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ウチの子が音楽に興味を持ち出した関連で、いろいろ調べていると、「ソルフェージュ」という言葉に多く出くわす。
音楽の世界にまったく無知な自分のくせに、なぜかこの響きが懐かしい。と不思議に思っていたら、この本の著者、大村多喜子さんが創設した音楽教室の名が、「ソルフェージスクール」だった。
一昨年亡くなった、「ジュリアード初の日本人留学生」は、実は私の親戚に当たる方である。この本を書かれたのは、夫である建築家、吉村順三氏が亡くなってまもなくの1997年だが、恥ずかしながら最近まで読んでいなかった。
内容は、戦時中の日本の事情(しかも、庶民のではなく、上流階級の)と音楽関係のものが多く、これらの分野に詳しくないと前半は読むのに退屈する部分も。が、若くして単身留学し、新しい文化に触れて刺激を受ける様子や、帰国後の自分の進む道の葛藤などは、時代は違ってもやはり強い女性の姿であり、共感できる部分が多い。バイオリンの才能については、正直、天才と言えるほどの実力があったのかと言うと、バイオリンを習えるような家庭がほとんどない時代に、留学までさせてもらえるような恵まれた環境にあった、ということが大いに味方しており、実力で運を勝ち取った、的な成功物語要素は少ない。しかし、そういったことが、逆に、演奏家としての道を歩む代わりに、基礎重視の音楽学校の創設、という功績につながり、少数の天才音楽家を育てるのではなく、子供から大人まで、音楽の楽しさを身体で覚える、という、音楽に対するご自分の思いを体現化したメソッドを確立できたのではないか、とも感じられる。彼女が「音楽」に対する理解やそれに基づく練習方などを語った(音大受験に典型的なレッスンメソッドを柔らかい言葉で酷評している)、ソルフェージスクールの章と終章、「ヴァイオリンとともに」が、一番心に残った。ここの部分だけでもウチの子に読ませたい。