紙の本
そんなに固ゆでじゃないけどユーモアとプロットの巧みさが楽しい秀作PI小説
2000/10/19 02:25
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投稿者:松谷嘉平 - この投稿者のレビュー一覧を見る
■リューインの処女作にして、アルバート・サムスン・シリーズ第一作にあたるパズラー的PI小説。
▼サムスンの元を訪れたのは16歳の少女。彼女の依頼は自分の生物学上の父親探して欲しい、というもの。最近になって、母親がO型、父親がB型であることが判ったのだという。それが確かであれば、A型である彼女は彼ら二人の子供であるはずはない。
■中心の謎は、勘の良い人だったら解けると思う。上手く騙されれば、もちろん存分に誤誘導されて、真相にアっと驚くでしょうし、判ったとしても副次的な謎や、巧みに張りめぐらされた伏線といった、緻密な構成、またストーリー転回の妙を楽しむことができるでしょう。
■何よりもサムスンのキャラクタが魅力的。彼の一人称は結構、心情を素直に吐露していて、あんまり固ゆでではありません。警句めいた表現が頻出するのは、典型的なPI小説の叙述ではありますが、変な気取りや飾り気がないし、ウィットに富んでいてユーモラス。
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いわゆる「ネオ・ハードボイルド」というのは一応読んだ気になっていたけど、実はマイクル・リューインについては読んだ気になっていただけのようで、独特な手触りにちょっと驚いた。
地味に人々の間を質問し歩いているうちに、大きな構図が見えてきて、それとともにサスペンスと感動が押し寄せてくる、というのはお約束通り。図書館に行って情報を集めるとか、友人に情報提供を頼むとか、もう本当に地味である。地味といえば、主人公である探偵も。それなのに読まされてしまうのは、「たぶん同じ状況になったら自分も同じ行動をとると思う」って感じるからだろう。ごくふつうに人間による、犯罪捜査の話なのである。
が、それだけでとどまらないのは、結局主人公を突き動かすものに、自分があこがれと共感を感じるからだろう。前半で感じる「彼は自分だ」という感覚と、後半の彼の判断が微妙にずれてきて、「自分は彼だろうか」と思わざるを得なくなる。
実は、前半やや飽きてしまった。でも、それを補ってあまりある後半だった。
2005/8/17
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翻訳が古すぎて物語に入り込めない。
仕事のない私立探偵の事務所にちょっと変わった依頼を持って依頼人が来るところから物語は始まる。依頼人は15歳の少女なのだが、探偵が彼女にかけた最初の言葉が
「さあ、かけたまえ」
意図とは違うのだろうが、どうしても空威張りしているようにしか読めない。他の訳も万事こんな感じ。
ちなみに、これってハードボイルドなんだって気が付いたのが後半に入ってから。それまでは翻訳者がやる気がなくて直訳をしているんだと思っていた。
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アルバート・サムスンシリーズの1作目。
今までなんとなく気になっていたシリーズだったのだが、何故かずっと手にしていなかった作品。
アメリカの私立探偵ものの中では、実に普通の男のサムスン。
金持ちの妻と別れ、幼い娘がいるのだが妻はもう再婚して、世界中を旅してくらすような優雅な身分。
自分はドアに鍵もついておらず、バスタブがない部屋をオフィス兼自宅としている、ちょっと貧乏にシフトした生活。
拳銃も持たず、なにかトリッキーな技も持たず、実に地道に人々に話を聞いては依頼をこなしていく。
そんな彼の生活ぶりなどが鮮やかに描かれています。
この第1作目は、サムスンの元に可愛いお嬢さんが依頼人としてやってくることで始まります。「あたしの生物学上の父親を探して」。
大富豪の娘が学校で血液型の検査をしたところ、父親と母親の血液型からは自分は産まれないとわかったというのだ。自分はA型。母はO型。父はB型。ということは、自分は父と母の子ではないということだ。
大富豪の遺言にまつわる、家系の謎。陰謀。
出だしの雰囲気からするととても想像がつかないようなラストが待っています。
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ペテロの葬列の解説にあったので読んでみた。
主人公の特に取り柄のない普通の私立探偵アルバート・サムスンが、杉村三郎に通じている。
いかにも翻訳調な点と年代が古い(文庫の初版は1991年)のが気になったが、全体としては普通の人が推理して真相にたどりつくところに面白さがある。
ただ個人的には、シリーズを続けて読むよりは、宮部作品を読む方を選ぶだろう。
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お願い、わたしの生物学上の父を探して―。閑散としたオフィスに突然飛び込んできた少女にサムスンは面食らった。大富豪クリスタル家の一人娘が、血液型から自分は実の子ではないことが判明したと涙ながらに訴えるのだ。さっそくクリスタル家の系譜を探り始めたサムスンは、こころならずも名家の巨富をめぐる醜悪な争いに巻き込まれてゆく。暴力を憎む心優しき知性派探偵アルバート・サムスン、文庫初登場。改訳決定版。
約30年ぶりに再読。幕切れは記憶していた通りだった。池上冬樹氏の解説を読むと、同時代の懐かしい私立探偵たちの名前が並ぶ。今や現役はマット・スカダーぐらいか。
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「私の生物学上の父を探してほしい」と依頼してきた大富豪クリスタル家の娘、エロイーズ。
読書とオレンジジュースが好きな私立探偵アルバート・サムスンは条件付きで依頼を引き受けるが……。
記念すべきシリーズ一作目!→
最新作「父親たちにまつわる疑問」がとても好みだったので一作目から読み始めてみたら……おお!当たりだよ!サムスンのキャラにブレなし!(いや、若さ故の暴走はあるかも?)
エロイーズも良き。リューインの描く少女、良き。静かな流れながらラストはしっかり驚く展開。最後はしんみり。→
原書は1971年発行なんだけど、古臭さはほぼなし。新訳版が1991年だけど今読んでも違和感なし(常識は変わっているので、むしろその辺りは楽しめる)
ただ、タイトルがなぁ……笑。血液型の本みたいなタイトルが残念。血液型がキーワードだけど、違うんだよぉってなる。今だと違うタイトルになりそう。