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ユング心理学には、社会学者のマックス・ウェーバーにも匹敵するような方法論が存在しているという、著者の主張をまとめた本です。
著者は、ウェーバーの「理念型」をめぐる議論が、認識は主観的なものでしかありえないとすれば、どのようにしてわれわれは客観的な世界像へと至ることができるのかという問題に答えるものだったと主張しています。事実をただありのままに記述するといっても、記述する者の観点によって一定の事実が選択され、何らかの再構成を受けざるを得ません。そこでウェーバーは、認識の客観性とは認識主体が価値観点を棄てることによって得られるのではなく、むしろ特定の文化的観点にとって本質的な特徴だけが選び出されたものだということを明瞭に自覚するかぎりにおいて保証されると考えました。
こうしたウェーバーと同様の方法論が、ユングの元型論などにも見られると、著者は主張します。ユングの考える元型は、さまざまな現象の中から共通の特徴を析出し抽象して純粋型をつくりあげるという、理念型の方法にしたがって考案されたものだと著者は述べます。そして、われわれの心の働きが、何らかの価値を前提としていることを承認し、明瞭な自覚にもたらすことが、彼の目標だったと論じています。
さらに、同様の観点から、ユダヤ人の特異性を指摘するユングの議論が、けっしてナチズムに迎合するものではなく、むしろユダヤ人差別の生じる理由を自覚することで問題解決の道をさぐろうとしていたという考察がおこなわれています。
率直な感想としては、「方法論」と名乗るほど大げさなものではなく、心理に関するメタ認知的な内容を「大母」や「賢者」といった概念でシンボライズしたといった議論ではないかと感じました。