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私は2007年から2008年頃にシンガーの本を断続的に読んでいた。(『ヒューマンライツ』の2007年2月号で「アイザック・B・シンガーの本」を書いている。)ほとんどは図書館で借りて読んだが、『お話を運んだ馬』は、その頃に買った一冊(買いたくてももう手に入らない本もあった)。
『よろこびの日』を読んだら、やはりこの本も読みたくなって、しみじみ楽しむ。
本屋の年寄り、レブ・ツェブルンから、お話ずきのナフタリが聞いた話。
▼「人間の頭というものは、実は、こしらえごとには向かないんだ。物語を読むと、ときには、とても信じられないことに出っくわす、ところが、わしがどこかへ行って人の話に聞くと、それとそっくりのことが、ほんとうに起こっていたりする。頭は、神さまがお作りになった、だから人間の考えること、空想すること、すべて神さまの業なのさ。夢にしたって神さまからくる。あることが、きょう起こらなくとも、あすは起こるかもしれない。ある国では起こらなくとも、別の国で起こりうる。宇宙には数えきれない世界があって、地球では起こらないことが、よその世界では起こりうる。見る目があり、聞く耳をもつ人は、だれでも一生、語りつくせぬほどの、子どもや孫に聞かせきれないほどの話を自分に取りいれるものだよ」(pp.19-20)
「いちにちが終わると、もう、それはそこにない。いったい、なにが残る。話のほかには残らんのだ。もしも話が語られたり、本が書かれたりしなければ、人間は動物のように生きることになる、その日その日のためだけにな」(p/21)
「きょう、わしたちは生きている、しかしあしたになったら、きょうという日は物語に変わる。世界ぜんたいが、人間の生活のすべてが、ひとつの長い物語なのさ」 (p.21)
シンガーが、無惨に失われたユダヤ人の物語を書きとめようとした動機は、このツェブルンがナフタリに語った話のうちにあるなあと思う。
あんぽんたんばかりが住むまち、シュレミールを描いた話もなんべん読んでもおもしろい。
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ワルシャワ在住ユダヤ人著者による短編集。不思議でゆかいなお話が多く、「ダルフンカ」は思わず笑う。自伝的な話がいくつかあり、語り口は優しいけれど宗教的要素も強いのでちょっと難しめ。やはり高学年向け。
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愛馬スウスと町や村をまわって、子どもたちに物語の楽しさを伝えるナフタリはお話の名手。
この表題作をはじめ、いくつかの作品は文学に魅せられて育った作者の姿を彷彿とさせる。
ユダヤに伝わる妖精ランツフのお話や、民話調のとぼけたお話など、ユダヤの伝承と作者が育ったポーランド(ワルシャワ)の雰囲気が混ざり合う。
作者の’父母きょうだいの追憶にささげます’ともある、このあたたかな短編集には独特の味わいがある。
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「ぼんやりさん」っていい表現ですね。
ぼんやりさんには、ぼんやりさんが良く似合う。
周りはすごく大変そうだけど、でも憎めなくて、癒される。
とても幸せそうなぼんやりさん夫婦。
すごく素敵です。
わたしも、お話を語れるような人間になれたらいいなぁ。
でも、語れなくても、図書館という場を通じて、皆さんにお話を、本を、お届けできることを、とても幸せに感じています。
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愛馬とともに、村や町をめぐってお話を子どもたちに届けるナフタリは作者の姿そのものなんですね。読んでいて胸が熱くなりました。
ヘルムのとんちとまぬけな鯉、レメルとツィパは間抜けな人々が主人公なんだけど、読み終わった後笑いもあるけど心も温かくなう気がして、とても好きなお話です。
かたい規律で暮らしてきたユダヤの人たちの様子が少し垣間見れる気持ちになります。
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世界にはおもしろいお話があふれている。
ちょっとばかばかしすぎやしないかと思ってしまうところもあるけれど人間ってそんなもんだよなあ、と安心してしまうかも。やさしいお話の中に大切なことがさりげなく挟まれていて得した気分。
こういう世界観を持っているのがユダヤの人なの?
世界は楽しくなると思うよ。
ポーランドはワルシャワ生まれ、ユダヤ系アメリカ人、ノーベル文学賞受賞。
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愚かな夫婦の話に泣きました。こういう生き方はできないもんか。それにしても、現代は、こすっからい人間ばかりが幅を利かして嫌な世の中だ。
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なんと緻密な文章と、ユーモアと、愛の詰まったお話しだことー!!! 「お話の名手ナフタリンと愛馬スウスの物語」の後に、まるでそのナフタリが話して聞かせたかのような、素敵なおかしなお話がいくつか続いていく。
「ダルフンカ」「ヘルムのとんちきとまぬけな鯉」「レメルとツィパ」は、ヘルムという、ポーランドでは、とんま(おかしな人たち)ばかりが暮らすという町での、おかしなお話をつづったもの。「ヤギと少年」でも、こんな話がたくさんあって、とっても面白い。こどもが喜びそう。でも、ちゃんと愛がある。
「ランツフ」
伯母さんが子どもたちにお話を聞かせる。
自分の子供時代に不思議な存在だった妖精、小鬼のランツフが、家を去る夜に、姉さんのおでこにキスをして去っていった。すると、ひざ掛けの上に子どもたちが大好きな、焼きたてのアーモンドケーキがおいてあった。。
お話はそこから始まる。
ある、つましい教師の家で暮らす母と娘。主の教師が急に亡くなってしまい、働き手がなくなり、皆が施設に入るのだろうと思っていた。ところが、働き手の無いはずのこの家で、母娘は暮らしている。ついに母も死に、盲目の娘だけが残る。娘いわく、親切な誰かが、いつも私たちの暮らしを助けてくれていたと。
そらは、どうやらランツフの仕業だったんだね。
と。
「ワルシャワのハヌカ前夜」
素晴らしく美しい描写に満ちたお話し。これもシンガーの子供時代そのもの。学校に馴染めない、そして、母の世話焼きが恥ずかしいと思い始める少年時代。大好きなユダヤの祝祭日である、ハヌカの思い出。
先生に送ってもらわず、初めて1人で帰る夕方、物思いにふけり、ぼうっとショーウィンドウを眺めていたせいで、
大雪になってしまう。雪の中転びながら走っている。道に迷ったのだが、迷ったということを家族や先生に知られたくない、そんな少年の思いが生き生きと描かれている。助けてもらった男の人に嘘をついたりした挙句、母に見つかり、母だけには「お前、まいごになったんだろ」とバレバレwそれでもそんな馬鹿な子が愛おしいんだという、愛に充ちたおはなし。
「自分はネコだと思っていた犬と…」
これが私は一番大好き。
貧しいヤン・スキバ一家に鏡がやって来て、その鏡のせいで一家が大変なことになる。三人娘はお互いにそれぞれの器量の悪さを褒めあっていたのに、やれ自分の鼻が気に入らないだの、前歯がないだのと、自分の容姿がきにいらない。仲良しだった犬とネコも、自分はお互い相手と同じだと思っていたのに、鏡には見たことも無い自分が写っていて、取っ組み合いの大喧嘩に…
そこでスキバの父さんが言うセリフが素晴らしく、うっとりしてしまいました。
「自分を見たから何だというのだ」
「見るものはいくらでもあるじゃないか。空や太陽、月や星がある。大地がある、森も草原も川も木や草花もある」
いいなぁ。
それにしても、こんなポーランドのお話し、今の子たちには馴染みがないだろうなぁ。こんなの読める子、凄いよなぁ。
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_いちにちが終わると、もう、そこにそれはない。いったい、なにが残る。話のほかには残らんのだ_
『お話の名手ナフタリと愛馬スウスの物語』の中で、本屋レブ・ツェブルンは言います。お話が語られたり本が書かれたりしなければ、人間はその日その日のためだけに動物のように生きることになる・・・
幼い頃からお話を聞くのが大好きだったナフタリは、お話を、書くことや語ることで人々に届けることに生涯を捧げ、スウスはそんな彼と寄り添って幸せな一生を送ります。ほんとうに、最後まで。いいえ、永遠に。なんて深くて、静かで、大きな愛と信頼。
ほかにも、ユダヤの素朴な暮らしと旧約聖書の世界観が満載のエキゾチックなおはなしなど全部で8篇。パーフェクトに面白い短編集でした。
ポーランド移民としてアメリカに暮らしたシンガーが、東欧のユダヤの言語イディシ語にて小説を書き始めた背景にも胸がふるえます。1945年なのです。
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最初のナフタリの話しに泣けてしまう。物語に生涯をかけるなんて。それが報われるなんて。
全体的にしみじみと心に染みてくる。こんな素朴な短編集は初めてだ。機知に富むとはこういう物語たちを言うのではないだろうか。
鏡の話も深い。自分ばかりを見つめて何になろう。
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言葉にならない感動を今、味わっています。おすすめの本は?と聞かれたら、きっと、シンガーを紹介するでしょう。「良い物語を読んだなぁ。。」と、深く、満ち足りた気持ちにさせてくれる稀有な一冊だと思います。特に最初の「おはなしの名手ナフタリ」を読み終えた時は、「たったこれだけのページ数で、これだけの物語を描くとは。。』と、感服致しました。シンガー作品に出逢えたこと、そのこと自体に幸せと喜びを感じます。
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ナフタリは、本屋のレブ・ツェブルンの話に耳を傾け、二つの決心をした。一つ、大きくなったら、そこらじゅうの都会や町や村を旅して回り、どこででもお話の本を売ってあげること。二つ、自分がお話の本を書く人になること。ナフタリは、愛馬スウスと共に町や村をまわり、子どもたちに物語の楽しさを伝え歩く。
「お話の名手ナフタリと愛馬スウスの物語」の他7編を収録。とんまの町「ヘルム」のお話がすごくおもしろかったなあ。声を出して笑った。どのお話も、ユーモアと愛に溢れた素敵な作品だった。