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過去を改変しようとしたがそこには大きな落とし穴が・・・。
久しぶりのディック節だ。うれしい。最近古本屋からSFが消えていってる。ほとんど在庫がない。これは大問題だ。
かろうじて、天牛堺書店(天下茶屋店)における定例の100円セールで見つけるのみだ。天牛は南大阪が中心だから
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02年再版版。
本作はPKDの長編では初期作品であるにもかかわらず、
そのドープさ加減は手加減を知らない。
至って面白みもないタイトルから安易に内容を予想するのは間違いで、
やはり一筋縄ではいかないストーリー。現実世界を歪んでいき、
最後のほうではやはり混沌に突入していきます。
PKDの著作の中でも、ベストに挙げる人が少なくない名作。
-ハヤカワオンライン「書籍詳細」より-
火星植民地の大立者アーニイ・コットは、宇宙飛行の影響で生じた分裂病の少年をおのれの野心のために利用しようとした。その少年の時間に対する特殊能力を使って、過去を変えようというのだ。だがコットが試みたタイム・トリップには怖るべき陥穽が隠されていた……P・K・ディックが描く悪夢と現実の混沌世界
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この作品がこのタイトルではもったいない!
タイトルでは表しきれない深い何かが、人間の心のあり様というか、善悪と心の病と人間の背負い続ける業とでもいうか、そういうものがある。
同じ時間の同じような場面が少しずつ違ってきたりするあたりが興味深かった。
しかし、正直なところラストが突然すぎて驚いた。どうしてああなったのかが分からない。
他のディック作品を読み、また時間をおいて再読したい。
追記:
くらくらするアタマでぼんやり考えていたらなんとなくあのラストが理解できた気がした。
マンフレッドは救われたんだね。
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人類の植民が進みつつある火星。圧倒的な水不足を背景に絶大な権力を持つ水利組合の長アーニイ・コットは、火星の開発計画に伴う利権争いに出遅れ、地球の資産家達に先を越されてしまう。損失を取り返さんと憤怒に燃えるアーニイが目を付けたのは、常人と異なる時間感覚を有しているらしい自閉症の少年マンフレッドだった。マンフレッドの能力を利用して過去の改変を図るアーニイ、他者とコミュニケーションを取ることが全く出来ないマンフレッド、マンフレッドと意思疎通するための機械の開発をアーニイに命じられる技師のジャック、三者の異なる思惑が、火星の運命を思いがけぬ方向へと導いていくことになるが・・・。
うひゃー、やられた。面白いです。
タイトルで損をしている作品だと思います。アーニイがマンフレッドの能力によってタイム・スリップするに至るまでの話が、確かに物語の骨格を成しています。が、だからといってこの作品を、如何にもジャンルSF的な「時間SF」と頭から決めてかかると、かなりの衝撃を受けることになるのではないかと。
傲慢で人の話を聞かず、他者を自分の道具としてしか見ることが出来ないアーニイは、マンフレッドが時間改変能力を持つと決めつけて、周囲のキャラも巻き込みつつ強引に計画を進めていきます。しかし、マンフレッドが実際に時間改変能力を持ち、そしてそれを発揮してアーニイを過去に連れて行ったのか、本当のところは明確には描かれていません。
様々な解釈が可能だと思いますが、鴨は、アーニイが連れて行かれた「過去」は、マンフレッドの精神世界における幻想の過去であり、アーニイはマンフレッドを「使いこなす」ことができなかったのだろうと考えます。そもそも、マンフレッド自身は過去には何の興味も無く、自らの暗澹たる「未来」にのみ拘泥していたわけですから。一方、マンフレッド自身は未来の改変に成功し、彼に取って心置きなくコミュニケーションを取れる唯一の存在であるブリークマンと共に、新たな未来を生きることを選択します。しかし、それが現実世界と地続きの時間線に位置する未来なのかどうかは、誰にも判りません。
こうして、ストーリーのクライマックスでタイム・スリップ(らしきもの)は確かに行われるのですが、それはアーニイの死をもたらした以外、結局何の変化ももたらしません。それまでアーニイに振り回され続けた登場人物たちは、皆事件前の生活に立ち戻り、これまでと変わらぬ生活を続けていきます。地に足の着いた現実に目を向けようと務める、強い意志を有しながら。
ラストシーンは、新たな未来に生きるマンフレッドの変わり果てた姿にパニックを起こして家を飛び出した彼の母親を根気よく探し続けるジャックとその父親、そして彼らの帰りを待ちながら夕飯の支度をするジャックの妻の姿を淡々と描写して幕を閉じます。鴨はここに、「過去を変えたり未来を覗いたりすることは本当に有益なことなのか?」「現在を大切に生きることが、最も重要ではないのか?」という、強いメッセージを感じます。たとえその現在が、取るに足りない平凡なものであったとしても。
SFの枠を拡張して普遍的なメッセージを発し続ける、傑作だと思います。
と言いつつも、いかにもSFらしい、そしていかにもディックらしい緊迫感に満ちた描写、気色悪いガジェット、常人の理解の枠を軽く飛び越えるぶっ飛んだストーリー展開はこの作品でも存分に発揮されており、王道SFとしても充分に楽しめます。マンフレッドが自分にしか見えない未来のAM・WEBをスケッチし始め、その意味に気付いたジャックが愕然とするシーン・・・学校の中で姿を消したマンフレッドを探して全力疾走するジャックに向かって、学校中のティーチング・マシンが一斉に「ガブル、ガブル」と呟き始めるシーン・・・実にサスペンスフルで「絵になる」、映画化したら面白そうなシーンが中盤以降どんどん登場します。物語全体の緩急の付け方やスピード感も申し分無いし、鴨がこれまで読んだディック作品の中でも断トツに読みやすいかと。ディック初心者にも比較的オススメです。
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ディックの諸作品はどれも印象的なタイトルだ。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」や「ユービック」など、どれもインパクトのあるタイトル。そんな中で「火星のタイムスリップ」というある意味ベタなタイトルのこの作品。黒の背景にスタイリッシュなデザインを施した新装版ラインナップにもなかなか入ってこず、どうなのかと思ってました。
が、陳腐なタイトルにだまされてはいけない。傑作!
なんだ、この不安でいっぱいの居心地の悪さにもかかわらず、どうしても読んでしまうこの感覚。まるで本にとり憑かれてしまうようです。
ヤク中の変なおっさんなんて思っててごめん。ディック恐るべし!
この秋はディック祭りだな。
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http://blog.goo.ne.jp/shirokuma_2007/e/a464ad420d7b2f680dde0a7701410fad
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何でこのタイトルにしたんだろう?
確かに火星だし、目的はタイムスリップなのだが、あくまでも副次的な要素でしかないように思う。
まず第一に、全然火星らしくないw
火星的な火星ではなく、完全にもう一つのアメリカ(西部開拓時代の)。
地球からの移民だから当たり前と言えば当たり前かもしれないが、
彼らの関心・心配事はごく普通の(地球上と何ら変わらない)ことばかり。
原住民である火星人も、完全にネイティブアメリカンである。
とにかく、SF小説的な火星では全く無い世界観が描かれている。
そしてメインテーマは自閉症の子の内世界と他者の現実の混濁。
現実の現実性を否定するディックの世界観はやはり秀逸である。
クライマックスの捉え方を色々考えてみるのもまた一興だと思う。
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火星に住んでいるという以外は、普通の人間ドラマでSF星の少ない作品。自閉症の子供が、なぜか未来が見えてしまうという設定で、それを取り巻く大人たちのあれこれ。「設定で」と書いたのは、SF要素はそこくらいなんだけど、結構わかりにくいんだよね、
ディックの作品らしく、キャラクターの立った登場人物に、順々に視点を移していき、誰にフォーカスが合っているのか最初はわかりにくいが、それほど登場人物は多くないので読みやすいだろう。
途中から、マンフレッドとジャックという、自閉症と分裂症の登場人物が、未来を見ているのか、それとも架空の時間軸を行っているのかわからないような展開が出始めた辺りで、まともな読者だと面食らうだろうけど、不思議とそれまでよりも掴みやすくなるのだな。
しかし、ハードなSF要素も少なく、展開は問題なく読めたものの、個人的にのめり込むほどの作品ではなく、「これが好きだ、最高傑作だ」と内容関係なくダラダラ褒めまくる解説にもちょっと面食らった。
ハヤカワの水色版で読んだけど、最近のは新訳だったりするのかしらん。
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表紙が違うけどなー。
読んでるうちに頭が混乱して、こっちが分裂しそうだったので「火星」はともかく「タイムスリップ」は追求しないことにしました。
でも、もしかして新しい土地への開拓団みたいな感じで送り込まれた人たちは(自分の意思で参加したとしても)こんな環境にはあったんじゃないかな?と思うし、護符とか言い伝えとか、馬鹿にできない部分があるのも事実。
なんか背筋が少し寒くなります。
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久しぶりに読んでみたが、感動が薄れた。 初読5だったが3 程度。
あまりに古すぎて設定が古さが気になる。字が細かい。昔の本はこの細かさだったことを改めて実感
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現実との境目が曖昧になっていく感じが好きだった。
三人称の中に一人称があっても混同せずに読める。
人妻っていいよね。セールスマンにおれもなりてぇよ。
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精神分裂病が引き起こす、時間感覚の崩壊。ディック作品おなじみ現実崩壊感の別バージョンな感じ。序盤では描写される火星開拓の行き詰まりがリアルに感じられて面白い。中盤は火星の住民たちと分裂病患者をとりまく人間ドラマが印象的。終盤でタイムスリップがキーとなって物語を飛躍させ、SFらしい驚きの感動を与えてくれる。ディックで一番好きという声が多いようで、確かに他の長編に比べて読みやすかったと思う。ギミックが難しくなく、人物の感情の流れもわかりやすいからだろうか。個人的に自閉症や神経症に縁があるので、そのあたりの著述も興味深かった。
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1964年昨。読んでみた。分裂病は時間感覚が狂っているのだという仮説をもとに、自閉症の少年マンフレッド・スタイナーを中心に、火星の水利組合の代表、〝組合貴族〟のアーニー・コット、その愛人ドーリー、修理技術者ジャック・ポーレンが活躍する。物語は国連の火星投資の前に火星の土地(火星原住民ブリークマンの聖地)を買い占めようというアーニーの試みが中心となる。アーニーは分裂病(自閉症)には時間を自由に操作できると思っていて、マンフレッドの能力で大もうけをしようとするが失敗する。
このほかに、ジャックとドリーの不倫、ジャックの息子ドリーの通う火星の未来学校(ティーチャーマシンでアンドロイドで、エジソンやアリストテレスなど歴史上の人格が移植してある)の記述が興味深い。最後はポーレン夫妻がダブル不倫から家庭生活に安らぎを見いだすという内容。ループ小説のように同じ記述が何度もあらわれるが、精神病の内面世界と関係しているので、なんだかオドロドロしい。
例によってディックだから〝ニューエイジ〟風で、もうこういうのはいいかなと思う。傑作といえるかどうかは疑問。
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電気羊だけがディックじゃない!と思わせる一作。
1964年発刊。その30年後の1994年の火星が舞台。そこには人類が植民していますが、まだ社会基盤が脆弱なために水不足に悩まされていたり、闇取引が横行している世界。他に、人類と共通の祖先である原住民のブリークマンがいたり、ある種の精神疾患を持つ人間は未来を見る事ができるという設定がされています。
これを書いている現在、1994年からちょうど30年経っていますが、いまだに火星に人類が足跡を残していないのが面白いですね。
あらすじは、修理屋を営むミスター・イーのもと、雇われているジャック・ボーレンは、依頼のあるままにヘリコプターで飛び馳せる毎日。ある日、依頼元の酪農場に修理に向かう途中、国連の保護対象である原住民ブリークマンの遭難を知らされます。現場に急行すると、同じく知らせを聞いた火星で絶対的な権力を持つ水利組合長アーニー・コットと出会い、口論を経つつも技術力を買われたジャックはイーとの雇用契約を買い取られて、アーニーの下で働くことに。実はアーニーには、ある秘密の計画があり、ジャックは思わぬ事件に巻き込まれて行きます…
タイトルにタイム・スリップと付いていますが、一般的に想像するものとは異なり、精神疾患者との時間認識の差異を利用して表現しています。そのため、途中でループしているような感覚や現実が崩壊していくような不思議な感覚を覚えます。いろいろな登場人物たちが出てきますが、それらがラストに向かって収斂していく後半は読み応えがあり、ラストのオチも好きですね。
ただ、こういう世界はリアルでは体験したくないです。健常者との時間感覚の差から、他人の喋っている言葉が理解できず「ガブル、ガブル、ガブル」としか聞こえないなんてね…
ところで、作中にブルーノ・ワルター指揮『モーツァルト:交響曲第40番ト短調』が出てきて、久しぶりに第25番とのカップリングCDを聴いています。ディックも好きだったんだなと思いつつ、彼が聴いていたのはレコードだったと思うと羨ましい限りです。
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火星という現実とは異なる世界を舞台にしつつ,現実と虚構の狭間を曖昧模糊とし,我々の現実世界認識自体が如何に曖昧でかつ他者に影響され移ろいやすいものか,突き付ける実験作品と認識する.果たして,精神異常者が世界にとって異常なのか,それを観察する我々が異常なのか….相も変わらず毒の強い,読者の精神を抉る作品である.