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権威主義的家族:ドイツ、日本/自民族中心的権威主義
絶対核家族:イングランド/自由主義的個人主義
平等主義的核家族:北フランス/平等主義的個人主義
外婚制共同体家族:ロシア、中国、北インド/共産主義
アミンー的家族:タイ、中央アメリカ/?
内婚制共同体家族:アラブ圏/イスラム
非対称共同体家族:タミル、ケララ/カースト制+共産主義
近代化:?識字化?脱キリスト教化?工業化?受胎調節
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社会ごとの家族構造と政治制度の関連を分析したトッドの講演、討論会、対談を集めたもの。2001年発行なのでやや古いが、石崎氏の解説が要領よくまとめられていて、トッドの学説を手軽に学ぶにはいい。
伝統的な農民社会が近代化する際に関わるモデルを提供するもの。
システム間の統計的な関係を示唆するもので、個人レベルでの拘束力を意味しない。
近代化による工業社会への移行に伴って、長子相続を維持する必然性が薄れるなど、家族制度も変わっていく。
・直系家族
子どものうちの跡取りが親の家に残り、すべての遺産を相続する。
親子関係は権威主義的で、兄弟関係は不平等。
他の子供は成人すると家を出て、僧侶、兵士、商人などの生活の場を見つける。世界的に傭兵を産出する傾向がある。
家の継続性を重視し、子どもたちを親の監視・保護下におくため、子どもの教育に熱心。
プロテスタンティズムは、絶対的な神の意志と霊の救済の不平等を内容とするもので、直系家族地域に広がった。
民族共同体を理想社会とするイデオロギーからは自民族中心主義(ナチズム)が、労働者階級を社会の主体とするイデオロギーからは社会民主主義が現れる。
経済活動の連続性、テクノロジー、市場の獲得、労働力の養成に関心を寄せるラインラント型資本主義を発展させた。
ドイツ語圏、チェコ、スウェーデンとノルウェーの大部分、アイルランド、スコットランド、ウェールズ、フランス南部(オック語地方)とイベリア半島北部、日本、朝鮮半島、チベット、ルワンダのツチ人とフツ人、カナダのケベック。
・不完全直系家族
中央ヨーロッパの直系家族と東ヨーロッパの共同体家族の境界地帯に存在する混合型。「新ヨーロッパ大全」で追加された。
ベルギー、ライン川流域、ヴェネト地方(ヴェネチア等)
ハンガリーは、半世紀の間に共産主義革命と反共産主義革命を経験した。
・平等主義核家族
子どもが成人して結婚すると家を出て独立世帯を構える。遺産は子供たちの間で平等・均等に分けられる。
親子関係は自由主義的で、兄弟関係は平等。
ラテン世界に典型的で、ローマ帝国の遺産と考えることができる。
16世紀の宗教改革が起きた際、カトリックはトリエント宗教会議において、救済の平等と人間の自由意思の観念に基づいて再編成された。
フランス革命の主導理念となった。普遍的人間の観念を生み出し、肌の色が異なる人間も受け入れるが、尺度に合わない者を非人間化する面をあわせ持つ。
民族共同体を理想社会とするイデオロギーからは自由軍国主義(ボナパルティスム、ブーランジュ主義、ド・ゴール主義)が、労働者階級を社会の主体とするイデオロギーからは無政府社会主義が現れる。
北フランス、イベリア半島の大部分、イタリア北西部と南部、ポーランド、ルーマニア、ギリシャ、エチオピア、ラテンアメリカ。
・絶対核家族
子どもが成人して結婚すると家を出て独立世帯を構える。遺産相続は遺言によって行われ、平等はあまり顧慮されない。
親子関係は自由主義的で、兄弟関係は不平等。
イ��グランドでは、古くから子どもを他家に奉公に出す制度があり、現在でも年少の頃からアルバイトをよく行う。子供の早期の独立を促すことが、産業革命が進展した要因と考えられる。
資本や労働力の移動性、個人主義、短期的な利益への執着という特徴を持った、アングロ・サクソン型資本主義を発展させた。
平等にはあまり関心を払わないため、イギリスで普通選挙が実現したのは、フランスより70年、ドイツより47年遅れた。アメリカにおいては人種差別が根強い。
民族共同体を理想社会とするイデオロギーからは自由孤立主義が、労働者階級を社会の主体とするイデオロギーからは労働党社会主義が現れる。
イングランド、オランダ、デンマーク、ノルウェー南部、フランスのブルターニュ、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ。
・アノミー的家族
子どもが結婚しても、次の子供が結婚するまで両親と一時的に同居する。最後に結婚する子どもが両親の扶養責任を負うが、子どもの自律性を重んじ、権威的ではない。外婚制核家族の変種と考えられる。
個人主義と共同体主義の間を揺れ動く。
タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、フィリピン、マレーシア、インドネシア、マダガスカル、アメリカのインディオ。
・外婚制共同体家族
息子は結婚しても親の家に住み続ける。遺産は兄弟間で平等・均等に分けられる。
親子関係は権威主義的で、兄弟関係は平等。
かつての共産圏の地理的分布と一致する。近代化によって家族が解体すると、同じように個人を統合してくれる構築物が求められ、中央集権的な制度である共産主義が引き継いだ。
民族共同体を理想社会とするイデオロギーからはファシズムが、労働者階級を社会の主体とするイデオロギーからは共産主義が現れる。
イタリア中部のトスカーナ地方、フランス中部、フィンランド、ブルガリア、旧ユーゴスラビア、ロシア、中国、ベトナム、北インド。
トスカーナは、イタリア共産党の金城湯池だった。共産圏崩壊後、直系家族のチェコや平等主義核家族のポーランドは、資本主義市場経済への適応が順調に進んでいる。
・内婚制共同体家族
同居する兄弟の子供同士(平行いとこ)が結婚する(25〜50%)。
普遍主義的人間観を産み、多民族を寛大に同化するため大帝国を築き上げる傾向がある。
アラブ・イスラム圏。
イスラムが、イベリア半島北部、アルメニア、エチオピアのキリスト教国を打ち破ることができなかったのは、家族制度の違いにあった。
・非対称共同体家族
異性の兄弟姉妹の子供同士(交叉いとこ)の結婚が優先され、母系的内婚(母の兄弟の娘との結婚)が優先される。
夫と妻の同居はまれで、兄弟と姉妹も必ずしも同居しない。
父系の内婚が禁じられる家族構造が、人間の絶対的な差異の観念を産み、カースト制の支柱になっている(北部ではカースト制に対する執着は少ない)。女性の地位が高く、それに連動して識字率が高い。
インド南部のドラヴィダ系地域。
家族構造の歴史的発展を言語学で用いられる伝播モデルで説明しているが、単純な援用のような印象を持つ。家族は生活(生計)の単位であると考えれば、農業、遊牧、商業といった社会の主産業に適した家族形態に発展したと考える方が無理がないように思う。社会の主たる産業は地域の環境の影響を受けるから、梅棹忠夫の「文明の生態史観」のような環境や産業をベースにしたモデルを用いるとどうなるかは興味がある。
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その地域の家族制度がその地域の社会・経済的な特徴やイデオロギー、歴史を作ったのだという論。単純に、かなり、面白い。知的興奮冷めやらず。