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六編を収めた短篇集で、うち四編が今はなき学研の学年誌『中三コース』に昭和44年から46年に連載されたジュブナイル・ミステリーである。連載誌のカラーに合わせ作者お得意の濃厚な情事は描かれないし、おなじみの救いのない結末ではない。うち三編では中学生が探偵の役割を果たしている。連載分をそのまま載せたのか、ふりがなが多くつけられているのも特徴。中学生向けといってもそこは小説職人の森村誠一だから、大人が読むに堪える水準は維持されていて、いずれも最後にどんでん返しを用意している。それにしてもいろんな仕事を引き受けていたのにも驚くが、この時期の多作ぶりは鬼神のごとくである。しかも六編とも独自のトリックを下敷きにしているのが見事だ。
『雪の湖殺人事件』は『女性自身』誌、『545M列車の乗客』は『日刊スポーツ』に共に昭和46年に書いたものだが、いずれも企画ものだったのか読者に真相を問う趣向である。前者はなんなく分かったが、後者は時刻表トリックなのだが状況説明が微妙ですっきりしない解答だった。いつもの毒こそないが、ひねりを効かせた短篇集である。