紙の本
文明vs伝統
2000/12/19 23:55
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投稿者:ちゃぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
テラフォーミングされた小惑星『キリンヤガ』。アフリカの大地が余すところなく再現されたこの小惑星に住むのは絶滅寸前の民族・キクユ族。西洋文明の侵略からキクユの純血と伝統を守るため、日々奮闘する老祈祷師コリバを主人公にした連作短編集。
この作品に描かれるのはずばり、文明vs伝統。筆致は単純にして明解。西洋文明に犯されたアフリカ人を『黒いヨーロッパ人』と呼び、徹底的に情報を統制して民族主義に邁進するコリバ達の姿は、どこかの民族主義を掲げた独裁者を思い起こさせる。これは文明と科学を拒否し、伝統と調和に回帰しようとするある民族の辿った物語だ。
では、民族主義万歳のお話かというとそうでもない。民族主義者ばかりだった第一世代の時代は何事もなく過ぎるものの、第二世代、第三世代と世代交代が進むにつれ、コリバは悪戦苦闘を強いられる。著者はそんなコリバとキリンヤガを高みから見下ろしながら、その全てを笑い飛ばす。結局、ユートピア小惑星キリンヤガも文明の侵略に抗うことはできず、民族主義者達の夢は文字通り夢と終わる。夢破れ自らの非力を悟ったコリバは、自らを老いた巨象に例えるのだった。
『古い伝統と文化を守ることが、飢餓や疫病で失われる生命と多くの人間を犠牲にすることの言い訳になるのか?』
歴史も人間の営みも、進むべきところへ進み辿り着くべきところへ辿り着く。誰も時間を逆に進めることはできない。
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ユートピアの矛盾を一身に受け止めた、夢を追う老人の話。
知識への憧れゆえに矛盾を背負ってしまった少女の「空を見た少女」は辛くて美しい稀な話。
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小惑星を地球化してそこにアフリカの部族キクユ族の伝統的な世界を守るユートピアを作ろうとする老人コリバの話。
かたくなに自分の導く人々に西洋文明に触れるなというコリバは妄執にかられた頑固爺にも見えますが。
結局、ユートピアを追われ、それでもなおコリバはキクユ族であることを捨てず自分の神を捨てないのです。
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Sai-fiというカテゴリで括ってしまうのは非常に惜しい。科学と伝統。伸張と停滞。「空にふれた少女」はぜひお勧めしたい一作。
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●あとがきで著者が自慢たらしくこの作品の受賞リストを並べ立ててるのがムカツク。苦笑。や、もしかして、あの受賞リストは逆説的な照れ隠し?
そんな匂いはしなかったけど。●私としては、語り手である老人が、欧米社会の最高学府で博士号を持っていると言う点に、微妙な引っかかりを感じました。
そう言う経歴を持つ人間が、キリンヤガ(=この物語の舞台となる人工惑星世界)におけるスベシャリスト=祈祷師である、と言う設定に、結局は作者の欧米的な知識を上とするような姿勢が透けて見えるような見えないような。
●・・・不愉快な結論に辿り着きかねないので、これ以上は突き詰めないようにします。
よく出来てるし、『空にふれた少女』とか悪い話じゃないんだけどねー。
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オムニバス長編。
絶滅に瀕したアフリカの種族・キクユ族のために設立されたユートピア惑星・キリンヤガ。この地を守る祈祷師コリバの孤独な闘いの物語。
読み応え十分です。読み終わった後、しばらく動けなかった。絶望の中の希望を探し求める物語だと思う。
好きなのはやっぱ『空にふれた少女』。
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文明が進むってどういうことなのか、伝統を守るってどういうことなのか、自分のルーツ、アイデンテティとは・・・考えさせられた話。
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読み直し。
「一角獣をさがせ!」「ソウルイーターを追え」「サンティエゴ」「パラダイス」「アイヴォリー」と読みなおす。
数年に一度、この順で読み直しているらしい。
いつも最初は「一角獣」から。
ファンタジー分が足りなくなると「一角獣」を読むようだ。
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伝統と発展の間でユートピア、アイデンティティを考える。
ジレンマに陥ってとるべき道が分かれるときに
ワタシタチガ何を選択すべきか、悩みなさい・ぶつかりなさい
従いなさい、離脱せざるを得ないのです。
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人間っていう種はほんとにしようもないもんだなぁと納得させられる小説です。まったくの振り出しから始めて、理想の社会を築こうとしても人間の「業」がそれを許さないんだなぁ。
そしてそれでも営まれていく日々。苦い日々なのか、納得の日々なのか。それでも人は生き続ける…。
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黒いヨーロッパに成り果てた故郷ケニアを捨て、ヨーロッパ以前の原始的な暮らしを理想とするユートピア惑星キリンヤガに移住した祈祷師コリバ。
しかしコリバがかくあるべき理想郷を守ろうとすればするほど大事なものは失われていく・・・じわっと苦い読後感でした。
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一気読み本でした。すごく質の高い本。
質が高いので、一気に読みは整理がつかず頭がこんがらがりました。
「こんがらがるだろうな・・」「一つ一つじっくりテーマを掴み取ってから次を読みたいな・・」と思いつつも、1つの章を読んだらまた次の章も、次の章も・・とずるりずるり読んでしまった。
コリバの奮闘ぶりに感激!すごい頑固ですごい忍耐力に、巧みな言葉の数々。
ユートピアを作るまでの事はしても、それを維持する為に人々への努力がすごい。生々しい。自分はあんな状況に追い込まれたら、あんな返答や態度はとれません。すごいなぁ。。
空にふれた少女、ロートスと槍、ささやかな知識、がすきです。。
ずっと大事にしていきたいな。いい本です。
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SFというより文学?
読者に様様な問いを投げかけてくる作品。ただしミステリのように正解があるわけではなく、むしろ作中人物の葛藤や煩悶への共感といったものを喚起する。読後の余韻も楽しめる
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初めて読んだ時、空に触れた少女の話でゾクゾクした。
二度目に読んだ時、やはりこみあげるものがあった。
忘れ去られた自分たちの文明と文化を取り戻そうとする老人と、
時の流れの中でそれぞれの自我を芽生えさせて発明していく人々。
変わりゆく文化・文明、時代。どんなに良いものも、悪いものも、決して留まったりはしない、永遠ではないのだと感じさせる。
何度も読んで、その都度色々な発見ができるだろう傑作。
是非ご一読あれ。
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寓意に満ちたオムニバス長編SF。絶滅に瀕したアフリカの種族・キクユ族は自らのユートピアを築くため小惑星・キリンヤガに移住する。文明社会で教育を受けたコリバは祈祷師として、その楽園を護るため孤軍奮闘するのだが・・・。
伝統的社会と文明、村と個人、理想と現実等、様々な対立や問題がコリバの語る寓話やキリンヤガでの出来事を通じて読者に問いかけられ、深い余韻を残す。
卑怯だなと思いつつも、「空にふれた少女」はやっぱり素晴らしい。