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とにかくすごい。すばらしくいい。こんなふうに泥んこに生きたいと思った。そして、ここまで史実を追った著者もすごい。ボリュームあるけど、繰り返し読みたい一冊。私のバイブルです。
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宮本常一著「忘れられた日本人」井出幸男著「『土佐源氏』の成立」と読み進んで、「土佐源氏」を辿るにはこれを読了せねばなるまい。順序としては「『土佐源氏』の成立」の前に読むべきだったが。宮本常一と、彼を支え続けた渋沢敬三を中心にした評伝であるが、民俗学という新興学問が歩んだ道のりも併せて描かれ、明治から高度成長期におよぶ日本近代史の一面を鮮やかに描く。民俗学という産声を上げたばかりの学問が、軍国主義に支配された日本の中でどう翻弄され、利用されていったか、それだけでも半端なサスペンス小説など吹き飛ぶほどのスリルがある。利権を巡って怪しげな人物が跋扈する闇の世界がそこに確かにあったのである。
佐野氏の取材の有りようは、まさに宮本のそれと違わず、宮本の訪れた土地を巡り、彼と接触した人を探し出し、話を訊いていくというものだ。宮本と出会った人が悉く強い印象を抱き、ほんの数回の邂逅の様子を事細かに覚えているというのは、いかに宮本が特異な人物であったかを物語っている。
尤も、本著は宮本常一を学術的に検証する性格のものではない。宮本・渋沢に対しては大いなる敬意の情が溢れているのに対し、彼らと対極をなす民俗学者柳田国男の冷淡な描かれようは客観性に欠けるように思えた。
それともうひとつ。宮本が「土佐源氏」執筆のきっかけのひとつであったろう、女性問題についてである。アサ子夫人から宮本へ宛てた書簡にその女性の実名があったから、その人を捜し出すことは可能だったはずだ。佐野氏がその女性には全く触れていないのは何故か。アサ子夫人への、あるいはその女性たち(複数いたことはアサ子夫人が述べている)への配慮があったものか。たとえ匿名でも、彼女たちの目に映った宮本像を知りたかったと思うのは私だけではないかもしれない。
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日本の資本主義の父と呼ばれた渋沢栄一を継承した渋沢敬三と柳田国男以後の民俗学最大の巨人といわれた宮本常一を巡るノンフィクション。
第一勧銀頭取-大蔵大臣-日銀総裁にまでなりながらも民俗学への深い造詣と徹底支援をした資本主義の巨人「渋沢敬三」、人生の生涯を16万キロ(地球4周)を徒歩での調査旅行に費やした旅の巨人「宮本敬三」。そして渋沢と宮本が愛してやまなかったかつての日本の山村、漁村の個性的な民俗/しきたり/智慧がもはや解体されまくって継承がおぼつかない現状にこの半世紀で得た物も無くした物もでかいなと。
渋沢敬三は戦後財閥解体などで財産をしなっていくのですがその際のニコニコわらって没落する「ニコ没」は名言。
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佐野氏が民俗学の2人の巨人の人生に迫ります。小淵伝に似て双方の祖父から始まり、3代の人生。2人の幼少期のトラウマ。そして大家とされるまで。渋沢の栄一の孫として生まれたばかりに動物学者の道を断念し、銀行家の道を歩まざるをえなかった無念の人生が、学者へのパトロンとしての人生!しかし、バンカーとして人を活かす目を持ち、後の頭取となった問題社員を蘇らせた逸話。その食客として数十年、無職で日本各地を歩いた宮本。宮本の著書「忘れられた日本人」そのものの2人の爽やかな人生に読後すがすがしい感動があります。そして日本の近代化へ向けての社会の変遷をさらりと批判する佐野氏の筆にも感心です。
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久しぶりに濃密な素晴らしい本に出会った。裏打ちされた膨大な資料がなければ、このノンフィクションは書けなかったと思われる。
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田舎に住むようになり、またハンターとなって山に入るようになってから、地方やその集団に残る風習や意識、行動原理に深く興味を持つようになった。そういうのを総称して民俗学と言うらしいので、これらの本をいろいろ読んでみようと思ったのの第一弾。民俗学の巨人と言われる宮本常一とそれを支え続けたパトロンである渋沢敬三の評伝である。
宮本常一の代表作である「忘れられた日本人」はパラっと読んだ事があり、その中でも「土佐源氏」のあられもないエロ懺悔は鮮烈に記憶に残っているが、それらの口述が"旅と洞察の天才"である宮本常一によっていかに紡ぎだされ、そしてその宮本常一を30年にわたって食客に迎え入れ人材開発した渋沢敬三の懐の深さが伝わる評伝だったと思う。
辺境や弱者へ目を向ける姿勢、農村や漁村を日本人の基礎的な要素と捉え育んでいく行動、これが宮本と渋沢の主題であったのだと思うが、今後日本が成熟した民主主義国家になっていく上でもまだまだ重要な要素のように思えてならなかった。
佐野真一は昨今は盗作騒ぎでいろいろ言われはしたが、やっぱりおもろいテーマを選んで書いているなぁー。
しばらく民俗学関係の本を読み漁ってみたいと思います。
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宮本常一のことはいろんなところで引用されたりするのを読んでとても興味を持っていたけれど、彼の生い立ちや、その研究活動の背後にいた渋沢敬三とのかかわりはまったく知らないでいた。シアトル滞在中のひょんなつぶやきからおすすめしてもらって読んだ、すごくよかった一冊。
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1996年刊行。柳田國男とは別の意味で、日本の民俗学を開いた宮本常一、そして、彼を物心両面で支えた渋沢敬三。対照的な出自を持つ二人の来し方を丹念に描写した秀作である。「旅する巨人」というタイトルにふさわしい宮本だけでなく、彼を見出し、かつ短兵急に成果を求めず、その旅を支え続けた渋沢もまた巨人である。本書は、彼らの家族関係や、民俗学の一方の雄である柳田國男との関係も織り交ぜながら、両名の人生航路を見せる。久々にゾクゾクしながら読みすすめた評伝。今、彼らのような人物を見出すことはなかなか難しいのではないか。
今西錦司が宮本を心から評価していたことが伺える件は、さもありなんと思えるし、それだけでなく、何も言えずほほえましい気がしている。
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なかなか切ない話であった。過剰な生き方をせざるを得なかった人は、何かを切り捨てる。
優しい生き方をした人は、辛い人生を送ったからこそ、優しくなれるのかもしれない。
人間が完璧ではないということを、教えてくれる1冊のように思う。