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作者の檀一雄は青春の一時期、まるで二人で坂を転げ落ちるかのように、太宰と共に放蕩と逸脱の日々を送っていた人物だ。だからこそ、そんな檀一雄が描く太宰治は、どんな伝記よりも、どんな伝説よりも、鮮やかで生身だ。目を閉じれば、繊細だけれどもウィットに富み、酒を飲むと快活にさえなった太宰が、「檀、くん」とやさしく呼ぶ姿が見えてくるような気さえする。
「檀くん、夾竹桃だよ、夾竹桃」とうれしそうに船橋の家に咲いた夾竹桃を見せてくれる太宰、娼家で「檀くん、ちゃんと身体を洗えよ。処女にだって(※1000人の男と通じた女は既に処女のように清らかだ、というのが太宰の説だった)黴菌はついてるからね」と可笑しそうに笑う太宰、檀一雄に「きみ、麻薬かなにか、やっていやしない?」と問われ狼狽する太宰…。(そう、ちょうど二人が放蕩を極めていた頃というのは、太宰が深刻な麻薬中毒に陥っていた時期と重なっていた)
ここには、同じ志を持ち、尚且つ他の誰よりも彼の才能を敬愛し憧憬した青年の目を通して見た一人の天才が描き出されているばかりでなく、やはりそこには、同じく破滅に身を投じていく性を持ちながらも、太宰とは決定的に違う資質を持っていた(それは、絶えず外へ外へと押し出されていく檀一雄の、放浪せずにはいられない魂であり、その強靭なまでの生命力というようなものだった)作者の姿をも映し出している。
ラストでやってくる太宰の死、そしてそれに対し檀一雄が綴った想い。私は最後の最後でぼろぼろと涙をこぼしてしまった。
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太宰治の悪友にして親友である、作家・檀一雄による太宰治伝。
これ~~~は~~~~もう、ほんっっとに、、萌え!!!
と叫びたくなる小説でした。文壇の友情に萌えたい人に激しくお勧めします。
内容は、檀と太宰のヘタレ作家生活について。
おもに二人で、酒飲んだり女を買ったりGUDAGUDAしたり旅行したり…まぁはっきり言ってほとんどニート同然の放蕩生活について書かれています。個人的に大ヒットだったのが、太宰が自分の包茎を気にしてるとことか(「包茎の文学だ!」とか何とか言ってキャッキャはしゃいでたとこ)、熱海かどっかで、宿賃・酒屋と娼家のツケをどうにかしようとして、熱海の宿に檀を一人とりのこして東京の井伏鱒二(太宰の師匠)に金の無心に行った…が太宰はなかなか熱海に戻らない。いぶかしんだ檀は待ちきれなくなって井伏鱒二のところへ行くと、当の太宰は井伏と碁をさして遊んでいた!!怒った檀は(人質として宿に取り残されたので怒るのは当然ですが)「君、どういうことだ?」と詰め寄ると、太宰は「待つ身がつらいかね、待たせる身がつらいかね」と渾身の捨て台詞…
とにかく檀と太宰とその周辺の人々の交友を詳しく知るにはとってもいい本だと思います。これはまた再読したい作品だなぁ!
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ハードカバーで読んだのですが、何故か検索に出てこないので。
太宰治の文章は一時期すごく好きでした。今でも津軽と人間失格は持っています。人間的にはどうかなと思うところもたくさんですが、それを踏まえても太宰治の文章は魅力があるのだと思います。周囲の人間はたまったものじゃないでしょうけれど。
父が先に読んでなんてはた迷惑で嫌な二人組だったのだろうと感想を言ってましたがまさにその通りだなと思いました。
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好きだなあ。好きだ。正直言うと檀一雄の作品ってこれしか読んでないのだけれど。私も太宰とこういう関係だったらなーと想像しちゃう本。変な話だけど、薄暗さがつきまとう不健全な青春に萌える。
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太宰があんまり太宰で、もうね。
『「君は――」
と、私はそれでも、一度口ごもって。然し思い切って、口にした。
「天才ですよ。沢山書いて欲しいな」
太宰は暫時身をもだえるふうだった。しばらくシンと黙っている。やがて、全身を投擲でもするふうに「書く」
私も照れくさくて、やけくそのように飲んだ。』
「小説」と題名に冠している以上ある程度の脚色はあるだろうが、それにしてもドラマティックな人生だ。味の素。
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メロスの元ネタとしてよく言われる熱海の旅館に太宰が友人置き去りにした事件、置き去りにされた友人こと檀一雄氏がいかにノリノリであったかがよくわかる一冊だった
すべては大切な思い出です。切なくて泣けてきます。沢木氏の解説まで名品
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壇一雄から見た太宰治。
終盤で壇が自分と太宰の生に対する考え方の違いに
気づく場面が非常に印象深い。
多少の脚色はあるにせよ、彼ら無頼派の生き様が心に響く。
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太宰の小説は何作か読んでいるものの、当人については自殺未遂を繰り返した人というくらいしか認識がなかったのでこれを読んでみれば少しはわかるかと思い読んでみました。
やんちゃすぎる二人の青春のような日々が、なんだか終盤になるにつれて切なくて大切なものだったんだなぁと思わされました。
ちょっとそれどうなのよ?というような場面も含めて生きている太宰が少しでも垣間見れたので読んでよかったです。
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面白かった。檀一雄もすごい作家なのだが、この小説の中では太宰治という風変わりな天才と出会ったひとりの青年(檀)の葛藤と憧れに焦点を絞っている。青春小説としても読める。お金がないのにふたりして飲む打つ買うを繰り返していた二十代から(博打はしていなかったが)家庭を持ち徐々に二人の関係性にズレが出だした三十代。この奇妙な友人関係は太宰の自死で終止符が打たれることになる。青春に出会いと別れは付きものだなあとほろ苦くも普遍的な余韻を残す。しかし友人はいるわ妻子はいるわで生き様以外はリア充そのもので羨ましいよ!
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ひとりの作家がひとりの天才に出逢ってからその別れまでのたいせつな記憶。
壇一雄にとって、太宰はとても大きな存在だったんだろう。その才能を妬み羨み、それ以上にその人間性にどうしようもなく惹かれてしまう、悲しくも美しい想い。
太宰と初めて逢った日に云った、
「君は天才ですよ。たくさん書いて欲しい。」
この言葉、どんな気持ちで、思いで発せられたんだろう。同時代に活躍する作家に、君は天才ですよ、なんて。
「作為された肉感が明滅するふうのやるせない叙情人生だ。文体が肉感にのめりこんでしまっている。」
太宰について壇一雄がこう描写するのだけれど、太宰という存在がもう文体になって、文学になってしまって、太宰の死さえも彼の文学の完遂のためであったと断言してはばからない壇一雄だからこそ表現しえた文章だと思う。
壇一雄にとって、太宰は、文学そのものだったんだな、と。
思うところはあっただろうし、きれいな感情だけでは留まらないこともたくさんあったに違いないけれど、それらをすべて含めた、壇一雄の、太宰への、太宰という作家への、尊敬と友愛に満ちた美しい一冊だった。
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檀から見た太宰との物語。同時代の作家や編集者などとの関わりのなかで、太宰はどんなふうに生きていたのか。
太宰がしだいに死に向かっていきそうだと檀が感じるところなど、友情。
中原中也はお酒を飲むと、太宰にからんで殴って喧嘩になった、というエピソードもあり。
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私の中で、太宰さんと檀さんは「悪友」というイメージがあったのですが、彼らの間にも素質の違いから生まれる「分岐路」があったことを知りました。
高い背を丸めながら歩く姿や、表情を決めかねている様子、また、冗談を言って笑う「チャーミング」な姿など、檀さんの前だからこそ見せた姿の一つ一つを想像しながら読みました。
断片的に知っていたエピソードの数々を、改めて確認できたのが良かったです。
数少ない中原中也とのエピソードも印象的でした(笑)
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熱海事件を知り、ふたりの関係が気になりこの作品に行き着く。前半は太宰治と過ごした日々。酒・女・文学。昭和初期の文系東大生の青春記。後半はふたりに物理的距離ができたことで、檀一雄が本来の自分を取り戻すかのように生き生きしていくのが清々しい。太宰治が亡くなったからこそ誠実でありたい気持ちが表れているが、太宰治が檀一雄に対して誠実でなかったことが伺えるゆえに、切なくもある。