Leva-me Aos Fado: ファドの館に連れていって【CD】

ポルトガルを代表する歌謡音楽ファド。そのシーンにおいて現在もっとも高い人気を誇る若手女性歌手と言えば、昨年アマリア・ロドリゲス杯を受賞したジョアナ・アメンドエイラと、こちらのアナ・モウラの二人でしょう。伝統路線を突き進むジョアナに対し、アナ・モウラはポップなスタイルも視野に入れた幅広い音楽性が特徴ですが、その彼女が３年ぶりとなる新作アルバムを発表してくれました。

アナ・モウラは1979年の生まれ。ハイティーンになった彼女はバンドを組みロックやポップスを歌っていたそうですが、子供のころから親しんでいたのはファドで、20歳を過ぎてからはリスボンのファド・ハウス（生のファドを聞かせるお店）に出演してファドの修行に励むようになりました。そんな彼女に目をつけたのが、新世代ファドを代表するプロデューサー／作曲家／ギタリストのジョルジ・フェルナンドでした。アナ・モウラは彼の手でレコーディング・アーティストに成長してゆきました。

そして2003年にデビュー作『あなたの腕につつまれて』（ライス HMR-5036）を発表、後に世界配給されて欧州を中心に大きな注目を集めました。その後2004年にはセカンド作『ファドの扉を開けて』（同 HMR-5059）をリリース、その翌年にはＮＹＣのカーネギーホール公演を成功させ、さらにその高まる評判の中ローリング・ストーンズのポルトガル公演にゲスト出演し「ノー・エクスペクテーションズ」を共演するなど、ジャンルの壁を越えた活躍も見せるようになりました。また2007年のサード作『サウダーデの向こうに』（同 HMR-5058）発表後には来日公演も行い、我が国でも彼女の歌声の虜になったファンが続出しましたが、そんな彼女が待望の４枚目のアルバムをリリースしてくれました。

すでに昨年の秋に本国でリリースされチャートを大いに賑わしたという本作は、これまでの作品と同様にジョルジ・フェルナンドがプロデュースを担当。そして主にジョルジによるオリジナル・ナンバーを、ポルトガル・ギターと通常のギターを中心とした伝統的なファドのスタイルでの伴奏で聞かせてくれます。歌うアナ・モウラもさらに歌声に磨きが掛かり、優雅でダイナミックなヴォーカルを全編で披露し、その成長ぶりをアピールしてくれています。また70年代より活躍しているヴェテラン男性歌手のトゼー・ブリートや、『いにしえのファド』（ライス CNR-3004）でその渋い歌声を披露していた男性ファド歌手フェルナンド・マウリシオといったアーティストらによる楽曲も収録されるなど、ヴァリエーションに富んだ内容となっています。

これまででもっともアナ・モウラらしさに溢れた充実の内容。そしてアマリア・ロドリゲスが築いたファドの女王の座を継承するのはやはり彼女であるということを確信させる１枚と言えるでしょう。