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(2007.01.24読了)(2000.10.27購入)
副題に「ヨーロッパ庶民生活点描」とあるように、中世の庶民生活はどのようなものだったのかを述べている。世界史で教えてくれない部分なので、初めて知るようなことが多く非常に興味深く面白かった。こんな本に出会うとどうしてもっと早く読まなかったのだろうと思うけれど、読む本は自分で選んでいるので、どうしようもない。
14のテーマ「村の道と街道」「川と橋」「渡し守」「居酒屋・旅籠」「農民」「共同浴場」「粉ひき・水車小屋」「パンの世界」「牧人・羊飼い」「肉屋の周辺」「ジプシー」「放浪者・乞食」「遍歴する職人」「ティル・オイレンシュピーゲル」について述べられています。
●街道(11頁)
中世の人々、特に農村に住む人々にとって、街道と村の道とは別の世界にあり、異なった原理のもとにあった。街道は何よりもまず出来るだけ集落との接触を避けて、ひたすら遠くを目指す道であった。主として経済上の目的と軍事上の目的のために建設され、名誉あるものなら誰でも自由に通行できた。
●水の精への貢物(33頁)
かつて水の精は浅瀬を渡る人々に犠牲を要求し、水の中に引き込んだりして貢物を手に入れていたが、橋の建設によってその貢物が手に入らなくなる。彼らが怒って橋に危害を加えることのないように、橋の建設の際には水の精に貢物をささげる習慣があったといわれる。1824年にロンドン橋が修理された時、橋の土台には、様々な貨幣が発見されたという。
●居酒屋(48頁)
未知の他国者が宿泊した場合は、居酒屋の主人が都市なら市長に、村なら村長に報告しなければならなかった。また他国者に不審な点があったときは逮捕することもできた。もし報告を怠ると主人が罰を受けた。居酒屋の主人はいわば支配者たる領主と村民団体との接点にいたのである。
●ジプシー(158頁)
ヨーロッパにジプシーが最初に現われたのが14世紀以前である事はほぼ間違いない。1100年にアトスに現れたと言う記録が最古のものであるが、ボヘミア、セルビアがついで古く、ドイツでジプシーを確認している最古の記録は1407年のものである。その少しあと1427年にはパリにも現われ、「パリ市民の記録」に残されている。
☆関連図書(既読)
「よみがえる中世ヨーロッパ」阿部謹也著、日本放送出版協会、1986.07.01
「自分のなかに歴史をよむ」阿部謹也著、筑摩書房、1988.03.30
「物語 ドイツの歴史」阿部謹也著、中公新書、1998.05.25
「牧夫フランチェスコの一日」谷泰著、NHKブックス、1976.08.20
「世界の歴史(3) 中世ヨーロッパ」堀米庸三著、中公文庫、1974.12.10
著者 阿部 謹也
1935年 東京生まれ
1963年 一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了
1969年から2年間ドイツに留学
1974年の「ハーメルンの笛吹き男」は大きな反響を呼んだ
1978年 「中世を旅する人びと」でサントリー学芸賞受賞
1979年 一橋大教授
1981年 「中世の窓から」で大佛次郎賞受賞
1992〜1998年 一橋大学長
一橋大名誉教授、西洋社会史
2006年9月4日 急性心不全のため死去、享年71歳
(2007年2月20日・記)
第2回(1980���) サントリー学芸賞・思想・歴史部門受賞
(「BOOK」データベースより)amazon
西洋中世における遍歴職人の「旅」とは、糧を得るための苦行であり、親方の呪縛から解放される喜びでもあった。彼らを迎える旅篭は常連客に優先してテーブルを割り当て、旅人を区分するしきたりを持っていた。遍歴職人・親方・旅篭主人達の必死なせめぎ合いに、当時の名もなき民衆の悲哀が漂う。本書は歴史の表舞台に登場しない彼ら庶民にスポットを当てた社会史。丹念な考察により、当時の人びとの息吹が蘇る。中世史研究の第一人者の初期代表作。’80年サントリー学芸賞受賞。