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紙の本
大好きな名作を力いっぱい語るということ
2002/12/21 01:55
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投稿者:じゃりン子@チエ - この投稿者のレビュー一覧を見る
うわああ…。もう書評書くの止めようと思いました。思わされました。ほら、bk1ポイントが欲しいからとか、エライ人をけなすことで優越感にひたりたいとか、そういう気持ちで書評書いてちゃあかんですよ、自分。心血をそそぎ込もうとか言う気はないけど、書評書いてるその一瞬ぐらいは、作り手の気合いに報いるくらいの集中力を駆使しよう!と、そういう風に考えさせられました。えれえ本ですよ、こいつは。
枡野浩一、特殊歌人兼ライター兼南Q太の夫。彼のすごさは短歌を読むことでもすぐに感じ取れますが、ライターとしての仕事も半端じゃなくすごい。なにがすごいってこの人には面白いものを面白いという力があるのです。「当たり前でしょ」って、それが結構当たり前じゃあないんですよ。だって、自分がよくよく知っていて、頭の中で体系化していて、理屈のつけられるものじゃないと説得力のある文章書けないじゃないですか! いや、そりゃ私は趣味の書評者ですけどね。プロだって評者と呼ばれる人たちはそういう専門性で勝負しているのではないでしょうか。専門外のものの「面白さ」を自らの言葉で語る。そりゃもう一筋縄ではいかない作業です。そんなことを念頭に置いてラインナップを見直すと…北野武、三原順、大人計画、ブリリアント・グリーン、永井均、銀色夏生、内田かずひろ…。この節操のなさだけでもすごいです。
多岐に渡るジャンルを語るにあたって、枡野浩一は一つ、彼にしかできない批評の方法をとりました。それが、「名作の短歌化」。
私は以前、萩尾望都がブラッドベリをマンガ化したの受けて、その挑戦の意と緊張感を「他流試合」と表現しました。それにならって表現すると、枡野浩一の挑戦には何だか「道場やぶり」を思わせる無謀さが漂っています。まえがきにはこんな言葉が残されています。
「あまりの努力とむくわれなさに、ついに力つき、連載を自分から申し出て別の企画に変えてもらったりもしました」。
そうでしょうね。だってこれだけ選び抜かれた言葉による批評を書いて、さらに自作短歌をプラスするなんてむくわれないこと必須でしょう。でも枡野さん、(何となく“さん”付け)私はあなたの批評で泣けます。本当は泣いてないけど、泣かせるくらいの情熱が伝わってきます。でも、情熱を大声で叫ぶようなことはしない。冷静にマンツーマンで対象に向き合う。インスパイアなんて言葉に逃げずに、「原作より面白い短歌作品が作れるはず」と(最初のうちは)思って戦う。326も銀色夏生も全然好意的には感じていなかった私ですが、くだらない先入観に支配されずにもっとしっかり対象に向き合おう!と思わされました。というか薄々感じていたことですが相田みつをや326が嫌いな私たちは結局彼らが売れているのが妬ましいだけなのかもしれません。
話がずれました。最後にちょっとだけ、枡野浩一のすごさを一番分かりやすいかたちで伝えるために、この企画から生まれた短歌を書き残しておきます。
「まだ何も始めちゃいない俺たちに あしたがあるというおそろしさ」
「馬鹿中の馬鹿に向かって馬鹿馬鹿と 怒った俺は馬鹿以下の馬鹿」
「バラ色の未来のために フラスコの中で生まれた灰色のバラ」
もう一言だけ。枡野さんあなたのむくわれなさは、私の中でしっかり身の引き締まるような幸福感に変わってます。ありがとうございました。
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