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何となく手にとって再読。
何かをやろうという意気込みは十二分に伝わってくるのだが、奥ゆかしいお人柄なのか迫力ある説得力(あるいは強引な主張というべきか)があまり感じられないのが惜しい。
学者には思い込みと冷静さのバランスが大切だと考えるのだが、阿部さんはどうも冷静さが優っていて、素人である当方のような読者からすると「で結局どう主張したい?」と問いかけたくなるんですよ。
差別という着眼点が見事で独創的議論も展開されているように思うのだが、詰めが甘いというか何というか、、、
まぁあくまで当方の独断と偏見ですのであしからず。
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これまで阿部謹也氏の本は何冊か目を通しているが、これも大変興味深い考察にあふれていて、読みがいのある本だった。
中世ヨーロッパにおいて、楽師とか刑吏など、差別されていた職業があることは知っていたが、なぜそうなのかという原因にはなかなか思い至らず、それを中世人の宇宙観から解きほぐしてゆく過程は刺激的でスリリングだった。
また、キリスト教がいかにしてゲルマン文化を駆逐していったのかにも触れられていて、これも興味深い考察だった。
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中世ヨーロッパ史の泰斗?の論文・講演集でハーメルンの笛吹き男伝説や市民の自伝から当時を紹介している。後半が本題で死刑執行人、道路清掃人、皮剥、楽士、娼婦など一部の職業が差別された社会的背景を考察する。著者のメインテーマだけに想いは伝わるものの記述には舌足らずな感があり分かりづらい。マイノリティな能力に無知故に畏怖し、差別するようになった、と読んでいいのだろうか。余談ながら解説には我田引水の感あり。
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ハーメルンの笛吹き伝説は、比較的歴史の浅い実話を下敷きにしているため、本書で説明されるように由来や変遷がよく分かります。世の様々な民話、説話、伝説にこのような来歴が隠れていることを想像させてくれます。
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1991年刊(収録論文の初出は1972~90年)。著者は一橋大学社会学部教授。
欧州、とくにドイツ中世史を専門とする著者は、民衆に差別・蔑視が生まれる淵源を問い続けてきた。
宗教を異にするユダヤ人は勿論、死に直接的に関わる刑吏等がその淵源と例示されるが、本書の論考をつぶさに見た場合、差別の淵源とは対象への「怖れ」と言いうるだろう。
もっとも、これらの論考をヨーロッパ全体のそれと同視することには躊躇を覚えないわけには行かない。
確かに、ドイツ(とくに北部)においては、本書に掲げる事情に依ると見るのはさほど難しくはない。同地域の具体的史料を根拠としているからだ。
しかし「プロト工業化の時代」などで著されているように、欧州といっても、社会・経済分野では地域差が相当ある。
たとえ刑吏の如く、どの地域でも職務と死との関わりが共通する職の場合、あるいはユダヤ教の如く、神への信仰方法に関して多数派であるキリスト教信者との差が明瞭ならば兎も角、単に「怖れ」「畏怖」という人間の心理状態を切り口とするならば、地域差・時代差を大きな考慮要素とせざるを得ない。
本書に挙げるような種々の職種が、欧州全体において被差別民として妥当していたと言い切るには、史料範囲の限界を想起せざるを得ないのだ。
さて、欧州史はもとより、世界史にて、地域毎の特性を考慮に入れて議論されることは多くない。もちろん、研究の最前線は「アナール派」の存在を出すまでもなく、別儀であることは判っている。
とはいうものの、政治史であれば兎も角、80年代からフィーチャーされてきた社会経済史の分野において、本書は、歴史研究者以外の一般人に対し、地誌を中核とする地域特性を重要視すべきことに気付かせてくれるのだ。
とはいえ、そもそもその地誌が自分の頭に入っていないのだが…。
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阿部謹也の初期作品。ハーメルンの笛吹き男伝説や刑吏など賤民差別の構造、小宇宙と大宇宙などの問題が書かれている。
後期ほど洗練されていないが、問題意識が明確であり、とても知的に刺戟的でかつ読みやすい傑作。