紙の本
心のおもむくままに生きること
2002/10/06 17:55
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投稿者:Yan - この投稿者のレビュー一覧を見る
13歳で王位を継いだアルヴィドは心に闇を持ち、人間不信、不眠症
こんな簡単な病名だけでは言い表せないような深い悩みを持った少年でした。
彼が王として自覚を持つために、先生のヴェームンド師が考えたのは
王の鞭打ち。でもそれには身代わりの少年を使うということでした。
身代わり少年ヘルガが鞭打たれるときにアルヴィドが感じた強い絆
これが最後には血の絆だったことがわかるのですが
王として生きるより、普通の人間として心のおもむくままに生きることを願った
アルヴィドと、同じく回りに左右されない自己を持ったいとこのエンゲルケの
最後の会話がすばらしい。
また、一日だけの道化の王としてふるまったヘルゲの沈着冷静さに
本物の王としての素質を感じました。
占星術によって予言されたエリシフ(エンゲルケの妹)の王妃としての未来は
結局ヘルゲとの結婚、ヘルゲの即位、アルヴィドの王位からの解放
ということで終わるのですが
わたしは、なるべくしてなったという気がします。
一日が鳴り響く鐘の音で始まり、終わった時代
鐘の音に自分の人生を左右されていると感じた若者の心に共感しました。
自分の意思より先に、生まれや地位によって立場が決まってしまう
過去の時代に、自己の目覚めに悩んだ若者たちの姿が
新しい感覚で書かれていて、どきどきしました。
「ぼくは木の葉だけど、風でもあるんだ。
木の葉は風に、どこへ運ぶのかとたずねないし
風も木の葉に、どこへ行きたいのかとたずねはしない。……
つかまえることはだれにもできないよ」。
心のままに生きていくことを決心したアルヴィドの言葉です。
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昔からずーっと家にあったけれど、
マリア・グリーペだけど、
表紙になじめず、はじめて、箱からだした!
自分の立場と性質のギャップに苦しみ、
誰にも心を開かない、若く、繊細なアルヴィド王のもとに、
王の身代わりでむちで打たれるものとしてやってきた、
貧しい出のヘルゲ。
ふたりは、ある時を境に、心が通じるのを感じるが・・・
人間とは。
人がその生を果たすのに、
大切なことは、必要なことは。
アルヴィド王は苦しみながら、
ヘルゲはまっすぐに意思をもって、その普遍の問いへの
それぞれの答えをみつけていく。
その過程を、
心の動きと、直感としか説明できないような人間の能力を
紡ぐことで、描き出す。
重厚で風格があり、
そして、ああ、なんて、なんて、ロマンチックな
物語でしょう。
世間のざわめきから隔てられた静寂な城の中の
鐘の音、小鳥の鳴き声、風の音、ベルの音などが、
主人公たちの心に届くのと同じように、
私にも、聞こえてきました。
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次の読書会の課題図書、読み始めると止められなくなり、一気に読みあげてしまった。
スウェーデン児童文学。
それぞれの登場人物の描き方に心惹かれる。様々な立場の人達の心情が静謐な言葉で表されてて、清々しい気持ちになる。
純粋な恋愛のくだり、惹かれ合う姿にうっとりする。
主人公は神秘主義に強くひかれていて、本当の神は言葉ではあらわせない、理知や信仰を超えた人間の魂と神との合一を得ようとする、普遍的な悟りの事が描かれている、ラストの言葉が哲学的。
子どもが成長していく、自分は何者か探求していく、それは大人の方が夢中で読んでしまう。
読書会のおかげで様々なときめく本に出逢えて感謝。
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13歳という若さで王座につかねばならなかった悲しみの王、アルヴィド。
華やかな城の暮らしに惹かれ、王にへつらう宮廷の者達の中で孤独に、眠ることすらできない。
国民からもこの期待に沿わぬ若い王は避難されている。
朝焼けの前のほんのひとときが、王の心休まる時間。シャム猫だけがアルヴィドの友。
武術にも、勉強にも身が入らないが教師である、修道士ヴェームンドが与えた書物から、アルヴィドは哲学や現代の思想を自分のものにしていった。とりわけ、神秘主義の世界に惹かれていた。
この、思想家の王の真の美しさにとにかく魅了されました。国民たちを悲しい目で見るのも、アルヴィドの愛が広くをみすぎていたから…
そこへ、アルヴィドの鞭打ちの身代わりという役目に首切り役人としていちもくおかれたミカエルの息子、ヘルゲが宮廷に迎えられる。
ヘルゲとの出会いから、物語は一変していく。。
これは、素晴らしい本だった。鐘の音が鳴り響く、暗く寒々しい城と、夜の美しい庭。星。月。
象徴的なゴブラン織りや、絵。
中世の得体の知れぬ闇や湿り気にどんどん引き込まれ、特別な読書体験をした感覚で、今もある。
なんとも美しくロマンチックでもあり。。
ラストは児童文学らしい終わり方だったし、本当に心に残った。まるで18歳の頃の自分にと戻ったような手応えある読書の時間だった。