紙の本
家族とは何か
2006/04/29 18:31
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:つな - この投稿者のレビュー一覧を見る
何とも刺激的な「心臓を貫かれて」というタイトルに、心臓を描いた表紙。ここでいう、「心臓を貫かれて」とは比喩表現ではない。実際に、著者マイケル・ギルモアの兄、ゲイリー・ギルモアは「心臓を貫かれて」死んだのだ。
モルモン教においては、かつて「血の贖い」と呼ばれる一つの教義があったのだという(ただし、近年に至っては、モルモン教会はこのような解釈を否定している)。
”もし人が命を奪ったなら、その人の血は流されなくてはならない。絞首刑や投獄は、罰としても償いとしても十分ではない。死の方法は、神への謝罪として、地面に血をこぼすものでなくてはならない”(P43より引用)
著者の兄、ゲイリー・ギルモアは、二人のモルモン教徒の青年を殺害し、死刑宣告を受けた。おりしも、時代は死刑制度を復活させたばかりであり、更に犯罪の舞台となったユタ州は、死刑復活の法案をいち早く通過させた最初の州のひとつだった。
ゲイリー・ギルモアは現代アメリカにおいて、時代を代表する犯罪者の一人であり、彼の生涯はベストセラー小説の題材となり、テレビ映画にもなったのだという。この現代において、人を二人殺したからといって、(それは勿論大変な事ではあるけれど)稀代の犯罪者となるわけではない。ゲイリーが有名になったのは、罪科の故ではなく、自らの処罰決定に彼自身が深く関わったから。
ゲイリーは死刑判決に対して上告する権利を放棄し、刑の執行を望み、望みどおりに銃殺されたのだ。日本で言えば、池田小児童殺傷事件の宅間守を思い出す。彼らの望みどおりという意味で、「死刑」は既に罰ではなく、合法的な自殺であったとも言える。
さて、本書はこのゲイリーの実弟マイケルが著したものであり、なぜゲイリーが殺人を犯し、銃殺刑を望むに至ったのか、彼らの両親の育った環境まで遡って、丁寧に辿られる。年の離れた兄弟であったゲイリーとマイケルは、その生活環境や少年時代の家庭環境においてもかなり大きな隔たりがあり、マイケルはこの本を書くことによって、家族を取り戻したのだとも言える。たとえそれが、おぞましく暗い家族であったとしても。
そんなわけでこの本には、死刑制度の問題や家族の問題、虐待の問題、家族における秘密の問題、宗教の問題など、どれをとっても重いテーマが含まれている。
人は怪物になることが出来るし、怪物を作り出す事も出来る。しかもそれが、本来守られるべき、憩うべき場所である家庭で起こることもしばしばあるのだ。「怪物」といっても、それはわたしたちとかけ離れた存在ではない。
”でも残りの僕らは、最終ページのまだその先まで、人生を生きていかなくてはならない。その人生の中では、死者達の残した波が収まることは、絶えてないのだ”(P547より引用)
わたしたちの人生は死のその瞬間まで続く。本書を読んだ事で、自分の中にも一つの波が出来たように思う。
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著者の幼少時代の家族背景とその実兄が殺人者になるまでのストーリー500ページ以上にも及ぶノンフィクション。村上春樹翻訳。「ある種の精神の傷は一定のポイントを超えてしまえば人間にとって治癒不能なものになる、それはもはや傷として完結するしかないのだ。」重かった。
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アメリカで暮らして、また違う角度から読むことができた。
この国に渦巻くどす黒い怒りが間違った形で噴出してしまった結果の事件なのだろうが。このマイケル ギルモアに結びつくのが、Almost Famous(映画)とジェイムズ エルロイのわが母なる暗黒。
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血は流されなくてはならない。アメリカで本当にあった殺人事件を、犯人の弟が本にしたもの。長かった。いかんせん長い。でもいい。
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今となっては日本でも残虐な事件が多発し、各方面で分析や評論がなされていますが、発売された当時はかなりの衝撃でした。文体が少々大げさで、暑苦しくもナイス。
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ひとつの物語を語りたい。
殺人の物語である。肉体の殺人であり、
精神の殺人の物語である。
僕はこの物語に出てくる
死者たちの事を知っている。
彼らがなぜ他人の死を作り出したか、
なぜ自分の死を求めたのかをしっている。
ここから立ち去りたいと望むのなら、
僕は自分の知っていることを
語らなくてはならないのだ。
だから、さあ、話をはじめよう。
僕の兄は罪のない人々を殺した。
名前をゲイリー・ギルモアという。
プロローグより
弟が書いた、虐待の連鎖の話です。
本人があがきながら、必死に道を探している。
苦しみが伝わってきて、やるせない本です。
「『心臓を貫かれて』を訳したことによって、僕が
1人の人間として学ぶことの出来たものは数多くあった。
予想を越えて数多くあった。
……
この本にはなにかしら心に深く染みつくものがある。」
訳者、村上春樹談
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かなりハードな本です。勿論ページの厚みじゃなくてね。きついです。でも、一気に読みました。言える事、言わなかった事、そうして思う事、決めた事。家族それぞれ人生があります。簡単な本ではありません。表現や言葉が難しいという事ではありません。長過ぎるという事でもありません。簡単ではないのです。
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人生が変わった作品。
どうにもこうにも読みにくく、3分の2くらいは苦痛だったけど、最後の3分の1で本当にこの本のすばらしさを思い知らされる。
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道路に面した白くてぼろい家のドアにある網戸の奥が暗い廊下。右手に奥から上がる階段がある。強いイメージ。
発売当初に読んだが、強く、本当に暗く、それでいて読むことをやめられない作品だった。
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4人の息子と父と母、その壮絶たる生き様が、
この1冊の本になった。
愛情の表現一つとっても、
やり方を間違えれば、暴力にもなる。
間違った愛情を受けながら育った子供は、
さらに間違いを重ねる。
死と隣り合わせに生きた、この一家から受けた衝撃は、かなりショッキングであり、
考えさせられる要因となった。
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殺人事件だとかに関心のあった、お馬鹿な子供だった頃読んだ本。
何気に村上春樹が翻訳しているし。何が原因で殺人を犯すのか、なんてはっきりした理由は結局誰にも分からないんだけど、なんとなく分かったような気持ちにさせてくれる本。
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自ら望んで銃殺刑に処せられた殺人犯の実弟…。
兄と家族の血ぬられた歴史、
残酷な秘密を探り、
哀しくも濃密な血の絆を語り尽くす。
全米批評家協会賞受賞。
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激しい暴力とあがらえない大きな力について。
愛を求めるたび暴力で報いられる。美しい理想を持って望まれ、暴力を持って作られ発展したアメリカ合衆国という国そのもののような小説。
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これを手に取るにあたって多少の覚悟を感じた。
しかし避けては通れぬ道だとも納得している。
なにはともあれ、辛く悲しく、そして絶望的な絆を描いたマイケル・ギルモアの強い精神に尊敬する。
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何度も読み通したい本ではないけれど、何度も読み返したい本ではある。
j結構なボリュームで読み通すのにも体力や気力が必要だけれど、
読む価値がある。価値観が変わる、とまではいわずとも
人間のある種の側面について見方が変わる、かもしれない。
村上春樹はトラウマのクロニクル、というふうに評しているけれど
確かにそうだよね。
幽霊話がいろいろとでてくるけども、そういう表現(あるいはそれは事実なのだろうけど)
が必要とされる意味がよくわかる。