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紙の本
2002/05/20
2002/05/31 18:16
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投稿者:日経コンピュータ - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本の情報化指針を示す好著
TRONの提唱者として知られる著者が,日本の情報化の現状と課題に鋭く踏み込んだ一冊。「日本は国家として明確な情報化戦略を持つべき」とする著者の憂いが本書の端々から伝わってくる。
例えば本書では,米国の「情報スーパーハイウエイ構想」と,日本版スーパーハイウエイ構想「情報通信社会基盤プログラム」を比較している。米国の構想は「ライバルをたたきつぶしてでも,米国を世界一の強国にする」というビジョンがあったのに対して,日本は「いつでも,どこでも,だれでも豊かな情報基盤を利用できる状況を作り出す」ことを目標にしていた,と指摘する。
何という違いだろうか。米国が「目的」を明確に掲げているのに,日本は単に「手段」を示しているに過ぎない。評者は常々,この違いを苦々しく思っていたが,著者はそれを切り出し,日本の弱点を明確にしてくれている。
さらに著者は「グローバル・スタンダード」に惑わされるな,と説く。グローバル・スタンダードのほとんどが「米国スタンダード」であることは周知の事実だが,その中には日本が文化的に取り入れにくいものが少なくない。著者は「日本の文化を破壊するものさえある」と指摘する。
その代表として,著者は文字コード問題を取り上げる。現在のグローバル・スタンダードであるISO(国際標準化機構)コードの原型となったのは,米国の団体が策定した「ユニコード」である。米国は政治的に働きかけ,ISOコードとしてユニコードを採用させてしまった。この決定には,日本,中国,韓国といった漢字圏の意見は,ほとんど取り入れられていない。
その結果,どういうことになったか。日本語に限っても,漢字の異字体や旧字体が,一般に使用される字体と区別できなくなってしまった。人名など固有名詞,文学作品における旧字体なども,コンピュータ上で表現できなくなった。これは文化の破壊以外の何物でもない。
ここで中国のすごいところは,国家の情報戦略として,ユニコードの空いている部分に同コードで登録されていない文字を押し込んだ独自仕様を作り,国内での利用を義務付けたことだ。これで数万字が扱える。
ところが日本はどうだろう。国内標準のJIS(日本工業規格)コードは,わずか6879字を定義しているに過ぎない。日本で一般に使われる漢字は5万字と言われる。JIS規格は,そのうちのわずか9分の1しかカバーしておらず,それ以外の漢字は「外字」として使用者が規定している。
つまり日本には,「日本語を表記する文字」といった文化の根底にかかわるところでさえ,国家的な指針がないのだ。これで「e−Japan構想」など,成り立つのだろうかと,著者は政府の対応を危惧する。
こうした個々の議論を踏まえた上で,著者は訴える。「日本人は目を覚ますべきだ。IT,e−Japan,電子政府と言いつつ,何でも米国から買ってくるばかりではないか。マイクロプロセサ,OS,ネットワーク技術のような情報社会の根幹となる技術は自分たちで押さえなければならない」。
評者は,大いに共感した。
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