紙の本
主題は自己・自我についての哲学的考察そのものだと感じた
2021/03/28 09:48
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投稿者:大阪の北国ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
短編集とは言え一作一作が重量級の含蓄に富む作品群でじっくり読む必要があるし、内容は難解とも思う。
近未来の分子生物学の発展において人間のコピーが作れるようになった時に、また身体が機械だったり脳とは別の持ち主だった場合に、何を持って「自分」とするのか という重い問いが投げかけられる。ジャンルはSFなのだろうが、内容は哲学そのものである。自己・自我とは何か、そして神とは何か。分子レベルの生物的操作が行われる現代において、もはや遠い未来ではなく、すぐ先に起こりうるテーマと思える。「フランケンシュタインの脳における思考はどうなっているのか」を追究するような話である。
読了して、SF作品でこれほど考えさせられた本は今までになかった。
この短編集ではやや他と違うテーマだが、私には人類の母親を求めていく「ミトコンドリア・イヴ」が面白かった。
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新感覚SF、これは科学?それとも宗教?
2002/01/13 23:24
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投稿者:しょいかごねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
なにかこう、非常に妙な気分になるSFである。なんかちょっと今までになかったタイプのSFと言う意味でも、特筆すべき短編集である。
なんというか、SFという手法を使ってはいるのだけれど、解決すべき問題はなにか別のような。いや、こういう表現だったらこれまでにもそういったSFはたくさんあったはずなんだけれど、この本はどこかベクトルが違うような。もしかしたら宗教と言う言葉が一番近いかもしれない。
もっとも重要な作品は「祈りの海」を含む最後の2編だと思うけれど、個人的には冒頭の「貸金庫」という作品が好きです。人間の生命と言うものの幅を巧みな想像力で広げて、医療関係者らしい愛情をもって描いている。
ごちゃごちゃ言ったけどとにかく面白い。一度読んで損はないと思う。
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静かな夜明けのような読後感
2001/03/03 11:05
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投稿者:桐矢 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヒュ—ゴー賞・ローカス賞受賞の中・短編集。
バックアップ用の宝石を頭の中に持つようになった人類の話、はるか遠くの惑星に暮らす人類の話、仮想現実における人類の可能性の話。多彩な11篇が収録されているが、前半の短編と後半の中編では、カラーが違うように思える。
短編は、奇想天外な設定に頭がぐるぐるするようなアイデア、そしてきっちり落ちが用意されている。それに対し中編は、はっきりした落ちがない。うねるような流れにページをめくっているうちにその世界観にどっぷり漬かってしまう。ずっしりと重量のある長編を読み終えた気分になる。だが長編といっても『宇宙消失』のめくるめくようなトリッキーな感じとも違う。
どちらにしろ共通しているのは、「自分とは何者か」という永遠に答えのない問いかけがテーマになっているという点だ。
帯の文句通り、ここにSFの可能性と未来を見たような気がする。
紙の本
「自分」への疑いが読者を巻き込む
2001/01/08 19:23
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投稿者:OK - この投稿者のレビュー一覧を見る
なかなか粒揃いの好短編集。印象に残っているのは「貸金庫」(これを冒頭に持ってきているのはとてもよくわかる)「ぼくになることを」「誘拐」「無限の暗殺者」あたり。
収録作がどれも一人称叙述の小説なのが、「自分」の認識をつねに疑う作風のひとらしい。作中の問題は必ずこの「語り手」を切実な当事者として巻き込みながら展開していく。基本的にどの作品もSFならではの切り口で、たえず「自分の認識」や「自由な意思決定」の臨界点を問いかけるような哲学的で普遍的なたとえ話になっているから、たとえ僕みたいな門外漢の読者でも充分に興味深く、自分にはねかえってくるような意識で読み進めることができる。
あえていえば『宇宙消失』のような尖鋭さやねじくれた論理世界の暴走する魅力なんかはさほど感じられなかったけれど、読みやすいし初めての人に薦めるのには適していると思う。
from: http://www.geocities.co.jp/Bookend/1079/
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限りなく五つ星に近いのだが、『ひとりっ子』と比較した時に、こっちの方が少し印象度で劣る。『ルミナス』が収録されている分の差とも言えるが。
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グレッグ・イーガンはかなり好きです。精神世界に近いものがあると思う。特にこの短編集は、素晴らしいです。
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「貸金庫」目が覚めると違う人がいて、違う人たちが違う名で私を呼ぶ。
それが数人でも、数百人でも、赤ん坊に区別はつかない。
これをフィクションとして読めた人は幸福です。
グレッグ・イ―ガンはアイデンティティをテーマに書く作家だから、ことごとくトリガーに触れてきます。
親という役目をする人たちがいるのだと理解したと文中にあるように、兄も私も、子どもを養うものという役目の人がいるのだと理解しました。
親と言う言葉が理解できたのは、兄は小学校高学年、私は中学生になってからです。
それぞれが違う呼び名をし、それぞれが違う要求をし、時に嵐が起き、時に平穏がすぎ、その中でアイデンティティをどう保つのか。
私は二十代で、よりどころとなるアイデンティティを失った青年の話を書きました。当時はまだ、無自覚だったのでそういう客観視ができたのです。
今は駄目。
今から創らなきゃいけない時期。
トリガー読書禁止なのに、どうしてこう当たりをあててしまうのかな。しかも、そういうものでないと、頭に入ってこないのはどういうことかな。
だけど、何とか治まってます。少しは進歩があるのだと自分で思いたいです。
力のある作者です。ただ、面白いかどうかは今のわたしには判断できません。
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文明が発達した未来社会。
肉体や魂の存在すらも限りなく物質化・経済化された世界における人間の生を描く短編集。
SF小説としてはかなりオススメ。
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「無限の暗殺者」が試読に最適。
イーガンを知らない人は立ち読みでもなんでもさっと目を通してみるとよい。
世界がどんどん崩壊してく派手な演出。
追っているはずなのにいつの間にか追い詰められているというプロットも短編に適している。
あ〜なるほど、並行宇宙をそういうふうに使うのか、と一発でわかる。
イーガンの多用するテーマの一つ、多世界解釈モノの入門編。
宇宙消失の様な長編にいきなり手を出して、拡散・収縮の話とかで躓いてしまうと読了すら危うい(それこそイーガンを楽しめなかった世界の自分になってしまう)。こういうワンアイデアの短編をいつくか読んで、好みに合うかどうか探っていくのが大人のやり方かと。
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貸金庫
キューティ
ぼくになることを
繭
百光年ダイアリー
誘拐
放浪者の軌道
ミトコンドリア・イヴ
無限の暗殺者
イェユーカ
祈りの海
解説 瀬名秀明
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イーガン作品は美しいです。深い余韻が残ります。短編集なので読みやすいけど、SF初心者には少しきついかもです。
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SF短編集。SFではあるけどメインテーマはアイデンティティかな。
とにかく巧みなアイディアに驚かされるけど、ちょっと取っつきづらい文章なのでハードSFに慣れてる人向けかも。そこを乗り越えれば面白いよ!
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初イーガン。難しいけど面白かった。表題作「祈りの海」がすごい。科学と宗教の折り合いはいつの時代もつきにくいんでしょうね…。「貸金庫」「キューティ」も印象深かったです。
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90年代以降では最高のハードSF作家のひとり、としてその筋ではつとに名高い作家の短編集です。90年代以降のSFは短編集の拾い読みぐらいしか体験したことのない鴨、どんだけトンガった作風なんだろうと心してページを開いたら、意外にも淡々として優等生風のイメージでちょっと拍子抜けしましたヽ( ´ー`)ノ最新の科学理論を生身の人間の日常レベルに溶け込ませて新たな視点を提供するのが、この人の作品の特徴のようです。科学理論なくして物語が成立しない点では明らかにハードSFでありつつも、物語の主眼はあくまでも人間ドラマ。がちがちのSFというよりも、昔ながらのアイデア・ストーリーといった方がしっくり来るかもしれません。
もう一つの特徴は、収められている短編のほぼ全てが「アイデンティティ」をテーマとしていること。冒頭の「観測される自己」とは、解説文を寄せている瀬名秀明氏がイーガンSFの共通テーマとして挙げている言葉です。実に言い得て妙な表現です。ストーリーの終盤でも明確なオチはなく、読者を突き放して考えさせるようなラストが多いです。イーガン本人のテーマでもあるんでしょうか。
鴨的に印象に残った作品は、「キューティ」「繭」「放浪者の軌道」「無限の暗殺者」あたりかなぁ。「キューティ」の主人公の気色悪さはSF史上に残るかもしれない(^_^;「繭」は「こういう視点でもSFが書けるんだ」という新鮮な驚き、「放浪者の軌道」は世にはびこる宗教の本質を突いた鋭さがそれぞれ印象的でした。「無限の暗殺者」はよくある多元宇宙ものではあるんですが、ここまで多元宇宙をダイナミックに描いた作品はなかなかないと思います。
でも何よりもインパクトがあったのは、登場する男性キャラの壮絶なまでの情けなさですね(笑)偶然の一致なのかイーガンが狙ってるのか、何故か女に振り回されて(しかも惚れ込んだ女でもなくただ惰性で付き合っている程度の女ヽ( ´ー`)ノ)自分では「やばい」と自覚しつつもずるずると自滅していくパターンの主人公が何と多いことか。ひょっとしてイーガン自身もそうなのかヽ( ´ー`)ノ人間ドラマに重きを置いている分、この情けなさがまたイヤにリアリティがあって尾を引くんですよ。最たる者が、「キューティ」の主人公です。ここまでくると、情けないのを通り越して腹立ってきますね。
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イーガンさんの短編です。
キューティを読むたび、
肉体は弱いもので魂だげ不滅だ
っていう某映画の台詞が頭に浮かぶ。
しかしながら、人間というやつは魂だけでは触れ合えなくてイレモノも必要なんです。
だから貸し金庫の主人公は自分自身について彷徨い続ける。
この人の物語からはプラトニック過ぎるというか、バカ正直すぎるものが詰まっている。数学者のさだめなのかな?