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紙の本
IShallBeReleased
2003/12/21 04:11
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投稿者:すなねずみ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「きれいな女の子との恋愛と、デューク・エリントンの音楽以外のものはみんな消えてしまえばいい」
渋谷毅さん(ジャズ・ピアニスト)の「essential ellington」というCDのライナー・ノーツに引用されていた「うたかたの日々」の一節。
その言葉は、ボリス・ヴィアンが記した「はじめに」のなかに書かれている。彼はその短い文章をこう始める。「人生では、大切なことは何ごとにかかわらず、すべてのことに対して先験的な判断を下すことである。そうすると、実際、大衆が間違っていて個人が常に正しいということがわかってくるのだ」。
ジャズ・トランペット奏者、画家、映画俳優、作家……あらゆる境界線を踏み越えながら、ひたすらに美を追求したボリス・ヴィアンの一つの頂点がこの「うたかたの日々」には映し出されている。「初めから終りまででっちあげた」「本当の話」として。
肺のなかに睡蓮が生長する奇病にかかった美少女クロエと、金持ちの美青年コランの「恋」。
人気絶頂の哲学者ジャン・ソル・パルトル(ヴィアンの妻を寝取った哲学者サルトルがモデル)に心酔して全財産をパルトル・グッズにつぎ込んでしまう<ろくでなし野郎>シックと、そんな彼を健気に愛しつづけるアリーズ。
パタフィジックな世界(pataphysics:「科学のパロディを目指すナンセンスな学問」という身も蓋もない説明がリーダーズ英和辞典には出ている。一応「アルフレッド・ジャリの造語=pataphysiqueより」とも書いてあるけれど)では、恋が「この世のものとは思えぬ」ほどに美しい、ほんとうに。
読みやすい小説とは言えないと思う。わけのわからない機械(演奏している曲に合わせたカクテルが出来上がる「ピアノ・カクテル」等々)が出てきたり、「警察の奉行」が「ポケットから呼子を出して、彼の後ろにぶら下がっているペルーの大鐘を叩いた」り……。そのバカバカしさを笑いながら読み進められればいいんだろうけど、笑うに笑えずに途中で投げ出したくなることが一再ならずあるかもしれない。
でもさ、本当の恋って……なんか、そんなもんなんじゃないかな。
「うたかたの日々(L'ECUME DES JOURS)」を読んでいると、そんな風に思えてくる。よけいなものに囲まれて生きている日々、そのなかに、とっても不似合いな感じに、でもそんなこと全く関係ないような顔をして、自分を包み込むようにして、そこにあるもの。意味に汚されていない(「ナンセンス」ってそういうことだと思う)からこそ、そんな何かを思い出させてくれる本、それが「うたかたの日々」じゃないだろうか、きっと。
I Shall Be Released.
*ちなみに利重剛監督の「クロエ」の原作が、この「うたかたの日々」。言わずもがななのかもしれないけど。