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記憶障害に伴って、主人公の時間が高校時代から8年間飛んだ形になっているので、どこか北村薫の「スキップ」を彷彿させるテーマです。ただし、こちらの小説の主人公はやたらにテンションが高いです。文章が一人称で書かれているあたりから、この主人公はどこか新井素子作品ぽい雰囲気もあります。無題に前向きだし。
前例作品を挙げていますが、本作が二番煎じかというとそんなことはなくて、一見不可能とさえ思える謎の提示、そしてその解決はなかなか見事です。解決編が始まる31章にあえて【解決編」と入れているあたり、読者への挑戦の意図も伺えます。
主人公のテンションについて行くのに少し慣れが必要でしたが、いろいろと明らかになっていく終盤はもう一気に読み進めてしまいました。ややコメディタッチながらも、本格といってなんら問題ないミステリーだと思います。
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解決編を通じて言明されるにいたる主人公たちの思想。それは、組織され・権威付けられた正義への失望に基づく、自然化され・常識化された正論への回帰衝動。
例えば浅野いにおの作品の主人公たちが、いずれにせよ唾棄すべきものと看做している二つの価値観(実は一体の価値観)の間での運動。ディストピア的観点でものを見よとは言わないけれど、やはりどこか思慮深さに欠けた思考と蔑まずにいられない自分がいる。
物語の中盤まで繰り返し表明されている主人公の思考・行動様式における奔放さのようなものと、終盤(解決編)の事なかれ主義的な態度とのあいだのこの乖離。納得がいかない・・・。
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部室で目覚めると、8年間の記憶が失われ高校時代に逆戻り。どうやら母校で教師をしているらしい。おまけに親友の実綺が高二の文化祭前に亡くなっているなんて!?
二人で『眼鏡屋は消えた』を上演するべく奮闘していたのに。あたしは最も苦手としていた、イケメンの元同級生・戸川涼介とともに真相を探る決意をしたが……。
ハイテンションな筆致で贈る、第21回鮎川哲也賞受賞作。
著者あとがき=山田彩人
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例によって表紙買い。この作者の小説は初めて読みましたが面白かったです! こんな風に、理屈で進めていくものは読んでいて爽快感があり、こういうの好きだなあと再確認。もう一人探偵役がいて、主人公がおもに動き回る安楽椅子探偵ものですが、主人公が記憶を失っていることが引っ掛かりを生んでいます。当時のきみはそんなことしなかったのに、なぜ今、突き止めようとするのか? 問いを投げかけられるたび、真相究明はいったん停止しますが、おかげで読者も情報を整理できます。明らかになる真相に多少のモヤモヤ感はあるものの、人生ってそういうものだよね、とも思えます。その分、ラストの主人公の様子には溜飲が下がる思いでした。
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由緒正しき青春ミステリ。
ちょっとご都合主義な感じがあるのは否めない。
例えば、主人公が記憶を失った因果とか。
この辺が、もっと緻密で、もっと予想外の展開になってると、とてもレベルの高いものになると思う。
3-
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〇 概要
8年間の記憶を失った高校教師,藤野千絵。8年前に,親友の竹下実綺が死んでいたことを知る。学校から反対されているが,文化祭で「眼鏡屋が消えた」という劇を演じるという目標を実現させるために,記憶を失ったことを隠しながら,イケメンの探偵戸川涼介とともに竹下実綺の死の真相を探る。戸川涼介がたどり着いた驚愕の真相とは…?
〇 総合評価
ヒロインである藤野千絵が非常に魅力的な作品。探偵役の戸川涼介もそれなりに魅力的である。ミステリとしては,丁寧な作りで好感が持てるが,サプライズを狙った書き方をしていないので,ミステリとしてのインパクトは弱め。しかし,一見いい人っぽい筑紫先生へのシニカルな視点や,ヒロインこそが親友を死に至らしめた張本人だったというオチは結構えぐい。トータルで見るとインパクトもある。最悪になりそうな読後感をましなものにしている藤野千絵の存在がかなり大きい作品であるが,ミステリとしての堅実な作りもあってそれなりに評価できると思う。それでも…★3かな。
〇 サプライズ ★★☆☆☆
この物語で「謎」となるのは,眼鏡屋が消えたという物語のモデルとなった橋本ワタルという生徒の死亡の謎,藤野千絵が演劇部の部室で殴打されたという謎,そして竹下実綺の死の真相である。まず,橋本ワタルの死は遺書を残して自殺していたのを,教師の筑紫が事故に見せかけていたというもの。藤野千絵を殴打したのは筑紫の婚約者だった久本映子。筑紫にとって都合の悪い雑誌を藤野に見られないために殴打していた。そして,竹下実綺を殺害したのは…なんと記憶を失う前の藤野千絵だった。あらすじだけ見れば意外なストーリーのように見えるが,真相の明かし方がサプライズを狙ったものではないので,普通に読んでいると,竹下実綺を殺害したのは藤野だと思ってしまう。そういった意味ではサプライズは低い。そもそもサプライズを狙った作品ではないのだろう。
〇 熱中度 ★★★☆☆
記憶を失っている藤野千絵が記憶を失っていることを隠しながら,一癖も二癖もある探偵,戸川涼介と協力して捜査を進めるという筋はなかなか面白い。ただ,捜査の過程を丹念に,丁寧に描いているので,少し退屈に思える部分があった。設定は面白いので,ミステリとしての面白さだけを追求すれば,もっと熱中して読める形にできたかもしれない。もっとも,主人公の妙なハイテンションと設定の面白さがあるので,それなりには熱中して読める。
キャラクター ★★★☆☆
主人公の藤野千絵と探偵役の戸川涼介のキャラクターは非常に魅力的。しかし,ほかのキャラクターはそれほど魅力的に描かれていない。戸川涼介と対照的に描かれている教師の筑紫は,それなりの存在感を示している程度。主人公の藤野千絵は,この作品の象徴という存在だが,ハイテンションで前向きでかわいらしく,非常に魅力的な存在である。
読後感 ★★☆☆☆
「学園側の意向に背いて上演しようとしていたのは,けっきょく学園に反抗する自分達に酔っていただけ」とか,「あなたは自分の勝手な正義感を他人に押しつけ,社会が完璧でないことに抗議し���は,よけいに悪い結果を生み出し,そのことに対する結果責任すら感じることがない」といったセリフや,竹下実綺を殺害してしまったのは(事故とはいえ)藤野千絵という真相は,なかなかにえぐい。読後感はかなり悪くなりそうだが,底抜けに明るく前向きな藤野千絵の性格が,最悪の読後感にならないようにしている。
〇 インパクト ★★★★☆
都合がよすぎる記憶喪失と,一見いい人っぽい筑紫先生に対するシニカルな視点,親友の竹下実綺を事故とはいえ,死に至らしめたのがヒロインの藤野千絵であるというストーリーなど,インパクトはある。
〇 希少価値 ★★☆☆☆
創元推理文庫なので,それなりに手に入りやすい状態が続くかもしれない。しかし,あまり売れている様子ではないし,長い目で見れば希少価値は上がるかも。
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正直そこまで面白いとも感じなかった.
著者は脚本も書いているらしい.
どうりでか,所々,あぁここでドラマは切れ,次回ここから始めるのか,というようなブツ切れや説明の繰り返しに辟易.
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「論理的な謎解きの過程の面白さ」が感じられる小説。
揃った情報から論理的に考えられるかが勝負!おもしろい作品でした。
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主人公の一人称語りが面白かった。
可読性の高さはそれによるものだろうか。
一人称でリズムのいい文体は読みやすいことを再認識。
物語の牽引力はさほどでもなく、仕掛けはともかく誰がやったかについては早々に分ってしまうのが難点かなとは思う。
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気づけばぶん殴られて8年分の記憶をすっ飛ばした私の件。自殺した友人の事件。その3年前に自殺した少年の事件。
解決するのに東奔西走。イケメン探偵と共に追い求める。
当初は北村薫のスキップか?とも思ったけど、中身は全然違う。設定は面白いけど、読むのに疲れる作品。
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テンポ良く物語が進んでいきサクッと読みやすかった。さまざまな事件が交わる時、社会派っぽい内容で重すぎて驚いた。主人公が独りよがりなところがあって面白い子だなぁと思い読んでいたので、過去の主人公の行動に納得。大抵の人は自分の都合のいいところしか見ずに生きていく。そういうもんでしょ?と思わせてくれる本だった。