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蜂と言われて思い浮かべるのは、蜂蜜を作るミツバチだろうか? それとも初秋に山などで人が襲われてニュースになる、獰猛なスズメバチだろうか?
ミツバチとスズメバチは日本語では同じ「蜂」のくくりになるが、英語だとミツバチは(honey)bee、スズメバチはwaspとなる。前者はハナバチの仲間、後者はカリバチの仲間である。ごくごく大雑把に言えば、ハナバチは草食系で花粉や蜜を食べ、カリバチは肉食系で他の昆虫を狩る。
蜂は、女王蜂を中心としてワーカーが幼虫を育てる社会性昆虫として知られる(蟻も同様に女王を中心としたコロニーを作るが、蟻は広い意味で蜂の仲間である)。しかし、蜂の生活様式は意外に多様で、皆が皆、集団生活をしているわけではなく、実のところ、独居性のものがほとんどだという。
本書の主題はアシナガバチである。スズメバチ同様、カリバチの仲間であるが、スズメバチに関しては、かなり詳しい本が出ているのに比べて、アシナガバチについてまとめた本はあまりないという。これはスズメバチの方が、襲われると害が大きく、巣の駆除などで、一般の人と関係する部分が多いからと見られる。
本書は狭義のアシナガバチ(アシナガバチ亜科)に的を絞り、意外に多様な生態と、その背後にほの見える社会性の進化を探っていく、一般向けの本である。一般向けとはいえ、発行が大学出版会なので、蜂研究の結構突っ込んだ話も盛り込まれている。
世界のアシナガバチの幅広さは驚異的である。
蜂の針の元は何か、ご存じだろうか。産卵管である(だから雄蜂は針を持たない)。
初期の蜂は草食系だったが、何らかのきっかけで、他の昆虫の幼虫の体内に産卵管を刺して産卵するものが現れた。寄生蜂である。この時点ではまだ巣は作らない。
そのうちに、獲物を麻酔によって捕らえるものが出てきた。これにより、産卵管は麻酔専用の針に添加し、卵は別の出口から産まれるようになったという。カリバチの誕生である。
穴を掘って、狩った獲物を埋め、卵を産み付ける、というのが、カリバチの1つのあり方である。穴を1つ掘り、獲物も1匹という蜂もいれば、枝分かれした穴を作り、小部屋にそれぞれ獲物を置くという蜂もいる。後者の巣は蟻にもよく似ている。
アシナガバチの仲間は、社会性の進化を考えるうえでも興味深いようである。種によって、一人で子育てをする女王蜂もいれば、複数の雌が集まるけれども優位性に差があって子どもを生むのは1匹という場合もあり、また巨大なコロニーを形成し産卵する雌も多い場合もある。どの子育て様式を採るか、おそらくその種にとって最も都合のよいものが選ばれていると見られる。日本のアシナガバチは、女王蜂1匹の単独コロニーを作る。
巣の形状もまたさまざまで、日本でよく見られる、柄の先に電灯のようにぶら下がるもの、円板状に広がるもの、細長く連なったもの、外殻のあるものなどがある。材料も泥であったり、植物線維であったり、パルプ様のものであったり、さまざまで、用途に合わせて使い分ける。
熱帯では特に多様な生態のものが見られるが、日本を含む温帯では、季節の制約があり、��まり大きなコロニーを作るものは見られない。多くの巣は1年限りの使い捨てである。
熱帯でさまざまな進化を遂げたもののうち、温帯の条件にも適合するものが広がってきたと考えられる。
写真も多く、中程にはカラー写真もある。虫がお嫌いな向きにはお薦めできないが、ブラジルの廃屋に出来た巨大な巣は見物である。
アシナガバチ、なかなか奥深い。