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「1」という数から「2」という数となるとその性質はガラッと変わる。「1」は単数であり「2」以上は複数。単数はそれが消えたり失ってしまえばそれまで。複数であればそうした事態に陥っても「残るもの」はある。しかし多数を維持するコストというものもあり、複数の最も小さい自然数が「2」。こうしたことを考えて「2つ」という数は日常において最も選択されやすい数字ではないだろうか。例えば、日常使っているものの予備を確保しておくことはその物を「2つ」所有することになる。この状態は完全に安心するというわけではないが、先述のコストとの兼ね合いから納得のいく状態であろう。しかし、どうもこの「2」という数は「安定」という観点からみると決して有用な数字ではないのではないか。そう考えていた矢先に見つけたのが本書である。
2つか1つかを選択する場合において、「安定」という観点からみれば「1」という数字に軍配が上がりやすいように思う。これは「邪魔するものはいない」という安定であろう。当然これは至極危険な考えで、当該対象に暴走を許すことになるし、それがコケれば後釜はいない。そこで二つのものを対立させることによってシーソーのごとく安定を図るという発想が生まれてくるのであろう。しかしそれは両者の重さが拮抗している場合にのみ言えること。片方が弱ければ実質的な独占となる。そこで「3」という概念。両者ともに選択できないのならば「第三の選択」。両端の安定性が極まっていないのならば「三つ巴」。「三大なんとか」や「ホップ・ステップ・ジャンプ」などなど。すべてが「3」に収まるとは言わないが、まとまりのある概念であるということは間違いないのではないだろうか。
こうして「複数」というものを考えてみると「単数」という概念についても考えが深まる。「かけがえのない」あるいは「唯一無二」といった形容詞が付けられて然るべき物事にはいかなるモノがあるか。そこから自分が今何をどの程度必要であり欲しているのかも分かるような気がする。さらに、思想というものは「正しいか否か」よりも「有用か否か」に価値があるということもいえるのではないだろうか。