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それまで歴史の表舞台には現れなかったスウェーデンが初めてその存在感を示した30年戦争。
彗星のごとく現れたグスタフ・アドルフとオクセンシェルナの野望はついえたが、
戦勝国であったスウェーデンがその後衰退した原因は、女王クリスチナにあったのだろうか。
グスタフ・アドルフの一人娘として生まれた彼女の一生は性急だ。
7才で後を継いでスウェーデンの君主となり、18才で親政を開始。
22才で30年戦争の終結を主導し、24才でデカルトの最期を看取り、28才で退位。
29才でプロテスタントからカトリックに改宗してローマに隠遁。
その後63才で没するまで、その新奇で微妙で唯一の立ち位置を時に利用し、時に翻弄され渦中を生きる。
誰に請われるでも望まれるでもなく自ら退位の道を選び、
かつ直前まで争っていた敵対宗教に改宗する国家君主など、
現代においてすら想像するのが難しい。
それは当時の国家情勢や政治状況から察せられるものではなく、
完全に個人の意志によって成し得たものであったがゆえ、
彼女の人生を物語として捉えなければ到底理解しえるものではない。
そして本書は、それを成し得る唯一の本だろう。
ただでさえスウェーデン関連の歴史書籍が数えるほどしか出版されていない本邦において、
当時の文化風習から政治・経済状況、女王の幼年期の生活から交友関係をつまびらかにしつつ、
一人の女性の類まれな物語として成立させている。
英雄でも暗君でも、善人でも悪人でもないバロック時代の元女王の一生とは。