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中国のイスラムというと回教の事をさすが、本家イスラムよろしく中国回教にも様々な教派が存在する。(一時期ニュースでもスンニ派とかシーア派等の単語が飛び交っていましたね)本書は中国回教の中でもスーフィズムというイスラム神秘主義を信条とするジャフリーヤ派に焦点を当てた一冊である。
まず全体を通してその情報量と調査内容に圧倒される。そもそもジャフリーヤ派の詳しい史実は調査が難しく、本家中国の回民にもあまり知られてない事もある。その中でこれだけの歴史と宗教的知識をまとめた著者と編訳者には並大抵でない努力があった事だろう。
さて、内容が内容なので興味を持つ対象は限られる・・・と思いきや本書は中国回教というマイノリティのさらにマイノリティであるジャフリーヤ派という一教派を取り扱っているにも関わらず近代中国史における重要な示唆を数多く盛り込んでいる。この事は編訳者もあとがきで指摘している。
昨今でも共産党政府によるチベット族に対する政策をはじめ、中国内宗教政策に関する多くの問題が起きているのは周知の事実だ。だが中国における宗教政策、もっと行ってしまえば少数民族に対する政策問題は昨日今日に限った話ではなく非常に根が深い問題だ。本書はジャフリーヤという題材を掲げつつ中国政府が歴史的に抱える宗教政策、果ては民族政策上の問題を浮き彫りにしている。
チベット族の問題等をきっかけに「チベット族以前の中国における宗教・民族問題」を知るうえで本書は有用であろう、また同時に回教ジャフリーヤ派における歴史や伝承を知るのにも当然有用である。
イスラム系そのものに言える事だが、イスラムの歴史は非常に(言い方が適切かは分からないが)ドラマティックなモノが多く感じる。本書においても馬化龍によるアタイトゥの件は宗教意識を抜きにして感動的だと思える内容である。
ジャフリーヤはスーフィズムという特性上、タリーカ等の秘密主義的な謎に満ちている部分がある。同時にシャリーアを批判する姿勢から非常に厳しい信仰を要する部分がある。その神髄は信仰を通して自己を高め、イスラムの神でるアッラーっと一体化するというヨガや仏教系密教等にも通じる壮大な思想を描くところに強い神秘性を感じる。
イスラム、中国近代史、民族政策等のキーワードに合致する人は読んでみて損は無い一冊だろう。