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紙の本
龍の真相
2001/06/19 20:59
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:高杉親知 - この投稿者のレビュー一覧を見る
龍は中国文化で最重要の神話的存在であり、皇帝の象徴であった。果たして龍のイメージはどこから来たのだろうか。「ワニと龍」は古代中国の隠された文化史を生物学・気象学の視点で解き明かす非常にわくわくさせる本だ。著者はワニの専門家で、書名が示すとおり、龍とは古代中国に生息していたマチカネワニ(学名 Toyotamaphimeia machikanensis)だったのである。気候が温暖な頃の生息地の北限は漢水だったらしい。約三千年前に気候が寒冷化した時に、黄河を中心とする当時の中国文明の領域から消え去ったため、その真の姿が忘れられて神話化され、人々の想像力をかき立てる存在となったのだ。本書によれば、その後再び温暖化した時にワニが戻ってきたが、既に龍を神獣としていた古代中国人は、ワニを新たに蛟と名付けたという。再び寒冷化して消え去ると、蛟もまた神獣となった。マチカネワニは最終的に明代に絶滅したらしい。
字書を繰ると確かに古代中国の生態系は現代と異なっていたことが分かる。例えば古代中国では象狩りが行われていたことが知られている。またこれは私も気付いていたのだが、古代中国にはサイも住んでいた。ただし現在の犀という字ではなく、凹の下に儿という字(読みはジ)で表されていた。このように字の交代があることは、古代中国の気候変動を表している。古代中国文化を探るのは今まで文献や遺物を調べるのが従来の手法だったが、それらでは分からない真実をこのように生物学が出せるとは想像していなかった。実りある成果を是非読んで欲しい。
本書の後半はワニに関する話で、龍とは関係ない。ワニの分類の話になったり、著者の子供時代の話になったりと一貫性が無いが、なかなか面白い。
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