を読んでいることに気づく。本が「好き」だった人間から、本を「必要とする」人間に変貌を遂げていた
のだ。®（「＃生きていく理由」那波かおり訳、早川書房）
心の健康は、読むという行為にだけでなく、読む対象にも影響を与える可能性がある。『モンキー・マインドー不安の回想録 Monkey Mind： A Memoir of Aniet』によれば、著者のダニエル・スミスが行った読書療法は、図書館へ行って、冒頭の文章が自身の不安を和らげてくれる本を選ぶというものだった。スミスの胸のつららを解かす （ナボコフが本の価値を測るのに用いた「ぞくぞくする背筋」
（「ナボコフの文学講義」野島秀勝訳、河出書房新社）に相当するスミス流の表現）のに成功した本が家に持ち帰られた。合格したのは、ソール・ベロー、E・L・ドクトロウ、アーネスト・ヘミングウェイ、ウィリアム・スタイロン、ジョン・アップダイクの作品だった。”いまにも何かが起こりそうな雰囲気の本はそのまま書棚に残された（ジョン・チーヴァー、ドン・デリーロ、ウィリアム・フォークナー、ウィリアム・ギャディス、ヘンリー・ジェームズ、フラナリー・オコナー、トマス・ピンチョンへの謝罪の言葉とともに）。このような方法で自己治療を行ったことが助けとなり、スミスは、フィリップ・ロスの小説に登場するネイサン・ザッカーマンのような人間のなかに自身の分身を見いだしただけでなく、診断結果まで突き止めたのだ。

p.192 〇〇一年に脳卒中に見舞われた際に、小説家としてのキャリアもこれで終わりかと思い悩んだ。「本の虫」で「活字中毒」を自称していたが、アレクシアのせいで、小説を読むことだけでなく書くことまで阻止されてしまった（もはや自分の原稿に手を入れることができないからだ）・”エンゲルはたまに本を読む程度の読書家ではなかった。脳卒中を起こすまえは、脳血管に損傷を負うよりも、「ハワーズ・エンド」に登場するレオナード・バストのように本棚の下敷になる危険のほうを身近に感じていたほどだ。エンゲルの回想録『読み方を忘れた男 The Man Who Forgot How 1o Read」では、言葉の達人にとって、言葉という公私��方のアイデンティティーにかせないものを失うことがどれほど大きなことであるかが語られている。自分で書いた物が読めないという体験には、それについて書きたいという気持ちを起こさせる何かがあるのだ。
アレクシアの現象論的な説明は、非識字になるのがどんな感じなのかを読者に理解させるという特有の難題に直面する。次にトロントの『グローブ・アンド・メイル」紙に掲載された記事を紹介するので、脳卒中からの生還者の目に映る光景をじっくりと味わってもらいたい。

p.194 私は依然として読み手だった。脳への一撃も、私を別のものに変えることはできなかった。読む力はもともと私のなかに備わっていた。読むことを止められないのは、心臓を止められないのと同じことだ。読むことは私にとって骨と骨髄、リンパと血液だった。

p.303 それでも単語だけとか、短いフレーズなら読めるのだ」。ソベルが自分の母親の記憶障害を念頭におきながら制作した「おとなの絵本」は、人と本の関係が本来の読書とはかけ離れたものになっても、人が読みつづけることを可能にしている。
認知症向けの本のほとんどは、ひとりの読書用というより、誰かと一緒に読むためにつくられている。「ひざを寄せて読む絵本」は題名が示すとおり、患者と介護者の両方を読者に想定したものだ。
おそらくふたりは並んで本を読み、患者がつっかえたときにそなえ、介護者が代役としてスタンバイしているのだろう。作者の臨床心理学者リディア・バーディックは、単音節しか発話できなくなった母親のためにシリーズの第一作を書いた。母親が草稿を手にしたときの様子を、バーディックはこうふりかえる。「母が自分で文章を読みすすめるのか、声にだしてわたしに読み聞かせてくれるのか、どうなるのか、わたしにはわかりませんでした」。8時折ヒントを出せば、バーディックの母親はどの単語でも読むことができた！そのやり方は図書目録の行の呼び出しに相当するものといえる。
読者の高齢化に対する第二のアプローチは、読者を子どもと同列にみなして子ども向けの本を提供する代わりに、大人の文学を扱うよう求めるものだ。ドクター・スースではなくシェイクスピアを、というわけだ。『リバプールの慈善団体「ザ・リーダー」の報告書は、文学に描かれる人間模様のいっさいから認知症の人々を遠ざけておこうとするやり方に対して、はっきりと警鐘を鳴らしている。※また、そのほかの諸団体も、複雑な文体を鑑賞する能力は疾患の最終段階になるまで保たれる可能性があるため、古典文学を排除する必要はないと主張する。とはいえ、どんな人でも原作をそのまま読めばよいと考えているわけではない。

《参考文献》
・ジョン・ロドリゲス『高校中退からハーバード大学へ』
・映画『テンプル・グランディン　自閉症とともに』
・『読み方を忘れた男』
・『メモリーブック』
・『アリスのままで』

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脳内の情報処理の問題で、「文章」が認識できない人たち。
生まれつきだったり、怪我や病気に基づくものだったりするし、症状もさまざま。共感覚から幻視まで幅広く取り扱う。

文字を読む、認識することと、意味を読み取ることは、違う行為なのである。
また、その文字を読むことすら、人によって、状況によって、踊ったり光ったり、文字そのものが「人格」を持つことすらあるらしい。

聞く、話すと違って、読むことは人間に自然に備わったものではない。そこには訓練が必要な技術なのだ。

そう考えると寧ろ、人間の大半が、文化に応じてだが、読むことができるってのは実はすごいことなんじゃないかと考えた。

いつかこれを手放す日が来るかもしれないと思うと、確かにちょっと怖いものがある。
こういうことに光を当てるのが「多様性」じゃないのか。

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本書では、難読症、過読症、失読症、共感覚、幻覚、認知症といった読字を阻む六種類のリーダーズ・ブロックが扱われている。文字を読むプロセスがスムーズに機能しているときには気づかれにくい「読むことに困難を抱える人」に光を当てることで、読書という行為の新たな側面を浮き彫りとすることを目的としているのだ。それはつまり、型にはまらない読み方をするときの感覚を現象学的経験として第三者に伝えるということでもあり、作者は苦労も多かっただろうと想像する。読みながら、私が知っている読書という行為は、脳と身体がうまく調和して読み進めることができる人々を対象としたものであって、脳と身体が緊張した状態、あるいは対立した状態のことを指してはいなかったのだと、認識を改める機会となった。

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中でも面白かったのが文字に味を感じる共感覚の話。suggestiveはイタリアンドレッシングをかけたアイスバーグ・レタスの味、attendantは甘酸っぱいソースをかけたチキンナゲットの味がするらしい。

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人は生まれ文化的になる過程で読む力を得て、人生の終わりにその力を手放していく。でも読む行為は多様なものだから、自分なりのやり方で読んでいけばいいよ、て豊富な例で教えてくれる。
ディスレクシアの人が授業で読書にトラウマを持っても今はオーディオブックで楽しめてるよー、とか共感覚だと単語に色やイメージが乗ってくるから人によってだいぶ受取り方が違うよ、てな話も面白かった。
んだけれども、鬱は本嫌いになりがち、心乱れている人は本読むのしんどい、何故って読字は知的なものであると同時に生理学的なもの。つまり注意力や視覚、言語処理能力に乱れが生じれば効率が妨げられ中断に追い込まれてしまうのだ、と書かれていて凄く納得した。
大人が本読めないのはそのせいだと思う。少なくとも私は

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https://www.cku.ac.jp/CARIN/CARINOPACLINK.HTM?AL=01433119